生徒会
模擬戦終了後、本来予定されていたはずの二日間が休日となり、久しぶりに登校したユーマはルークの騒々しい声に耳を傾けた。
聞いてみると、新聞部の発行している月刊新聞、その名も『times』の内容が問題らしい。
ルークの手にしている新聞を取り上げ、目を通してみる。でかでかと「模擬戦勝者のB組、その裏に潜む闇」と見出しが掛かれており、記事にはこのように記してあった。
『毎年恒例の行事となっている、新入生によるクラス対抗模擬戦。今年度の勝利の栄冠はB組に与えられたが、今月号のtimesはそのB組の『異常な勝ち方』について特集したいと思う。B組の異常な勝ち方、それは終盤の数十分間に凝縮されている。
詳しい経緯は省くが、同盟を組んだA組とC組の前へ投降したB組の大将ユーマ・ヴォルデモート君(10)は、クラスメイト四名を周囲へ潜ませ、奇襲を掛けるという策を取っていた。しかし、これはあくまで表向きの物。この作戦の実態は、仲間の犠牲をも省みぬあまりにも非道なものだったのだ。
隠れていたクラスメイトが見つかることを予期していたユーマ君は、人質を取られるや否や、邪悪な笑みを浮かべ、自らのタクトを使い嬉々として攻撃を開始。幸いB組生徒に怪我人は出なかったものの、下手すれば大怪我をしていたほどの狂策である。またこのほかにも……』
ユーマはそこまで読んだところで、ルークに返した。これ以上読んだところで、自分への誹謗中傷が連ねてあるだけだからだ。
ルークが、おずおずと尋ねてくる。
「これはさすがに酷すぎるだろ。確かに、安全な策だったとは言えないけど、俺を含めて全員無傷なんだから、ここまで言う必要はないだろ?」
「それは違いますよ、ルークさん」
ルークは声のした方を向いた。声の主は、いつの間にか来ていたシエルで鞄を下ろすと、続きを言った。
「違うというのは、安全な策ではなかった、という部分です。ユーマ様は全員が怪我無く、そしてA組C組もろとも一網打尽にするまでをゴールに定めた。……そうですよね」
「まあね。どうせ勝つなら、圧勝の方がいいに決まってるからね。それに、全員が無傷での勝利、それがエルファに最大の屈辱を与える勝利方法でもあっただろうし」
そう言うと席を立ち、教室を出ていこうとするユーマにルークが尋ねた。「どこ行くんだ?」
「三年A組。新聞に発行者の名前と組が書いてあったから、今から言って謝罪を求める」
もう授業が始まるぞ、というルークの注意は聞かなかったことにして、ユーマは二階にある三年A組の教室へと向かった。
教室の前で仁王立ちし、扉を勢いよく開け放つ。バアン、という大きな音と共に室内へ入り、口を開いた。
「新聞部のヘレン・リスターはいるかい? 居るなら速やかに挙手したまえ」
傲慢な態度でそう言ってのけると、ユーマは前方を見渡した。すると、まるで親の仇でも見つけたかのように焦ってこちらへ向かってくる一人の女生徒がいた。濁った銀色のような髪に、割と幼そうな顔。年はアレンより上だが、二十代には達していないように見える。
その女生徒はユーマの肩を掴むと、その場から逃げだすように廊下へ出た。そのまま、あらゆる部室が並ぶ五階へと向かい、新聞部の部室へ入ると、ユーマを適当な椅子へ座らせ関を切ったように喋りだした。
「バッカじゃないの!? いきなり三年の教室来て先輩呼び出すとかバッカじゃないの!? そりゃあね、少女漫画みたいに体育館裏に呼び出せ、なんて言わないけど、もうちょっとやり方があるでしょ! あたしだからよかったものの、怖い奴らもいることはいるんだからもう少し考えて行動なさいよ!」
機関銃のように喚きたて、息を切らした女生徒は呼吸を整えながら今度は普通に質問をぶつけてきた。
「で、あんたユーマ・ヴォルデモートよね。お察しの通り、あたしがあの記事を書いた新聞部部長のヘレンよ。君があたしを呼びに来た理由はだいたいわかるわ。大方、あの記事を訂正しろとかそんな感じのことでしょ?」
「よく分かったね、なんて言わないよ。そもそも、ボクを呼ぶことが目的だったんだろ? あのふざけた記事は」
ユーマの言葉に、ヘレンは満足げな笑みを浮かべ頷いた。胸ポケットから一つバッヂを出し、机の上に置いて告げた。
「単刀直入に言うわね。ユーマ・ヴォルデモート、あなたに使徒会役員への立候補権を与えます。そのバッジが、権利の象徴となるわ。立候補するかどうかは君次第だけど、どうする?」
ユーマは目の前のバッヂを見つめ、考えた。
この学園の生徒会は、当然だが唯の生徒会とは訳が違う。テイマーを育成する学園とは、即ちその国の武力を表している。昨今の三大国の戦力差は、ほとんど拮抗していると言って間違いはない。ゆえに、国の武力の象徴であるテイマーを育成する学園は狙われやすい。
次代を担う若きテイマーを減らせば、自然とその国の力は衰えていく。それを防ぐための生命線が、生徒会である。少数精鋭の生徒会役員に決まった人数は存在せず、有事の際には生徒たちのトップに立ち、誰一人死なさないことを存在理由とする、学園の最後の砦。
入会する方法はただ一つ。毎年、生徒会選挙までの期間に、既存の役員からスカウトされること。選考基準は、強く学園を守るという意思があること。その後、生徒会選挙を行い、ある一定の支持率を得た者がようやく入会できるのだ。
生徒会役員になった際のメリットは、主として内申点。国家テイマーに選ばれる際、最も重要な要素となる内申点が飛躍的に高まるという事。
これらのことを踏まえ、ユーマは結論を出した。
「……そうだね。とりあえず貰っておくよ。出馬するかどうかは、まだわからないけど」
「そう、これでABCから一人ずつで三人ね。最終的に何人になるのか」
「他に二人いるの? だれ?」
部屋を出ようとしたユーマは立ち止まり、聞いた。
「確か、A組のエルファ・ヴィンレンジとC組は……ああ、そうだ。ハイド・ライオネルだ。その二人だけど」
「なるほどね。エルファも選ばれたのか。……面白い。この戦でもプライドをへし折ってやる」
ユーマは今度こそ部室を後にした。
当然ながら、既に授業が始まっている教室に入り、教鞭を振るっているライジに事情を軽く説明して席に戻った。と、少し時間が経ったところで、ユーマの机に小さく折りたたまれた紙が投げ込まれた。
横を見てみると、どうやらルークが投げてきたことが分かった。意図を察し紙を開くと、案の定そこには何があったのかを聞くことが書かれていた。生徒会役員への立候補権を貰った、と手短に書き、ライジが後ろを向いた隙に素早く返す。
「っい!?」
と、直後にルークの声が響いた。視線が集まるが、何とかはぐらかしてユーマの席にもう一度紙を投げ込んだ。マジで? とだけ書かれた紙に、そうだ、と書いてさらに返す。
さすがにもう投げ込んでは来なかったが、授業終了を伝えるチャイムが鳴ると共にユーマの下へ駆けていき言った。
「生徒会役員への立候補権を貰ったって……本当かよ!」
「そうだけど。あの新聞の記事は、ボクを呼び出すための餌だったって事さ」
「そ、それで立候補するのか?」
「そのつもりだよ。エルファも選ばれてるみたいだしね。引くわけにはいかないさ」
軽く頬を緩ませたユーマは、小さく呟いた。
「戦は、既に始まっている。今日の放課後からボクたちも動くよ」
「ボクたちって、まさか俺もなのか……?」
「そのつもりだけど、何か問題が?」
まるで拒否権は認めない、というまでの言い方とオーラに、ルークは諦めて承諾することにした。
放課後、日が暮れて辺りがすっかり暗くなった時間に、ユーマ、シエル、ルークの三人は校舎へ来ていた。
といっても、肝試しをしに来たというわけではない。いや、ある意味そうとることもできるかもしれないが。
「それじゃあ、始めようか」
一行がわざわざ規則を破り夜間の行動をしている理由は――
「数年前から生徒を騒がしている『七不思議』。これを解決すれば、知名度が上がるはずだよ」