第三章 飛び込んだ世界(1)
「…。…?ここ、ど、こ…?」
目を覚ました鈴は、辺りを見回す。少し薄暗くて目が慣れるまで少し待つ。どうやら悪魔界ってとこにきちゃったんだな、と鈴は思う。自分がこんな場所に来て、恐怖を抱いていないのが逆に恐ろしかった。空を見上げると、夜、とまではいかないが、少し赤みを帯びた暗いそらだった。地面はどうなってるのかな、と下を見たとき、鈴は自分が温かい何かの上にのっていることに気がついた。
「…?って、元成君?!」
「……ん?り、ん?」
うつ伏せに倒れて上から鈴に乗っかられている元成は今、目を覚ましたようで、どうやらまだ自分の状況があまり把握できていないらしい。それをいいことに、鈴はそそくさと元成の上から身を起こす。
「り、鈴だよ!も、元成君も、気絶してたの?」
すこしあわてた口調で、鈴は元成に尋ねた。元成は、座った態勢になりながらそれに答える。
「ああ、どうやらこっちに飛ばされたときに気を失っちまったようだな。鈴も気絶してたのか、大丈夫か?」
「う、うん、なんとか。そんなことよりさ、…美亜は?」
「え、…?い、いない…」
二人して絶句する。それもそのはず、二人がいる場所は、少し開けた場所で、辺りには赤や黄色や青いといった原色の葉をつけた、どうみても普通じゃない木が立ち並ぶ、雑木林のような感じだった。そんな限られた空間の中で、美亜がいないということは、すなわちここには美亜はいない、ということだ。
「どうするかな…悪魔とかに攻撃されたら、俺達ひとたまりもねーぞ…?」
「うーん、本当だね、どうしよー…。まあ、どうにかなるんじゃない?とりあえず、美亜探そうよ!向こうも、きっと探してくれているだろうし!」
元成は、その鈴の能天気さに驚く。一種の敬意すら感じていた。
「まー…そうだな、ここで色々考えても仕方ない、美亜を探すぞ!行くぞ、鈴!」
意気揚々と元成は立ち上がる。
「いて!なんか、腰が痛い…なんか、ぶつけたっかな…」
心当たりのある鈴は、その問いかけに答えず、こう続ける。
「ぶ、ぶつけたんだ?大丈夫?そ、そんなことより、早く行こ?ほら!」
そう言うと、元成の手をつかみ、原色の雑木林へと歩を進めだした。元成は少し驚いた後、少し照れるように笑い、リュックサックを背負いなおしながらそれに続くのであった。
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「あいたたた、ここはどこかしら?」
ふう、と息をつきながら、天使キャミーはあたりを見回す。それと同時に、二人がいないことを知る。
「あれ、鈴、元成?!いないわ、まずいわね、はぐれたのかしら?」
あーあ、と美亜は思った。あれほど、しっかり手をつなげと押したのに。フラグだったようだ。
「とりあえず、どうにかしましょう。二人の場所はっと…。…。どうしよう、私この手の魔法苦手だわ」
どうしようか、と一秒ぐらい考えた後。
「そうだ、あの子に頼もうかしら。あの子なら、この手の魔法はとても得意だったはず…」
美亜は、天空界へ向けてテレパシーを飛ばす。
「「こちら、下級天使アンゲロイ、キャミー。大天使様、聞こえますか?」」
「「ああ、聞こえておる。キャミー、悪魔界まで来たのか?人間も連れてきたようだな、お前の守護魔法で果たして無事なのか?」」
大天使と呼ばれた人物は、初老の男性のような口調であった。
「「それが…どうやら、無事のようなのですが、気を失わせてしまった挙句に、はぐれてしまいました」」
「「なんだと!?だから、おまえの守護魔法は信用できないのだ…。まあよい、こちらから天使を派遣することにしよう」」
「「ええ、そのつもりです。できれば、ぺティーをお願いします」」
「「まったく、おまえというやつは、昔から…。まあよい、ぺティーを派遣することにしよう。彼女なら、おまえとの能力のバランスも完璧に近い」」
「「性格のバランスも、です、大天使様」」
「「無駄口をたたく余裕があるなら、早く調査を開始しなさい。いいか、おまえにはな、天空界の未来が…」」
「「分かっています。では、これで失礼します、大天使様。以上で、下級天使アンゲロイ、キャミーからの報告を終わります」」
プツン、と美亜ことキャミーはテレパシーを切った。
「ふふ、今頃またあいつは、とか文句を言われているんでしょうね。まあいいわ。これで、あの二人はきっと無事だわ」
そう言いながら、辺りにどこまでも広がる、赤い大地の上をキャミーは歩き出す。
「やっぱり、美亜、よりキャミー、って言われるほうが、しっくりきちゃうのよね。でも、鈴だけには、美亜、って、これからもずっと呼ばれ続けられたい、ものね」
ほんの少しだけ悲しそうな笑みを浮かべながら、美亜は羽をはためかせて、跳躍するのであった。