プロローグ
―――ストラップを拾った。それが、すべての始まりだった―――――。
散歩しながらかわいい雑貨屋を見つけるのが趣味の、一人の少女がいた。すこしくせっ毛なショートヘアの、かわいらしい少女。
「うわ~…!これ、かわいい…!!」
と、彼女の目線の先には、大通りのイマドキな店先のショーウインドウにかざられた、苺のかたちをしたポシェットがあった。
「値段いくらなんだろ~…って、高ッ!」
うーん、と頭をおさえる。彼女は、いつも出かけるときにはつけている、中心に苺がプリントされたバレッタを少しいじくりながら考える。これは、何か考えるとき彼女の癖であった。
「ま、いいか、お年玉入ったら買っちゃおう!」
そう言いながら、ルンルンとばかりに家路へ急ぐ。まだ、お年玉など先のことのように感じられる、夏の気配の残る秋のことである。
彼女の家は、入り組んだ狭い路地の片隅にある。家の前には、ぽっかりと空いたちょっと広めの空地があり、事実上、子供たちの遊び場になっている。他に自由に遊べる場所がなかなかない今のご時世だ、大人たちはなにも文句は言わない。
彼女は、ここに誰が置いたかもわからないベンチにすわって、そばの自動販売機でかったジュースを飲んでホッとするのが最近のマイブームだ。彼女は、その日もイチゴオーレを買ってベンチに座って、ほんのひと時の幸せを感じていた。
しかし、彼女はほんのすこしの違和感に気づいた。
そうだ、いつもだったらこの時間のこの空地は草野球なりサッカーなりをする子供たちの喧騒でうまっているはずなのに、今日は人っ子一人さえいない。
おかしい。
そう思いながらも、まあ静かでたまにはいいかなあ、と思っていた彼女は、ふと空地のゴミ箱の傍で光る何かを見つける。
なぜか不思議に感じて、飲み終わったイチゴオーレをゴミ箱に捨てるついでにその光る物体に近づいていく。
近くでよくみると、それはストラップのようだった。陶器かガラスか何かで作られた、黒い天使が目をつぶって手をあわせているストラップだ。
彼女は、天使って普通白じゃないの?と疑問に感じながらも、なんだかそのストラップにみるみると惹かれていってしまった。普通、そんなこと、するはずないのに。こっそりとまわりをきょろきょろして、彼女はそれをスっとポケットのなかにすべりこませてしまった。
その様子を、彼女から見えないところでそっと観察している人物がいた、彼は、ほんの少しの邪悪な微笑を浮かべたかと思うと、次の瞬間には人のいい笑みになって大通りのほうへと歩いて行った。
しばらく後。そこへ艶やかな黒髪ロングヘアーを持つ女子高生がやってきた。彼女は、空地をあますことなく歩き、何かを探していた。ふっと、ごみ箱へと目がいった。その瞬間、彼女は何かを悟り、一瞬ほっとした。しかしそれは、瞬く間の間に危機感へと変わり、彼女の目の中に焦燥が浮かぶ。そして、猛スピードで、どこかへ走り去ってしまった。
もう日が傾いて、夕焼けが綺麗な時刻。空地に、茶髪で目つきの悪い青年がやって来た。
缶コーヒーを自動販売機で買い、ドカっとベンチに腰を下ろすと、ぽつりと一人つぶやいた。
「どうやったら、誤解されねーんだろーな…」
そして、カシャっといい音で缶コーヒーのプルタブをあけ、一気にあおり、一人むせた。