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少年少女の観察 2

トト子は顔を隠した一松の顔を両手で持って上げさせる。彼女も顔を紅くして、照れた様子で言った。

「トト子だって、恥ずかしいんだから…」

2人はおでこをぶつけ合うと綺麗な鼻筋、鼻の柔らかい部分をくっつけ合い、徐々に下のほうへ向かっていく。

トト子のほどよく膨らんだ唇は真っ赤で、血色が良い。一松はそこへ自らの唇をくっつけ、舌をトト子の中に入れた。トト子もそれに応えるように舌を一松の口に入れ、お互いの舌が絡み合っているのが見えた。

その時間は長く、キスをしている間に見ていた幼稚園児くらいの子供がジト目で母親に問う。

「あの2人は何をしているの?」

母親は子供を自分の方へ呼び、こう言った。

「あの2人を見ないでね」

「どうして?」

不思議そうに子供は尋ねる。2人がしていることが何かを理解はしつつも、それを止めようとする大人の気持ちがわからないのかもしれない。



幼い頃にAVやエロ本を見てしまうと、セックスが”汚いもの”に見え、浅はかな決意をさせてしまう。


「大人になったらぜったいエッチなことはしない」


キスはしたい。だがそれは本当に大好きな恋人同士と。実際に大人になってみると、キスは本当に好きな人同士でやるべきだという風潮はある。しかし簡単に恋人は別れてしまう。何人かの男と付き合って、結婚式を挙げた新郎とするキスは何人目のものだろう?

母は初めて恋人を作ったのが高校生の時だった。父は分からない。ただ、童貞卒業の話を聞いたことはあった。その時にわたしが思ったのは、「男は心も大事。だけどもっと大事なのは自分が初めて何かを征服したという快感だ。それは”心”に入らない。」

女のことは…わからない。男のことなら客観的に見られる。女だからこそ分からないのだ。主観的にしか物を見られない人は悲しい。想像力のない人は悲しい。人から嫌われていることを知らず、その理由も理解できない。自分を他人に置き換えることもできない。

男が女性雑誌を見て「女って怖いねえ」と笑いながら言うことを、わたしは理解できない。女が実話誌や男性向けに書かれたネット記事を見て「男は理解できない」と真顔で言うことも、理解できない。ただ、えげつなさで言うなら男が上だと考えてはいる。その代わり、秘密ごとを隠すのが上手いのは女だ。どっちもどっち。それが分からないのか?とにかく、男も女も分かり合えない。そもそも考え方が根本的に違うのだから。


それにもかかわらず、トト子と一松はお互いを理解し合っているようだ。幼いからまだ男と女の違いを分からないのかもしれない。

ネチョネチョグチョグチョいう舌の絡み合う音が児童書コーナー中に響き渡った。普段なら子供の声で掻き消されると思っていたが、いざキスの音を聞いてみると意外に大きい。

その音を他の子供たちは何か分からずに聞き、大人たちは見て見ぬ振りをした。3分は続いただろうか?キスをし終えて口を離したら透明な糸が2人の口をつなぎ、やがて下へ垂れ落ちていった。


目をトロンと細めたトト子は艶やかな声で話を戻した。

「と〜こ〜ろ〜でぇ」

「え?あ、あっ…ハイ!」

キスの余韻に浸っていた一松がその声にハッとさせられ、アッという声を出した。

何を切り出されるのかと慌てている様子だ。それを見ず、トト子は好奇心旺盛な性格と大人の女が持つ謎の冷静さをもって一松に聞いた。

「コロンブスって何した人なの?コンキスタドールってなあに?」

割と早口で言われたものだから一松も混乱して「えっと」、などと口走って何も説明できない状況だ。

「ちょっと待って。トト子、落ち着こうよ」

「あ…、ごめんね?」

トト子が笑った表情で謝罪をしながら、手を合わせた。

「いいよ別に…」

一松はその顔を見て、また照れた。

「”コンキスタドール”は…、スペインの歴史を勉強しないとまず分からないよ。簡単にいえば”征服者”のことなんだけど…」

「どこを征服したの?」

「中南米。アメリカの下だよ。例えば…ちょっと待ってて」

一松はそういうと、世界地図の本を棚から取り出して持ってきた。チョコチョコと小走りして、その様子は少し可愛らしい。つい見ているだけの私もクスッと来てしまう。

一松が椅子に座り、テーブルの上に大型本を置いて中南米の地図を見せた。トト子はその大きさにビックリしているようで、目を軽く見開いて両手を口に当てた。

「この土地を全部…コンキスタドールは征服したの?」

「全部ではないけど、まあ、大分ね」

「この土地を征服するきっかけが、コロンブスっていう冒険家がアメリカの土地に着いたからなんだよね」

「コロンブスって今も知ってる人がいるくらいのことをしたの?それって、大したことないじゃない」

「当時、今から500年くらい前のことだけど、その頃はまだ世界地図すらまともにも作れなかった。日本の形すら描けなかったんだよ。そしてアメリカ大陸も存在すらわからなかったから、当時のスペインにとってはとてもビックリなことだったんだよね」


『コンキスタドール…ああ世界史でやった。確かスペインがキリスト教を広げるためにアメリカ大陸に送り込んだ冒険家とかのことだよね。

絵本にそんなこと書いてあったっけ?』


とにかく内容が気になる。早く読み終わってくれないかなあ…。そんなことを思いながら待つこと15分。やっと一松とトト子は2人で手をつないで児童書コーナーを出た。

出る時も恋人つなぎかよ!本当に最初から最後まで嫌な感じのカップルだな。わたしは2人の後ろを睨みつけ、やっと机の上に放置された例の絵本に手をとった。

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