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ドラゴンの猛威

 強烈な閃光により、視覚を奪われたハイドだが、その気配は簡単に察知できていた。あの時、選別の際に感じ取った、圧倒的強者の威圧感。それが今、ここに来ている。

 ハイドは歓喜した。その強者は恐らく、いや確実にユーマより強いからだ。


「ジキル、敵はどんな奴だ」

「テイマーは金髪のガキ。それとタクトは、ドラゴンだな」

「ドラゴンか。そいつは……楽しみだなあ」


 笑みを浮かべるハイドを見ながら、ルークは考えた。眼が回復するのには、三分もあれば十分なはず。ユーマがこれほど消耗するほどの相手だが、勝算はそこにある。電光石火の如き猛撃で、一気に畳み掛けるが吉。


「チェイン、その……こんなこと言うのも、頼りなさすぎるけどよ。……任せるぜ」

「さっき任されたとか言っていたのはどこの誰だ?」

「なっ、それは、場の流れって言うか、とにかく! 振り落されないように頑張るから、スキルが使いたいときは言えよな」


 本当は離れてみておきたいところだが、そうするとスキル使用の際の疲労が大きくなってしまう。ドラゴンレベルのスキルを使うとなれば、そんな余裕はない。こういう時のために、皆がタクトとのコミュニケーションを取る時間を、体を鍛える時間に当てたのだから。きっと、大丈夫のはずだ。

 ルークはチェインの首筋に生えている毛をしっかりと握り、叫んだ。


「行け、チェイン!」


 ノーモーションで、いきなり新幹線並の速さに加速したチェインは、ジキルへと豪快に爪を振るった。察知したジキルが右へステップし、直ぐに反撃の突進を繰り出す。チェインはタックルを受け止めると、牙を剥き素早く首に噛みついた。

 瞬間、チェインを強烈な電撃が襲った。ハイドがスキル《スパーク》を使ったことで、ジキルの体が放電したのだ。


「どうした? 大丈夫か!」

「誰に言ってる。おい、《コールドブレス》を使うぞ」

「分かった。やってくれ!」


 チェインは一気に、今度はジキルにも反応できないほど加速すると、頭突きで湖に沈めた。そこに、《コールドブレス》で氷点下の息を吹きかけると、湖はたちまち凍ってしまった。

 しかし次の瞬間、その氷にひびが入ったかと思うと、ジキルが氷を砕き飛び出てきた。空を蹴り、瞬く間に距離を詰めると、その体毛をチーター柄からトラ柄に変え、右前脚のパンチを繰り出す。

 まともに受けたチェインだったが、その場で踏みとどまると尻尾でジキルを薙ぎ払った。チェインとは反対に、吹き飛ぶことで衝撃を受け流したジキルを追い、さらに尻尾で突きを放つ。


「おい小僧!」

「ああ、《コールドクロー》だ!」


 左右の爪が冷気を纏う。丁度バツを描くように斬りつけて、追撃に回転の勢いで尻尾を打ち付けた。

 

「そろそろあいつの眼が治る頃だと思うけど、やったか?」

「その言葉は、仕留めきれてないのと同じだぜ」

「――ッ!」

 

 素早く振り返ると、ジキルとハイドはすぐ後ろに居た。かなりのダメージを負ってはいるようだが、あれだけやっておいてまだ動けるとは、丈夫にも程がある、と言う疑問を胸の内に押し込み、ルークは拳銃を構えた。

 引き金を絞り、飛び出て行った弾丸を首を傾げて避けたハイドが、軽い笑みを浮かべ言った。


「テイマー同士の戦いは、契約者とタクトの力の合計で決まる。手前のドラゴンと比べれば劣るが、俺が加わることで、その分はカバーできる。喰らいな。ネコ科最強の一撃――」

「っく。チェイン、避けろ!」

「……無理だ。どうも、今までの攻防で電流を流され続けていたらしい。痺れて動けん」

「そんな……」

「スペシャルスキル《キャッツインパクト》」

 

 ジキルの右手が、超高速の拳を突きだした。その一連の構えは、ネコ科の生物に受け継がれる最強の攻撃――俗に猫パンチと言われるそれであった。

 名前は可愛いが、しかしその威力は異常の一言だった。浮き島に吹き飛んだチェインの体は、島を破壊し、勢いを止めることなく湖の深くまで潜ってしまった。

 それでも、勝負はまだ終わっていない。チェインはジキルの真下から襲いかかり、噛みついた。スキル《コールドファング》の力により、ジキルの体温が徐々に奪われていく。


「チェイン、そのまま《コールドブレス》だ!」

「させるか! ジキル、《エレクトリックパーティー》!」


 電撃と氷結の力がぶつかり合う。直後に、高エネルギーがぶつかったことで爆発が起こり、両者が距離を取る形になる。電撃を浴びたことで、体から煙を上げるチェインと、絶対零度の如き攻撃を喰らったために所々が凍り付いているジキル。どちらも、相当なダメージだった。

 互角に見える勝負だが、決定的に違っている個所があった。


「かなり傷を負ったなあ。大分辛そうだぞ」

「くっそ……」

「ま、普通の人間にすれば丈夫な方だとは思うが、それにも程度はある。そろそろ、立つのもつらくなってきたんじゃねえか?」


 契約者の差である。どういう訳かほとんど疲弊した様子がないハイドに対し、ルークはぼろぼろだった。度重なるスキルの使用に、高速で動くチェインにしがみつく際の疲労までもが合わさり、これ以上は無理かに思えた。

 それでも、諦めるという選択肢は思いつかなかった。と言うより、思いつくはずがない。


「ようやく役に立てるんだ。ここで、諦めたらダメだろうが……!」

「言ってみろ。お前は何をするんだ?」


 試すようなチェインの言葉に、ルークは強い決意を持って答えた。


「アイツに勝つ! 何が何でも!」

「ふん。良い面構えじゃねえか。指示はなんだ」

「こっちも余裕がねえから、一撃で決める必要がある。だから、あれを使う」


 チェインは笑うかのように牙を剥いて見せた。そして、低い声で忠告する。


「……ぶっ倒れても知らねえぞ」

「知ったこっちゃないさ。ハイドを倒すのが、今の俺の役目だ」


 ハイドが嬉々として叫んだ。


「覚悟を決めたようだな! 俺は嬉しいぞ、強いやつと闘えてなあ!」

「変態が……これで終わりにしてやるよ」


 ルークの人差し指が、ハイドを指した。大きく息を吸い込み、高らかにスキルの名を口にする。 

 

「《アブソリュートゼロ》!!」


 チェインの大きな口から、直径十メートルは有ろうかと言う氷の球が吐き出された。球はゆっくりとハイドの真上にたどり着くと、不意に弾けた。

 瞬間、無数の弾丸がハイドたちに降り注いだ。ジキルをトラからチーターに戻し、間一髪のところで避けたが、外れた弾の行方を見て、ジキルは目を見開いた。


「ここら一体の湖が凍ってやがる。なんつー無茶苦茶な!」


 さすがのハイドでも、氷像にされてはかなわない。見誤っていたかもしれない。ドラゴンの猛威を、その規格外性を。弾丸の数は、控えめに見ても千はあるだろうか。しかも追尾してくるなど、正気の沙汰ではない。

 四方八方から襲い来る絶対零度は、遂にハイドの逃げ道を失くした。  

 ――まずい。こんなところで、ゲームオーバーなのか?


「チクショオオオ!」


 怒りを露わにするのと同時に、弾丸が降り注いだ。

 


 終わった、とそう思った。しかし、ハイドは生きていた。見れば、自分の盾になるように、氷の塊が浮いている。重力に従いその氷塊下に落ちていく。  

 いったい何が起こった? いや今はそれよりも、


「あのガキィ……殺してやる」


 自らを殺しかけた、最強であるはずの自分に恐怖を抱かせた竜使いを、放っておくわけにはいかなかった。ジキルの鋭い爪が、気を失ったルークに付きたてられるその時――


「それ以上は、いけませんねえ」

「ハゲの言うとおりだ。子供にキレんなよ。馬鹿」

「取りあえず、ルークは回収しますよ。ガイスト先生と、えーと本名なんでしたっけ?」

「ハゲでいいだろ」

「良くないです! ウスイって名前がありますよ!」

「やっぱ薄いんじゃねえか」

「あんたは一々うるさいな!」

「この二人は放っておくとして、ユーマ・ヴォルデモートは棄権した。これ以上の闘いは認めれんな」


 王立テイマー育成学園、一年生各クラス担任と、学年主任の四人がハイドとジキルの体を羽交い絞めにして止めた。十メートルは有りそうな巨大サルと巨大イカがジキルを、カメレオンの下でハイドを縛って、と言う分担だ。

自らの小鳥型タクト(とはいっても、十分に巨大)に乗ったライジは、ルークを回収している。 


「ぐ……、離せ!」

「離すわけないだろう。落ち着け」

「知ったことか!」


 ハイドはジキルに攻撃するよう命じた。それに従い、暴れようとしたジキルを、ハイドにすら視認できないスピードで飛来した何かが、襲った。

 一瞬で気を失ったジキルを見て唖然としながらも、ハイドはその犯人であろう人物の名を叫んだ。


「何処に居やがる、ルート!」

「ここだよ。君の真後ろ」


 声に反応し、振り向くと、確かにいた。少し長めの茶髪で、隙のない構えの、ハイドが知る限り最も謎多き人物。何故か、ユーマも一緒にいる。


「何故ここに居る」

「酷い言い草だな。ボクが助けなかったら、ハイド死んでたと思うけど」

「あれはお前のやったことか……」

「あのさ、話してるとこ悪いんだけど、聞いていいかい?」


 ユーマが会話に割り込み、質問した。


「ルート・ビーテルとか言ったけ。あなた、何者なの?」

「え? ボクのこと知らないの?」


 ルートは参ったという風に頭を掻きながら、明るく答えた。


「ボク、生徒会長なんだけど」 

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