第二章 引き返せない運命(みち)(6)
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「ごちそうさま、とってもおいしかったよ、克君!」
限りなく白い一室で、聖子は朝食を完食した。
「そうですか、よかった、すべてお口にあったようで」
ふふ、と克は微笑む。聖子は、そのほほ笑みに気を取られて、お皿の上に置こうとしていたスプーンを、床の上にカラン、と音をたてて落としてしまった。
「うわあ、ごめんなさい、私ったらなにしてんだろ…」
ものすごい恥ずかしくなりながら、聖子はその落ちたスプーンを拾おうとして白い机の下へ身を屈める。ふ、とテーブルを見上げると、表は純白の白だったはずなのに、裏は闇のような黒で一色に塗られているようだった。
「ああ、聖子さん、そんなもの、そのままでよかったのに。それよりそうだ、少し腹ごなしに散歩へ行きませんか?」
「あ、うん!散歩、散歩いいね!」
なんだか気恥しい感じをごまかすため、少し早口になりながら聖子はそう言った。
立ち上がりながら、少しの間聖子は考える。この建物はモノクロが多いな、と。しかも、ぱっと見白いところしかないのに、すべて裏をめくると、漆黒としか表現できない色に染められているのだ。もしかしたら、それは、今の自分のいる状況を、表しているのかとふと脳裏によぎる。克が状況を説明してくれないのと、何か関係があるのだろうか。聖子は、そこで気になった。テーブルの上に置かれている純白のお皿の裏側は、どうなっているのかと―――――
「聖子さん?どうしたのですか、まさかお皿を片付けようなんて思ったりしていらっしゃいませんよね?」
気がつくと克がそばにいて、オニオンスープが入っていたお皿に手を伸ばした聖子の手首をつかんでいる。
「あ、…―――うん、そうなの、家では一人のことが多いから、お皿片付けるのが癖に、なっちゃって。もしかして、勝手に片付けてくれる、の?」
聖子は、克が気づいたらそばにいた驚きと、どうしてお皿にすら触らせてくれなかったのか、という疑問が頭の中でぐるぐるとシェイクされたようになって、とっさにそんな嘘しか付けなかった。しかし、これは半分本当だ。家で一人でいたから、聖子はあの夜、克にここに連れてこられたのだから。
「さあ、行きましょう、聖子さん。とてもきれいな室内薔薇園があるんです」
その克の言葉で、聖子はこれ以上の思考と詮索ができなくなってしまう。
「うん!私、薔薇好きなの!」
またもや、なんで私の好きなものがわかるのかな、と疑問におもいながら、疑問を顔にださないようにするのが、今の聖子にとって最善の策のように思えたのだった。