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 少年を連れたリオネルとベルトランは、繁華街から一本道をはずれた通りに停めてあった馬車に戻っていた。先に乗り込んだリオネルが、ベルトランの腕から少年を引き受け、次いで、ベルトランも乗り込む。

 御者が鞭を打って、走り出した。


 年が明けて十日ほどである。例年なら二人はまだベルリオーズに留まっている時期だったが、昨年の夏に一度帰省していたので、今回は長居をせず王都に戻った。

 ちょうとベルリオーズ領から、王都にある別邸に移動している途中だった。

 道中は馬車で七、八日ほどかかるので、二人は堅苦しくない恰好である。


 もうすぐ別邸の館に着くというとき、すでに日は暮れていた。

 夕餉をとる機会を逸していたので、街で食事でもしていかないか、と言いだしたのは、ベルトランだ。

 馬車から降り、食事する場所を探していたところ、二人は人でごった返す街なかで、はぐれた。

 そして、再会したのは、先ほどの騒ぎの場。


 ベルトランは仏頂面である。


「身体が、雪のように冷たい」


 リオネルは、少年の手を握って言った。


「それなのに、熱は高いみたいだ」


 今度は額に手をあてる。


「……助かるだろうか」

「リオネル」


 ベルトランは不機嫌な声で呼んだ。リオネルはうなずく。


「……わかっている。気まぐれかもしれない。でも、放っておけなかった」

「冬に死んでいく子供は、何百人といる」

「わかってる」

「一人だけ助けてどうする」

「…………」


 それ以上リオネルは、わかっている、とは繰り返さない。


「それに、おれとはぐれたときに、ああいう面倒事に首を突っ込むなよ」

「あんな一方的な暴力、見ないふりはできなかった。おまえだってそうだろう?」


 顔を上げて視線を向けてきたリオネルに、ベルトランは、まあな、と小さく答えた。

 日ごろから、後先考えず行動するようなリオネルではない。今回のようなことは、珍しいことだ。


「それに……」

「それに?」

「……いや、なんでもない」


 言いよどむリオネルの様子にベルトランは不思議そうな顔をしたが、リオネルは話を変えた。


「どうしたら、この子の身体があたたまるだろうか?」

「……抱きしめてやったらどうだ?」


 ベルトランが適当に返事をすると、リオネルは生真面目に、腕のなかの少年を強く抱きしめる。それを見てベルトランは呆れたようにため息をついた。


「やれやれ……そんなに同情しているのか?」

「どうせ助けるなら、生きていてほしいから」


 リオネルの気持ちは、ベルトランにも分からなくはない。


「それにしても、おかげで敵まで増やしたな。まあ、大した男ではないが」

「シメオン殿の遠縁?」

「甥っ子だ、出来の悪い」


 シメオン・バシュレは、リオネルの叔父シュザンと共に王宮で正騎士隊に所属する貴族だとベルトランは説明した。シメオンは、正騎士隊の副隊長を務めている。

 シュザンもシメオンも国と王家を守る立場にいるものの、シュザンの家元は王弟派のトゥーヴィーユ家であるのに対して、シメオンの一族は国王派だ。


「シメオン殿は真面目だが、フェリペ殿は遊び人で乱暴者だ」

「どこかで聞いたことのある人物像だね」

「ジェルヴェーズ王子か? たしかに似たようなものかもしれないな」

「ちょっと暖かくなってきたよ」

「…………」


 リオネルは、少年の細い指を握っていた。




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