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模擬戦

 時は瞬く間に過ぎ、遂に模擬戦の日がやってきた。

 前日に発表されたルールによると、各クラス一人だけ大将を決め、大将に渡される風船を割るか、教師たちが続行不可能だと判断を下すほどの損害を与えれば勝利となる。

 戦闘場所は、学園が有する広大な山、その名も『血闘山』。期間は三日間。ルールは単純だが、それ故に奥が深い。同盟、裏切り、スパイ活動。何でもありの戦争が、今始まろうとしていた。

 B組キャンプ地にて、ユーマを中心に早速作戦会議が行われていた。


「さて、それじゃあ大将を決めようか。誰がいいと思う?」


 ユーマのそう問いかけると、五人全員の視線がユーマに向けられた。シエルとしてはユーマ以外有り得ないし、ルークからすればこの場で最も優秀なのはユーマだと思っている。カエル三兄弟も、ユーマには何となく敵わないような気がするので、自然とユーマが対象という事に決まった。

 ユーマが風船を腰に括り付け、続けた。 


「じゃあ次に、現状の戦力の再確認だ。まず、ボクの鷹型タクト、シュラ。それとシエルが熊のルナ、ルークはドラゴンのチェインだけど、これにはあまり期待しないでおこう。あとは、カエル三兄弟が上からハイエナのギル、ウサギのピット、モグラのグリンだ。間違いないね」


 五人が一斉に頷く。ユーマは基本装備として渡された地図と、自作の駒を取り出した。駒はそれぞれのタクトを象って作られてある。

 ユーマは熊とハイエナの駒をユーマたちのキャンプ地よりほど近い北の所へ置いた。そこはA組のキャンプ地だ。続いて、鷹の駒を少し離れた東の場所、C組のキャンプ地へ置いた。


「まずは、敵キャンプの破壊だ。キャンプにはここを見れば分かる通り、傷薬や食料、それと武器が詰め込まれている。ここを潰せば、この後の戦闘はかなり楽になる」

「A組キャンプをワシとシエル、C組の方を、大将がやるっちゅうことか」


 カエル三兄弟長男、ルカジが言った。頷いたユーマは、ウサギとモグラの駒を西の自分たちのキャンプへ置き、再び口を開いた。


「グリンにはここの防衛、ピットには諜報活動に努めてもらう。ウサギだし、耳は良いよね?」

「ああ、キャンプは防音処理されてるからきついかもしれねえけど、こいつならこの山中の声を一字一句逃さず聞き取れるぜ」

「俺のグリンも、それなりには闘えるはずだ」


 ユーマは時計を確認した。残り一分を切った。全員に銃を持たせ、シュラを普通サイズに戻す。


「一応言っておくけど、今回の闘いは白兵戦も重要になる。いざとなったら、躊躇せずに銃を構えるように。それじゃ、戦闘開始だ」


 開始を知らせるブザーが鳴り、敵キャンプ襲撃組の三匹と、シエル、ルカジの二人が出ていく。


「さて、ルーク。君はドラゴンに力を貸してもらうよう呼びかけてみてくれ。戦力には含んでないけど、来てくれるなら心強い。テレパシーはもう使えるだろ」

「ああ、分かった。ユーマはどうすんだ」

「ボクは……ここで皆への指示と、C組キャンプを落とすために闘うよ。緊急時以外、しばらくは話しかけないでね」


 ユーマは《ホークアイ》を発動し、両目の視覚を繋いだ。すでにキャンプは確認でき、見張りと何処かへ攻めに行ったコンビも確認できる。残念ながら、大将はどこかへ行ったようだ。

 ――一番手強そうなのは、ライオン型のあれかな。

 百獣の王と謳われるだけあり、ライオン型タクトは通常の動物タクトの中でも、飛び抜けた力を持っている。クマタカであるシュラも森の王者とは呼ばれているが、流石に分が悪い。正攻法では打ち破れないだろう。しかし、他に目ぼしいタクトもいないので、ライオンのみに気を付ければよいという事でもある。

 王道が駄目なら、蛇の道で行くしかない。


「シュラ、《フェザートラップ》だ。キャンプを取り囲むようにね」

「了承した」


 シュラが大きく羽を羽ばたかせた。すると、無数の羽が射出され地面に突き刺さった。ユーマの指示通り、キャンプをぐるりと取り囲むようにだ。

 いきなりの攻撃に、騒然となったのか一人の生徒とそのタクトが、羽に近付いた。そして恐る恐る羽に触れた時だった。爆音が轟き、その生徒は哀れにも吹き飛んでしまった。死んではいないが、怪我の治癒には少なくとも一週間は必要だ。

 スキル《フェザートラップ》とは、いわば地雷のようなものだ。本物の地雷のように位置が分からない、という事はないが、剥き出し故に進むことが出来ない。加えて、解除できるのはユーマのみで、人とタクトにのみ反応するので、石などを投げて爆発させることもできない。

 ユーマは慌てふためくC組を見て笑うと、シュラに次なる指示を与えた。


「《フェザーボム》で、キャンプを壊すよ。威力は最大だ」


 シュラが再び羽ばたいた。同じように羽が飛んでいくが、フェザーボムはフェザートラップと僅かに趣向が違う。飛来した羽はキャンプの屋根に刺さると、直後に大爆発を起こした。

 いくつも襲い狂爆発に耐えきれず、キャンプは見る見るうちに崩壊していった。

 ――脆いね。これで、あそこにいるC組は食料もなく、動くこともできずに終わりを迎える。……いや。


「シュラ、《ホークアイ》のスキルには、生きているタクトの名称と力を特定する能力があったよね」

「使うか? しかし少しばかり疲れるぞ」

「構わない。頼む」


 すぐに、ユーマの眼にあらゆる情報が飛び交った。同時に、軽い倦怠感が降りかかる。ユーマは情報を的確に読み取りながら、シュラに命じた。


「飛行可能なタクトがいたね。面倒だから封じてしまおう。《フェザーボム》だ。一枚に絞って、スピードに特化させてくれ。破壊力は、一週間身動きが取れなくなるくらいで構わない」


 フェザーボム及びにフェザートラップは、一度に繰り出す枚数に応じて、射出スピードと破壊力が変動する。多ければ多いほど遅く、破壊力も低く、少なければ少ないほど早く、大きくなる。その度合は、ユーマが調整可能だ。

 シュラはユーマの示した生徒へ向けて、超高速の羽を一枚打ち出した。一瞬で標的に衝突し、大規模な爆発を起こす。

 完璧だ。

 そう思った直後だった。ユーマの脳裏に、本当にこれでいいのか? という考えが浮かんだ。

 奴らは移動手段を断たれ、武器も医療道具も食料もなくした。普通なら万事休すだ。しかし――

 ――いや、考えすぎか。何ら問題はないはずだ。


「シュラ、一旦こっちへ戻ってくれ」

「分かった。すぐに戻る」


 ユーマは視覚の共有を断った。と、その時だった。シエルたちから通信が入った。通信機の回線を入れ、話す。


「始めに聞くけど、いい知らせ? それとも悪い知らせ?」

「俺達にとっては良い話だが、お前にとっては悪い話だろうな」


 ユーマは目を見開いた。この声は、まさか。語調を強くして尋ねる。


「……エルファ。何故君が話しているんだ」

「まさか、キャンプに二人で攻め込んでくるとは思わなかったぞ。ユーマ、陰湿なお前らしい作戦だな。だが残念ながら……返り討ちにさせてもらった。どうする? 助けたいか?」

「何が言いたいのさ」

「簡単だ。B組の風船を割れ。ただし、今から六時間以内にだ。それを超えた場合、俺たちA組C組連合が総攻撃を仕掛ける」

「連合だって?」

「ああ、A組とC組は手を組んだ。ついでに教えてやるが、お前が潰したC組キャンプに取り残された者は、既に救出できたとの報告が入った。怪我人もいるが、それでも大多数は無事だからな。恩に着るぞ。お前が情けを掛けてくれたおかげだ」


 しまった、と後悔しても遅かった。やはり、あの時全滅させておけばよかった。

 ユーマは時計を見た。針は九とちょうど十二を指している。六時間後は、三時だ。 

 

「一応聞くけど、言う事を聞かなかったら?」

「……想像に任せるさ」


 ――なるほどね。

 通信は一方的に切られた。ユーマは拳を固めると、笑みを浮かべ思考をフル回転させた。シュラが戻ってきたが、構わずに考え続ける。

 ――舐めるなよガキが。すぐに面喰わせてやるよ。

 何百もの可能性を探り、シュミレートし、ユーマはついに一つの結果を得た。時計を見ると、あと一時間しかなかった。すぐさま行動を起こすしかない。


「皆、聞いてくれ。五時間前に、A組キャンプへ奇襲を掛けた二人が返り討ちにあって、今掴まってる」

「……え? うそだろ」

「あの連絡はそういう事だったのかよ」

「そこで、今から救出作戦を決行する。作戦はこうだ」


 ユーマはA組とC組が組んでいることなど、大まかな事を言いながら、地図に色々と掻き込んで行った。赤で囲んだA組キャンプを指で指し、口を開いた。


「まず、ボク一人でここに行く。君達三人は、この時はまだ隠れていてくれ。最初にボクが、二人を出すように言う。恐らく断られるだろうけど、その時シエルかルカジのどちらかが、声を上げるようなアクションを起こす。そこで大事なのが……」


 ユーマはウサギの駒を置いた。


「その声を聞き取ることだ。どんなに小さな声でも、必ず聞き取ってもらわないと困る。聞き取ったら、その場所をカガミに伝える。地上からも上空からも侵入は無理だろうけど、地下からなら可能性はある。モグラのグリンが二人のいる場所まで移動したら、そのまま救出。後は二人が暴れるなりなんなりしてくれるだろう」


 ユーマは「行くよ」とだけ言って外に出て行った。残された三人も続くようにしてキャンプを後にした。

 シュラに乗り、A組キャンプまで移動したユーマはずらりと並ぶ生徒たちの前に歩み出た。まるで公開処刑される犯罪者の気分だ。

 先頭の、風船を持っているエルファが一歩出て、言った。


「わざわざ、出向いてくれるとはな。何か企んでいるのか?」

「御託は良いよ。まずは、二人の無事を確認したいんだけど」

「っは。お前の考えなんてすべてお見通しだ。例えば……そこに隠れてる三人組だったりな」


 エルファはペガサスを後方の木へ飛ばした。数秒後、ペガサスは隠れていた三人を口にくわえ、戻ってきた。


「こんなことだろうと思ったぞ。さあ、観念するんだな。風船を割れ。お前の負けだユーマ」

「……ハハ」


 ユーマは小さく笑った。エルファが訝しげに聞いてくる。


「何がおかしい。気でも狂ったか?」

「まさか。いやただね。馬鹿だなあ、と思って。このボクが……そんなちんけな作戦を考えるわけないだろう」

「……まさか。これは囮だとでも?」

「うん。まあ、もう遅いけど……」


 ユーマがそう言った直後、いくつも爆発音が響き渡った。そして、悲鳴と痛みを訴える呻き声。


「な……なにを」

「空襲だよ。空からの攻撃だ。さすがに、これへの警戒は薄かったみたいだね」

「仲間がこちらの手にあるこの状況で……正気か」

「そこを付いたんだよ。仲間がいるから、仲間を巻き込むような攻撃はしないはず。甘い甘い。C組のおかげで再認識できたよ。甘さは捨て去るべきだとね。」

「……だとしてもだ。どうやって空の警備をかいくぐった」

「君は、シュラの力を見誤ってるようだね。たしかに、ライオンやトラ、ドラゴンやペガサスには力負けするけど、そう言った化け物を除けば……シュラはほとんどのタクトに勝てる。『森林の王者』の名は、案外伊達じゃない。それに、ボクがテイマーなんだよ? ……爆撃がこっちにも来るね」


 シュラの羽が空から落下してくる。エルファは悪態をつくと、ペガサスに乗り上空へ飛び立った。加えられていた三人は放り投げられたが、シュラがすれすれでキャッチした。


「ごくろうだったね、シュラ。上空に居た全てのタクトを倒すとは、さすがだね」

「俺を誰だと思っている。そんじょそこらの奴らに負けるつもりは毛頭ない」

「だろうね。後は、エルファが捕まるのを待つだけ」


 ユーマは上を見上げた。そこには、無数の羽に追われているエルファの姿があった。


「《ホーミングフェザーボム》。指物ペガサスと言えど、何処までも追跡する高速の羽からは逃げられないだろう。……ほら、捕まった」


 大袈裟な爆発が、中空で引き起こった。ペガサスを地に落とすことは叶わなかったが、風船を割ることは出来た。時間が早すぎるが、勝利を祝す花火といったところだろう。

 ――さあ、後は待つだけだ。

 ユーマが前を見ていると、しばらくしてそれはやってきた。


「怪我はないかい、シエル?」

「はい。すいません。ユーマ様のお手を煩わせてしまい。お詫びに、C組の大将を連れてきました」

「さすがだ。終わりには早いかもしれないけど、まあいいや」


 ユーマは気を失っているC組大将の風船を割った。パン、という音がやけに大きく響き、模擬戦争の終わりを知らせた。

 


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