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第二十話 強すぎる小隊長

「ほ、骨の味……ごめんな、シュメルは骨は嫌だって言ってたのにな……」

 ――『とんこつラーメン』って言われて見ると骨だもんなー……完全にミスった。


「嫌じゃ、ないです。骨なのに、美味しくて、いっぱい食べれます!」

 シュメルの明るい表情に、幹斗は安堵する。

「それなら良かった!」


「新メニューの評判はどうだ!?」

 水の入った器を持つガロに尋ねられて、幹斗は頷いた。

「大好評だ! 俺としても百点、いや、百二十点はつけたい!」


「だろ!? 採掘で見つけた本を頼りに、苦労して再現したんだ!」

「地球で食べ……られてたものなのか! 凄いな!」

 ――危ねえ『地球で食べたのより美味い』って言い掛けた。


 シュメルはチャーシューをじっと見つめたあと、首をかしげた。

「幹斗、この、上に乗っているのは、なんですか?」

「チャ……肉だよ。基地のシチューにたまに入ってるやつ」


「肉……。骨に少しだけついていたのと、似た味がします」

「シュメル……骨じゃなくて肉の方がメインなんだよ……?」

 ――シュメルに、肉と骨の関係を伝えないと!


「ガロ、頼みがあるんだ。出来るだけ大きな骨付き肉を一つ、用意してくれないか」

「おう! 任せろ!」


 ガロが握りこぶしを作った時だった。

〈警戒警報! 東より所属不明機が接近中!〉

 幹斗は立ち上がる。


「悪い、骨付き肉はキャンセルだ。また近いうちに来る!」

「気をつけろよ!」

「ああ。みんな、今日の訓練は実戦形式に変更だ」


* * * * * * * * * * * * * * * *


 街の南側で停止していた四つの機体が動き出した時、幹斗はすでに街の中心部を飛んでいた。

〈みんな、準備が出来たら散開して、迎撃準備を頼む〉


〈了解〉

 冷静なクシリナの声に対して、ドルトの声は落ち着きなく響く。

〈はい! で、でも、隊長……十機はいますよ!?〉


〈うん。だから、数機はそっちに行くかもしれない。無理はしなくていい。街に近づけないようにだけしてくれ〉

〈りょ、了解です!〉


〈指揮官のくせに単独突撃するのか? ……だから操縦技術だけの小隊長は嫌だったんだ〉

 苦々しく言ったソフィアンを、クシリナが静かに制す。

〈曹長、一等兵、お前たちが、戦場での隊長を見るのは、初めてだったな。小隊長としてどれほど適任か、よく見ておけ〉


 最初の一機は、先頭を飛ぶだけの速度と、姿勢を維持する安定性があった。

 しかし、驚異的な速度で向かってくる、短刀の一撃を避けるだけの対応力はなかった。


 ――まず一機。

 幹斗が短刀を引き抜くと、敵軽量型の胸から緑のオイルが吹き上がった。

 敵機はオイルと共に砂地へと向かっていく。


 幹斗の前方へと同時に現れたのは、長剣を持つ軽量型と、長斧を構えた軽量型だった。

 長剣は構えられる前に停止する。

 長斧もまた、振り下ろされる前に固まった。


 原因は同じ。

 無装甲機の握る短刀が、機体の胸を裂いたからだ。


 二つの軽量型が落下を始めた時、最初の一機が砂を巻き上げた。

 ――三機。


 次いで現れた中量型三機が一斉に放った弾丸は、しかし無装甲機を捉えることはない。

 弾幕を張った方向は正確だった。


 ただ、射撃を始めたのが遅すぎただけだ。

 幹斗はザルをすり抜ける水のように、向かってくる弾を避けながら飛ぶ。

 

 一番西側にいた中量型がリロードを終えた瞬間に合わせて、幹斗は短刀を突き出す。

 緑のオイルを避けるように回転して、既に撃破した敵機の背後に回り込んだ。


 中装甲をまとった人差し指を、無装甲の指が押す。

 同時に発射された弾丸は、二番目に近い中量型の胸部装甲を剥がし、やがて動力部を破壊した。


 幹斗は、三番目に近い中量型が持つアサルトライフルの照準が、こちらを捉えたことを確信する。

 目前の中量型の肩を、無装甲の左手部が押し下げた。

 味方ごと撃つべきか迷ったらしき一瞬の間は、二機が射線を外れるのに十分な時間だった。


 幹斗は押し下げた反動を利用して飛躍したあと、地面と平行になりながら前進する。

 動揺をはらんだままの銃撃は、無装甲機をかすめることもできなかった。

 短刀の一撃を胸部に浴びた最後の中量型は、力なく地に堕ちた。


 ――六機目。あと四機か。最優先はランチャーのやつだな。

 最初の軽量型からかなり遅れて現れたのは、重量型が四機だった。


 最後尾を飛ぶ重量型機体は、上方から向かってきた短刀を躱すことはできなかった。

 手放されたランチャーを、幹斗は左手部で掴む。

 直後に放たれた三発のロケットが、黄色の盾を砕いた。


 幹斗は、黒い爆風を切るように抜けて、その先にある溶けた胸部へと短刀を突き立てる。

 それを引き抜いて振り返った。


 ――八機。これまでの奴らは全員Cランク以下の中級者か。

 残る二機の飛び方は、安定はしているものの、直線的過ぎた。


 ――あと二機も似たようなもんだな。小口径装備だし、みんなに任せよう。

 幹斗は上方へと角度をつけて、敵機の後を追う。


〈残りの二機がそっちに向かってる。やれるか?〉

〈了解〉

〈もう八機……。強すぎですよ、隊長〉


 幹斗は上空から見守るように、体勢を整える友軍四機と、躊躇するようにゆっくりと進む敵軍二機を眺めている。

〈落ち着いて撃破すれば大丈夫だ! 一対一でも互角くらいの相手のはずだから〉


 友軍機と敵機の距離が、中距離武器の有効射程内に入ったのを確認して、幹斗は指示を出す。

〈ソフィアンは近い方の奴を狙ってくれ! 隙がありそうなら、近接を仕掛けてもいい!〉


 ソフィアンからの返答はない。

 しかし、ソフィアンの機体の動きから、幹斗の意図自体は伝わっているように思えた。


〈クシリナ准尉とドルトは、もう一機を牽制してくれ!〉

〈了解〉

〈わかりました!〉


〈シュメルはリロードのタイミングとか、誰かが危ない時に防いでくれ!〉

〈はい!〉


 ソフィアンは、小銃を持つ機体の周囲を飛び回っている。

 ――射線は読み切れてないけど、被弾の可能性は低いな。

 撃たれるソフィアン側が銃撃を躱しているというよりも、撃つ側が照準を合わせきれていない。


 しかし、ソフィアンが使うハンドガンもまた、重装甲を破るほどの火力がない。

 何発か命中はしているものの、この調子だと、撃破までにかなりの時間が掛かりそうだ。

 それは、中級者レベルの軽量型と重量型が、中距離で対決する際の、典型的な展開だった。


 ――准尉たちはどうだろ。

 黒い盾の後ろを飛ぶクシリナとドルトの機体は、アサルトライフルを持つ重量型の装甲を順調に削っている。

 盾によって守られている分、回避に集中しなくて良いため、ソフィアンよりも高い頻度で命中していた。


 ――ただやっぱ、ドルトは良いとこ狙えてるのに、撃つ瞬間に外すんだよな。変な癖ついてんのかな。

〈ドルト、相手は防戦一方だし、落ち着いて撃って大丈夫だ!〉

〈は、はい!〉


〈……近接戦に移行する〉

 ――ソフィアンのやつ、しびれを切らしたか。そういう性格も含めて、近接向きなんだよな。

〈頑張れ! 普段通りの動きなら、大丈夫なはずだ!〉


 ソフィアンは翻弄するように不規則に飛んだ後、敵機の上を取った。

 ――そう、今だ!


 上方から突き出されたレイピアは、敵機の頭のすぐ横を通って、首の付け根へと突き刺さる。

 ソフィアンの機体のブーストが弱まったのを確認して、幹斗は声を上げた。

〈まだ、撃破出来てないぞ!〉


 敵機は細いレイピアをへし折って手繰り寄せると、ソフィアンの機体の手首を掴む。

 ほぼ同時に幹斗は声を荒げた。

〈クシリナ! 援護を!〉


 援護を行うべきクシリナは、しかしリロードを開始し始めていた。

 視線を移した先のドルトもまた、リロードの最中だ。


 幹斗はアサルトライフルを持っていたはずの敵機を見た瞬間、最大限の力でブーストペダルを踏み込む。

 ――リボルバー持ってたのか!


 有効射程が低い上に、六発の装弾数しかないその武器の利点は三つ。

 小型かつ軽量であること。

 そして、距離によっては、軽装甲を一撃で貫くその威力。


 リボルバーを構えた重量型は、照準が合った直後に引き金を引かなかった。

 おそらく、装甲が傷んだ味方の頭部に当たることを恐れたのだろう。

 そのわずかな時間に、幹斗の短刀が胸部を突いた。


 幹斗は完全に停止した敵機からリボルバーを奪って構える。

 一発目が重量型の背部の装甲を砕く。

 反動で上を向いた両腕を戻してもう一発。


 幹斗が発射したリボルバーによって撃破された最後の一機は、ソフィアンの機体を掴んだまま地へと向かう。

 手首に向けもう一発。

 ちぎれた手だけを残して、最後の敵は堕ちていった。


〈ソフィアン、敵に近接攻撃が当たった瞬間が、一番危険だ。気をつけろ〉

〈……分かった〉


 ソフィアンから返事があったことに満足した瞬間、クシリナの声が響く。

〈スナイパーを確認! 東南約七キロ!〉

〈散開しろ!〉


 幹斗の声と前後して、友軍機が急旋回する。

 その中の一つ、ドルトの機体が、クシリナの機体に接触した。

 二つの機体は、不格好に体勢を崩す。


〈一等兵! 何をやっている!?〉

〈喧嘩はあとだ、クシリナ准尉! スナイパーライフル貸してくれ〉


 幹斗は空中で受け取って、旋回しながら構える。

 七キロ先の東南には、砂煙が舞っていた。

〈……逃げられたか〉


* * * * * * * * * * * * * * * *


 幹斗は基地へと帰還し、機体から下りながら、小さくため息をつく。

 ――二つミスったな。


 一つは、敵が装備していたリボルバーを、見逃していたこと。

 もう一つは、敵のスナイパーを、取り逃がしたことだ。


 今日降り掛かった危険という意味では、前者の方が大きかった。

 しかし、今後を考えると、後者も無視できない。

 ――反省しないとな。とりあえずあとで反省会開いて、みんなで振り返ろう。


 そう考えながらゆっくりと進めていた幹斗の足は、速度を増した。

 ドルトに掴みかかるクシリナの姿を見たからだ。


「貴様、分かっているのか!? 全員を危険にさらしたんだぞ!」

「す、すみません……」


 幹斗は二人に割って入るようにして、クシリナの腕を掴んだ。

「落ち着けって、クシリナ准尉!」

「……お言葉ですが、一等兵の行動は、あまりに軽率でした。我々の機体の間を、銃弾がかすめたのです」


「……まじか。でも、二人とも無事だったんだから、そう怒るなって」

「……隊長、良いんです。俺の落ち度ですから」


 目を伏せて言ったドルトの肩を、幹斗は軽く叩いた。

「反省点があるっていうのは悪いことばっかじゃないって。俺もいくつかあるし、みんなで話し合って、今後に活かそうぜ!」

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