第三章 飛び込んだ世界(2)
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「どうです、聖子さん。この建物の室内薔薇園は立派でしょう?」
微笑を浮かべながら、克は聖子にそう尋ねた。
「うん、とっても綺麗!こんなきれいな薔薇園、初めて見た!」
なんていいながら、聖子はいくら薔薇が好きだろうと、薔薇園なんて、小学生の時海外旅行で見て以来、ずっと見ていないのだが。
「ねえ、そういえば、克君」
「なんでしょうか、聖子さん?」
一息つき、薔薇園を見渡しながら聖子はこう口にする。
「ここって、外には出られないの?薔薇園ですら、中にあるし」
「どうしてですか?」
聖子は、本当は、外に出られれば、ここがだいたいどの辺なのか、分かるのではないか、
と思っていたから、そんなことを聞いたのだ。しかし、なんだか、そのことについて言ってしまってはならないようなきがして、ぼかしてこう答える。
「えー、だって、少し外の空気が吸いたくなって…って、克君?」
聖子が再び克の方を見ると、克がほんの少しだけ険しい顔をしていた。聖子は、克のそんな顔は初めて見たので、顔に出さないようにして驚く。
「…いいえ、なんでもありませんよ?そんなことより、次にお見せしたいものがあるのです。この建物内は広いので、もしかすると一日じゃすべて案内しきれないかもしれません。さあ、行きましょう」
と、克は言う。そのエスコートに、なんのためらいもなく乗るように見せた聖子。しかし、彼女の中では、もうすでに疑惑は確信へと変わりつつあった。克は、なにか隠している。この、自分がいる場所が、何か関係があるはずだと、聖子は必死に、手掛かりがなかったかと考える。
「次は、果樹園へご案内いたします。いろんな種類の果物が生っているので、どれでもお好きなものをご賞味ください」
克に、聖子の内なる思いを悟られないのは、彼女が中学時代、演劇部で毎回主役、もしくはそれと同格の役をしていたからだろう。聖子も、まさかこんなところで、その経験が役に立つとは思っていなかっただろう。