倭國乱れること歴年、乃ち共に迹迹日郡にて一女子を立てて王となす。名を百襲媛命という。
エピローグです。
一気に、どこの話?ってなります。
私の文章力、シナリオ力がなさ過ぎて意味不明だと思いますので、後からネタバレを読んでもらえたら幸いです。
Epilogue?
激しく打つ雨の衝撃に堪え、祭壇の前に佇む。
重くなった衣に膝を折りそうになっても、必死に自身を鼓舞する。
そうして、込み上げる吐き気と嗚咽を噛み殺し、眼下の血だまりの色が薄れていくのを見続けた。
果たして、祭り上げられたのはどちらの方か。
祭壇には神に捧げられた供物のように物言わぬ王が横たわっている。
私の目の前で息絶え、そこに担ぎ上げられたのは、もう半刻も前のことだ。
「いつまでそこにいるおつもりですか?」
太刀を肩に乗せながら、痺れを切らした弟が聞く。
いつまでも。
百年でも千年でも、その次の千年でも――――。
しかし、そんなことを言えるはずもなく、
「我が君は 千代にましませ さざれ石の 巌となりて 苔のむすまで」
本当の心を隠して、せめてもの想いを歌に込める。
「姉上って、結構歪んでますよね」
歌を聞くや否や、隣に控えている弟がそう言って笑い出した。
「現世での栄華を奪った後ろめたさを歌うのかと思いきや!」
何がおかしいのかと訝しむようにして弟を見遣ると、ようやく笑うのを止める。
「その歌、常世はお前にくれてやるから文句言うなと言っているみたいだ」
次に発した弟の言葉は雨の音と重なって酷く冷たく聞こえた。
そんなつもりはなかったが。
ただ、あの世へと逝ってしまったあの人が、少しでも安らかに眠れるようにと。
祈りのつもりで――――。
「まあ、あの男を『我が君』と呼ぶあたりは自虐的だとは思いましたけどね。全体としてはかなり傲慢ですよ」
返す言葉もない。
弟の見解にも一理ある。
最後に、祭壇上に伏す王の亡骸を一瞥して、私はようやく歩を進めた。
「姉上、これを」
すかさず弟が膝をつき、肩に乗せていた太刀を差し出す。
「これからはそのように呼ぶな。それから、私に鬼道と武術以外の心得はない。政は全てお前に任せるぞ」
未来の摂政は恭しく頭を垂れたまま「はい、モモソノヒメミコ様」と、いつになく丁寧に応えた。
謀略により安曇の王は廃された。
本当は殺す必要はなかったのかもしれない。
だが、共に在ることができないなら、想いを遂げることが許されないなら、いっそうのことこの手で、彼を永遠に望めぬものにしてしまいたかった。
そう――――
太刀であの人を貫いた瞬間、心の臓が潰れる音までもが鮮明に聞こえた。くぐもった悲痛な声と苦渋に満ちた顔が脳裏に焼き付いて離れない。
溢れ出す鮮血を全身に浴びて、初めて彼と一つになれた気がした―――。
その高揚感たるや!
思い出すだけで、歓喜に足が打ち震え、切ないほどに胸を締め付けられそうになる。臓腑を侵されたかのような愉悦に酔いしれ、その余韻にいつまでも咽び泣いていたいほどに!
最期にあの人は一体何を考えただろうか。
事切れる寸前の蒼白な顔に似つかわしくないあの双眸。強い意志と光を宿した瞳で刺すように私を見つめていた彼は・・・。
きっと、私と同じ想いだったに違いない。
「ところでヒメミコ様」
「なんだ?」
下から顔を覗くように上目遣いで弟が問い掛ける。
「あの祭壇はどういう意味で?」
「ああ、あの人には神になって私の創る国を見守ってもらおうと思ってな」
私は受け取った太刀を腰に差しながら至極真面目に答えた。
すっくと立ち上がった弟は喉の奥で笑うと「貴女を敵に回したくはないなぁ」と呟く。
その後に続いた「自覚のない狂者は質が悪い」という言葉は雨の音に掻き消されたことにして、黙殺することにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
これが、最初。
最初の祈り。
最初の呪い。
大伯母様が私に託した、最初の因果。
壱を与るが私の使命。
他の誰もが初めの記憶を手放しても、私はずっと留めていよう。
そうして、彼らの物語に与しよう。
無自覚の狂愛者が、
自覚ある自虐者が、
無知な邂逅者が、
果たしてこの先どうなるのか。
二世では終わらない契りは、一体いつまで続くのか。
八百万の世の先までこの壱与が、しかと貴方達の仕合わせを見届けましょう。
千歳、秀吉、信長の三人は(自分で書いておきながら)上手くいかないものです。
でもきっと、彼女も彼も、そして彼も。
最後には、生まれ変わった先でしあわせになれるんでしょうね。
物語だから。
でも、本当は。
来世で会いましょうなんて有り得ない。
私達はこの世界に生まれて、この世界でしか生きられない・・・。
とういうことで(?)
機会があれば三人のハッピーエンドも書いてみたいですが、ひとまずは『八百万物語~二世の契り~』は完結です。
ここまで読んで下さった方々、ありがとうございました!