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第十七話 それぞれの素質

〈せっかくだし、あとの二人もどれくらい操作出来るのか見ときたい。ドルト、やれるか?〉

〈了解です! よろしくおねがいします!〉


 浮かび上がったドルトの機体は、砂に馴染むクリーム色をしている。

 ――中量型で、初めから右手にライフル、左手に片手剣装備か。上級者向けの構成だな。


〈じゃあ始めよう〉

 言って幹斗は、ソフィアンに行ったのと同じように、ドルトの機体の周囲を旋回し始める。


 ――早いな。まだ半周なのに、もう照準は合ってる。だけど、撃ってこないな。

〈ドルト、遠慮しなくていいぞ。撃ってこい〉

〈あ、はい!〉


 ドルトが放った弾丸は、幹斗が通ってから数秒後に砂地へと着弾した。

 ――せっかく照準合ってたのに、今は機体を追いかけるような形になってるな。逆に焦らせたか?だけど――


 ドルトの機体は、反動が大きいはずの大口径ライフルを発砲しても、ほとんどぶれていない。

 右手部の動きで反動を殺し、機体が揺れるのを抑えている。


 ――機体制御はBランクはありそうだ。近接戦を試すか。

 幹斗は並の軽量級程度の速度で、ドルトの正面から近づいていく。


 ドルトの機体は、銃を構えることもなく、ただ浮遊している。

 ――撃って来ないで、待ち受ける体制か。近接戦のが自信があるのか? なら!


 幹斗は木製の短刀を一度引き、そして突き出す体勢をとる。

 ――これを、どう捌く?


 Bランク程度の機体制御能力があれば、十分躱せるはずだ。

 近接戦への適正があれば、剣で弾くことも可能かもしれない。


 しかし、幹斗の機体が目前へと迫っても、ドルトの機体は微動だにしなかった。

 ――駄目か。ちょっと速すぎたか?


 方向を変え始めた木製の短刀は、しかし切っ先から欠けていく。

 ドルトの機体の胸部に当たったからだ。

 いや、ドルトの機体の方が短刀に当たりに来たといった方が正しい。


〈撃破判定を確認。隊長の勝利です〉

 幹斗は刃先から砕けた木製の短刀を見つめる。

〈ドルト、どうして向かってきたんだ?〉


〈す、すいません! 敵を前にすると、いつもこうなんです……焦っちまって〉

〈まじかー。実戦の前に慣れた方がいいな〉

〈は、はい! すいません〉


 ――メンタル弱いタイプか。センスはありそうなんだけどな。

 射撃に関しても、焦らせる前は悪くない狙いの付け方だった。

 精神面さえどうにかすれば、素質は十分ありそうだ。


〈じゃあ次、シュメル、やれるか?〉

〈はい!〉


 そう言ったシュメルが乗っているのは、薄桃色の重量型機体だ。

 その分厚い装甲を全て覆い隠せるほど大きな、黒い盾を装備している。


〈おー、いい感じの構成になってるな〉

 シュメルと出会った日、敵として対面した際は、重中軽の装甲が入り混じった構成だった。

 今思うと、おそらく余り物のパーツをあてがわれていたのだろう。


〈はい! 自分で選べるの、楽しかったです〉

〈それは良かった。装備は盾だけか?〉

〈はい! 盾だけ、です!〉


〈じゃあ、そっちは攻撃手段ほぼないし、こっちの短刀も、もうないし、模擬戦っていうよりは、訓練みたいな感じでやろう〉

〈はい!〉

〈俺の機体についてきて〉


 幹斗が重量型程度の速度で飛行を始めると、シュメルの機体も後ろを追ってくる。

 ――飛行適正は問題ないな。Cランク以上だ。

 重量型は速度が遅い分、それほど飛行適正を必要としない。


 ――しかし、本当にぶれないな。

 シュメルの機体は、幹斗が角度のついた旋回を行っても、姿勢を崩すことなく追従して来ている。

 それは、機体の制御技術が一定以上のレベルにあることを示していた。


〈よし、おっけーだ。シュメル、ちょっと盾構えて〉

〈はい!〉


〈盾をちょっと蹴ってみても大丈夫?〉

〈大丈夫です! シュメルですから!〉


〈じゃあいくぞー!〉

 幹斗は並の軽量型程度の速度まで加速する。

 そして、シュメルとの距離が機体二つ分ほどになった時、黒い盾に向けて機体の右脚部を突き出した。


 無装甲の足が黒い盾を押した時、シュメルの機体はわずかに揺れた。

 直後にブーストを起動し、足を押し返してくる。


 ――思ってた通りだ。この機体制御はAランク以上はある。

 通常、装甲パーツは同じ種類で揃える。

 違う種類にしてしまうと、重心が狂って制御が難しくなるからだ。


 上級者の場合、武器などとの兼ね合いによって、違う種類の装甲を選択する場合もある。

 しかし、それでも重量型なら重量型内の別の種類のパーツを選択する。

 重さのカテゴリが違うパーツが混在すると、制御の難易度が跳ね上がるためだ。


 しかし、シュメルは重中軽のパーツが入り混じった構成で、機体を制御していた。

 それは、彼女に高度な機体制御の能力が備わっていることを意味している。


〈シュメルはさ、盾以外の、剣とか銃とかの武器、使ったことある?〉

〈ありません。盾だけです!〉

〈そっか、了解ー〉


 ――隊長としては、多分教えるべきなんだろうな。

 これだけの機体制御能力があれば、射撃時に反動を抑えることも可能だろう。

 さらに、蹴りを押し返した反応力を考えれば、近接攻撃の才能もあるかもしれない。


 いずれにしても、盾だけを装備しているよりも、別の武器も使用出来たほうが、戦術の幅は広がる。

 それが実戦において役に立つ局面はあるだろう。


 ――でも、俺のエゴかもしれないけど、教えたくないんだよな。

 武器を装備し、使用するようになれば、攻撃の際に隙を生じることになる。

 つまり、シュメルに対する危険が増すということだ。


 ――しかも、武器を使ったことがないってことは、シュメルは多分人を殺したことがない。

 シュメルがこの小隊に入った理由は、幹斗が戦場に行くからだ。


 それがシュメルの意志である以上、無理にやめさせることはできない。

 しかし、装備に武器を選んでいないということは、誰かを傷つけたいとも思っていないはずだ。


 おそらく、幹斗が教えれば、シュメルは実行するだろう。

 しかも、小隊メンバーの中でも、素質がある方なのは間違いない。

 それでも幹斗は、シュメルに武器を持たせることをしたくなかった。


 ――シュメルだけのことを考えると、教えたくない。でも、小隊全体のことを考えると……。

 難しい問題だ。

 所属する個人を取るか、全体を取るか。


 ――もう少し考えよう。とりあえず、俺がシュメルの分も倒せば問題ない。

 盾役の本業は味方を守ることだ。


 だから、攻撃する必要が生じることは少ない。

 さらに、攻撃に特化した幹斗がいれば、その可能性は限りなく低い。


〈クシリナ准尉は怪我してるし、もう実力分かってるから、今日はここまでにしよう。それにしても――〉

 幹斗は一つ頷いて、続ける。

〈みんな結構素質あるよ。期待以上だ。なんか全国大会目指してたころを思い出す〉


〈光栄です。……でも、全国大会って?〉

 ドルトの怪訝そうな声に、幹斗はゆっくりと言葉を選んで返した。

〈……えーと機械(マキナ)好きが集まる祭りみたいな?〉


〈な、なるほど〉

 いまだ不可解さをはらんだままのドルトの返事に、幹斗は軽く頭を抱える。

「そりゃ、伝わらないよな……」


 通信機をオフにして、そう呟いた幹斗の視線の先には、太陽よりも大きな恒星が、空を赤く染めていた。

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