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第一章 非日常からの御誘い(5)

「…この辺で、いいね」

「ねえねえー、話ってなあにー?そろそろ美亜の会議終わっちゃうよお」

ここは、体育館裏。そんなことを言いながら、ちらちらと紅葉をながめる鈴。一方聖子は、鈴に背中を向けたまま会話を続ける。

「話なんて何もない。ただ、あなたを消さなきゃいけないだけ―――」

そう言うと、くるっと鈴の方へ振り返り、いつ用意したのか分からない黒い、杖のようなものを左手に握る。すると、それ、は、ぐにゃんと形を変えて膨張し始め、彼女の指先から左腕の肘あたりまで、ぐにゃぐにゃっと、(いばら)のように絡みついた。

「え…え?せ、聖子、なに、それ…?」

自分の方をまっすぐと、ギラリと見つめる聖子に、鈴はすこし後ずさりする。聖子も、それにあわせるように一歩近づく。

「あなたに教える必要なんて、ない。あなたはここで、消える、の」

じり、とまた一歩聖子が近づく。

「ええと、これ、手品なのかな?き、ききき消えるなんて、冗談だよね?えへへ、へ、ちょっと手品にしてはやりすぎだけど、す、すごいね、聖子、あ、あはははははは、は…」

鈴も、あまりの迫力に、一歩後ずさりする。こつん、と、後ろにあった体育館倉庫にシューズがあたる。もう、逃げ場はない。

本当は、分かっている。いくらなんでも、天然の鈴にだって、それ、は分かる。

今の事態が、なんだかとてつもなくヤバいことに。

なんだか、とっても危険だってことぐらい。

分かっているけれども。

こんなこと、信じたくない。

―――友人の、聖子を信じたい。

お願い…!

「―――なーんちゃってね?」

うふふ、と、聖子がほほ笑む。鈴も、ほっと息をつく。

「…―――なーんて、言ってくれるだろうなんて、期待した?」

その瞬間、聖子は、何かが絡みついた左腕を前に突き出し右手を添える。鈴は、悲しみとも恐怖ともつかない顔をして、聖子がだした左腕を見つめている。

「humen(人間よ)、Disappear(消えて).」

と、左腕の何かが光りだした、その瞬間―――――

「おい!」

という怒鳴り声とともに、聖子の体が突き飛ばされる。固い土の上に聖子の身体がぶつかり、かるく跳ね上がる。

そのタックルさながらに突き飛ばした声の主はというと―――

「おい、なんか事情はよくわかんね―けど、危ない事友達にすんなよ!そして、今突き飛ばしたのは全力で謝る!大丈夫か、知らない女子!」

旭川元成だった。

「え?今日、購買のそばでぶつかったひと…?…って、噂の旭川くん…?!なんで、ここに?」

もう訳が分からない状態な鈴がそう尋ねる。

「そこの体育館倉庫の裏で昼の残りのパンを食べていたんだ。そしたら、こんな会話が聞こえてきて、のぞいてみたら事態はよく分からないが、危ない事になってなかったか、あんた?いくら他人だからって、そんな奴、見捨てられるわけねーだろーが」

と、言いながらも、元成の視線は聖子からはずされない。というか外せない。聖子はというと、ふらふらと立ちあがる。

かと思ったら。

ばたん、と、地面に再び倒れてしまった。シュウウウっと、腕に絡みついていた黒い何かも消えてしまった。

「あ、あれ?もしかして、多分、私たち助、かった?」

「そう、みたいだな…」

二人で、大きなため息をつく。

「あ、今更だけど、助けてくれて、どうもありがとう。私、二年二組の海山鈴。よろしくね」

と、鈴から自己紹介を始めてしまう。

「ん、ああ。俺は、三組の旭川元成。よろしく。ところで、怪我はないか?」

「うん、おかげさまで。えっと、旭川君も、大丈夫かな?」

「ああ。ところで、こいつはいったいどうしちまったんだ?こんなこと、よくあるのか?」

「ないよ、こんなこと。人生で初めてだよ、もうなんなんだろう」

ちょっと泣きそうな顔で鈴は言う。それもそのはず、あの瞬間、事情はどうあれ、友達に裏切られたように鈴は感じていたのだった。

「うーん、とりあえず、こいつ保健室にでも運ぶか?でも、保健の先生になんて説明すればいいんだ…?」

元成と鈴が色々考えていた、その時。

「おい、後ろ!!」

と、元成が叫ぶ。いつの間にか、元成の知らない―――いや、さっき校庭に、女子と一緒にいた青年。その青年は、鈴の後ろに立って、あろうことかさっき聖子が左腕にかまえていた黒いなにかと同じような、しかしそれより格段にパワーアップしてそうなその左腕を、鈴の頭へ向けていたからだ。

「へ…?あなたは、相本君…?なんで、こんな…」

もう状況が整理しきれない鈴が、その青年に振り向いてそう尋ねる。

「あなたにそれを聞く必要なんて、ありません。邪魔が入った以上、しかたありません、僕が自ら消しましょう」

そう言って、相本克はすうっと息を吸う。

「humen(人間よ)、Disappear(消えろ).」

鈴が人生で最大の危機感を感じ、元成が息を飲んだ瞬間―――

「Please give me power from God!(神よ我に力を)」

そう、力強い声が辺りに響きわたり、眩しい光が辺りを包みこむ。その光の眩しさに、鈴と元成が目をつぶる。と同時に、克の茨のようなものが絡みついた左腕だけ(・・)が、どっ、と、地面に落ちた。

「え、ええ、ちょ、えっ…?!」

「よかった。間に合ったわ」

鈴と元成が目をあけると、艶やかな黒髪が目に入る。二人の目の前に立って左手が切断された克を見つめている人物。それは、鈴の大親友、桜川美亜だったのだ。

「え、美亜…?それと、その格好って…」

それもそのはず、美亜は普通の制服姿ではなかった。背中に二枚の対になっている一メートルほどの羽が生えていて、頭にはうっすらと黄色みがかかった白いわっかのようなもの、そして服は長そでの制服のカッターシャツみたいなのの胸元に赤いリボンを付けていて、下は、ふわふわふわっとした感じのひざ上スカート。これも、赤だった。美亜の右腕には、銀色をした何かが絡みついていた。

「え、てん、し、なの、かな…?」

そんな鈴をよそに、美亜(?)は克に向って、言い放つ。

「また…あなたは、私から大切なものを奪っていってしまうの?!」

しん、と静寂が訪れる。

「――…ふふふふ、分がわるいな。出直そう」

と、シャイニングスマイルにがらりと変わり、くるっと鈴たちから背を向ける。同時に、なくなったはずの左腕が、ぐにょぐにょぐにょっと、生えて(・・・)きた。ひい、という鈴の小さな悲鳴をよそに、克は去っていってしまった。

「なに…なんなんだよ、おい、そこの天使(?)」

色々ありすぎて言葉が出ない鈴の代わりに、元成が美亜に尋ねる。

「…ごめんね、なんか、色々驚かせちゃって。そして、巻き込んでごめんなさい」

そう言って、美亜は頭をさげた。

「こうなった以上、もう、隠しきれないなあ…ねえ、鈴」

と、静かに美亜は鈴に語りかける。

「え、ええと…もう、わけわかんないや、とりあえず説明してよ、美亜」

と、鈴は返す。事実、色々ありすぎてもう頭が回らない。

「私はね。見ての通り、天使、アンゲロイ。本名は、これといってないわ。たくさんいる天使の一人の、アンゲロイ。区別するために、キャミーっていうあだ名のようなものがあるだけよ。桜川美亜は、人間界での、仮の名前」

ふう、と美亜、もといキャミーは息を吐く。そして、吸う。

「ああ、何から説明したらいいのかしら。とりあえず、そこに転がっている聖子をどうにかしましょう」

少しあきらめたように美亜は言う。

「Thank you for God(変身解除).」

またもや眩いひかりに包まれて、美亜の変身が解ける。もとの制服姿だ。これはあの魔法少女的な変身って思っていいのかなあと、鈴はこんな時に呑気に考えていた。

「聖子?聖子!!大丈夫なの?」

美亜が聖子を軽くゆする。

「う、うん…?ここどこ?何してたの、あたし…?」

だるそうに、聖子が目を覚ます。そのとたん、

「あれ、相本君どこ?!確か、最後に相本君見たんだけど…」

という聖子に、美亜は言葉を続ける。

「…―――それはきっと夢のようななにかなんじゃない?さっきまであなた、私たちと一緒にここに紅葉を見に来てたじゃない。そしたら、土のでこぼこに足を踏み外して、聖子は頭を打ってしまったの。で、ずっと話しかけてて、今、やっと目を覚ましたの。覚えてない?」

元成は唖然としていた。よくそんなにもすらすらと嘘がつけるものだと。鈴のほうはというと、美亜の機転のよさは昔からなので、美亜らしいなあという具合にしか感じていなかった。

「え…?じゃあ、あれは私の願望なの?!は、恥ずかしい…。えっと、美亜、あたし多分全然覚えてない、昼ぐらいから記憶おかしいのかも…」

なんだか納得してくれた聖子にほっとしながら、美亜は鈴へ向かいなおる。

「じゃあ、一応聖子を保健室につれていくわ。あなたたちは、二組の教室で待っていてくれない?」

「あ、えっと、うん」

「分かった。海山、行こう」

そんなこんなで、元成と鈴は二人で教室で待っておくことになったのだった。



「…さて、どうしたものかな」

屋上で、黄昏ているハンサムな青年。なにやら、悩み事をしているようだ。

「あれほどの魔力係数だ。ほおっておくと、いつ覚醒するか分からない。しかも、厄介なことにあいつもそばにいるときた」

青年は、顔をあげてオレンジ色に染まりだした空を見つめる。

「…だめだな、空を見てしまうと、俺が今何をしているのか分からなくなってしまうじゃないか」

そう呟いて、青年は左手を横へ突き出す。すると、一瞬で真っ黒な業火に包まれてどこかへ去ってしまったのか、もう屋上に青年の姿はなかった。


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