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会議

今回、少し短めです。

 翌朝、目覚めてすぐに、ユーマは異変に気付いた。


 ――あれ。体が、動かない?









 ~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「てなわけで、ユーマはこれませんけど……」

「これませんけどじゃないわよ! 彼が一番の重罪でしょうが!」


 広々とした生徒会室で、一際響く声で、生徒会書記にして新聞部部長のヘレンはそう言った。戸惑いながらも、何か言い返そうとするルークに、また別の人物が追い打ちをかける。


「普通ならひこずってでも連れてくるべきだよね。君らのせいで、ボクたちの一日が犠牲になるんだ。まあ、ボクはさぼれるからいいんだけど。それより、窓ガラス割ったのって、今回が初めてじゃないよね? 前にも割ったよね。何、窓ガラスを割りたい衝動にでも駆られたの? だとすれば病院に行ってみてもらった方が……」

「おい、もういいだろ。話が長いぞ、キラ。とりあえず、ユーマ・ヴェルデモートと、生徒会長さんは欠席ってことで始めるぞ」


 不服さを表すように、パック入りジュースを音を上げて吸ったのは、会計を務めるキラ・コークス。七歳の時に入学し、学園始まって以来の麒麟児として話題になった、ユーマたちと同い年の先輩である。『情報屋』としての顔も持ち合わせており、学園の要注意人物だ。

 もう一人の名は、リオネ・コイル。生徒会のナンバー2、副会長の任に就いている。粗暴な口調と、鋭い眼のせいでたびたび男に間違われることもあるが、本人はそれを気にしていないらしい。

 ルークとシエル、風紀委員長のゲイツに、エルファ、雑務のエリックを見渡し、リオネが口を開いた。


「まず、そもそもの問題はエリックが図書部部室から本を盗み出していたこと、でいいな?」

「ああ、それは認めよう。一つ訂正するなら、俺の前にも本を盗み出す生徒は居たが」


 エリックが肯定したのを確認して、続ける。


「そして、それはいつしか七不思議となり、謎を暴いてやろうと乗り出したのが……」

「そこの、風紀委員長君を含む四人と、ユーマ・ヴォルデモートだ。こっからは、ボクの出番だ」


 キラが言葉を繋ぎ、黒い手帳を取り出した。


「罪の重い順に並べると、エリック、ユーマ、エルファ、ゲイツ、そして、残りの二人と言ったところか。いや、ルークの方はガラス割ったからその分も入れないといけないか?」

「あれ俺の責任かよ!?」

「黙れ。そうだな……エリック、本を盗んだトリックを教えてくれるかい」

「トリックだと? 何故だ」

「何となくだよ。でも、はっきりさせておいた方がいいと思うけど」


 エリックは少し考えるそぶりを見せ、頷いた。席から立ち上がり、ポッケからクモを取出し、話を始める。


「致命的に簡単なことだ。俺のタクト、クラウドの糸を窓から侵入させて本に引っ付け、巻き取る。これだけだが?」

「鍵はどうやって開けたの?」

「クモの糸をあまり舐めてくれるな。窓の隙間に入り込むくらい朝飯前だ」


 そう言い、エリックが円卓の上へクモのクラウドを放った。カサカサと動くそれに、ヘレンが思わず身を仰け反らす。


「ちょ、気持ち悪いから仕舞いなさいよ!」

「気持ち悪いだと!? 致命的にカチンと来たぞ、どこが気持ち悪いのだ! これほど素敵な生物、他におらんだろう!」

「何処が素敵よ! って、あんたわざとこっちに来させてるでしょ!」

蚯蚓みみず飼ってるやつが、気持ち悪い言える立場か!」

「ミ、ミミズゥ!?」


 一年生三人組が揃えて声を上げた。エリックがそれを察知し、ヘレンを指差して意気揚々と言った。


「教えておいてやろう。こいつはミミズ型のタクトと契約しているが、その大きさは実に十メートル! 高さにしても二メートルは有る!」

「先輩に向かってこいつとは失礼ね! 今それは関係ないでしょ?」

「ヘレン姉さん、止めときなって」

「キラは黙ってなさい」

「ガキが出る幕じゃないのだよ!」 

 

 瞬間、プチンと。実際にそんな音がしたのかどうかは不明だが、キラの脳内でそれは聞こえた。つまりは、堪忍袋の緒が切れた。

 そして、二人は、というよりヘレンは強烈に後悔した。この十歳児を敵に回してしまったことを。


「……副会長ー、少し黙っててね」

「はいはい。と言っても、女の子は避難させとくか。おーい、シエルちゃん」


 先程とは違う、白い手帳を取り出したキラは、とあるページを開き音読し始めた。その直前に、リオネはシエルの耳と眼を強制的に塞いだ。


「エリック・シュタイン。二年前、何者かが国立図書館へ不法侵入し、観覧不可の書物を持ち出した、って事件あったけど、これ君が犯人だよね? 駄目だよ、返さなきゃ。あ、それと。テストの点は今年もいいみたいだね。ほとんどの教科が百点だ。けど、美術だけは九十二点だ。絵を描くのは苦手なんだね。お父様は画家のはずだけど……って、養子だからそれは関係ないか」

「なっ、何故そんなことまで……」

「次、ヘレン姉さんね」

「ストップ、ストップ。落ち着きなさいキラ。あたしたちが悪かったって、ね?」


 何とか説得しようと、ヘレンが頑張った末、キラは、


「……じゃあ、売店の百パーセントオレンジ果汁ジュース五百本で」


 と、なかなかに無茶な要求を提示して手帳をしまった。五百本など、金額にすれば『times』一ヶ月の売り上げ以上の出費だが、キラに何もかも暴露されるよりはよっぽどマシだ。

 席に戻る間際、キラがぼそりと呟いた「情報が欲しかったら、現金かジュース持ってきてね。報酬にもよるけど、国家機密レベルぐらいなら、調べてあげるよ」と言う言葉に、ルークとエルファが戦慄を覚えたのは二人の内だけの秘密である。

 一方、シエルの方はと言うとリオネに「お前は何も見てないし聞いていない」と、怖い顔で言われたので、さっきの十数秒で何があったのかを知ることすらできなかった。


「えーと。話が随分それたから、本題に戻るぜ。処分の件だが、勝手に本を持ち出したエリックは一ヶ月、無断で寮を抜け出し、ライジ教諭に薬を盛るよう仕向けたユーマは三週間の、エルファは二週間で、他の三人は一週間。あと、ガラスの弁償代。こんなところでどうだ?」

「少し軽すぎるような気もするけど、副会長の決定なら構わないよ」


 続けてヘレンも賛同し、会議はお開きとなった。







 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 生徒会室で会議が行われている頃、屋上では一人の生徒が携帯電話を手にし、誰かと話していた。


「ええ、分かってますよ。任しておいてください。票は、俺が荒稼ぎしますって」

『そうか、なら最後に一つ聞かせてくれ。誰が、怪しいと思う?』

「そうですねえ。俺が思うのは――」


 その生徒は、後ろを振り返った。眼に写るのは、青い空と、コンクリートに横たわる大勢の生徒。軽い笑みを浮かべて、言葉を繋げる。


「ユーマ・ヴェルデモート。あいつですかね」

『それは、君の勘かい?』

「ええ、あいつは、俺達と同じ匂いがする。多分、『同族』かと」

『分かった。参考にさせてもらうよ、ハイド』


 そこで、電話は切れた。プープ-、という電子音を聞きながら、生徒――ハイドは内心で呟いた。

 ――人をまとめるのに必要なのは、羨望なんかじゃない。恐怖だ。まだまだ甘いんだよ。

 

「ま、それはともかく。あの人――生徒会長も頑張るよなあ」


 一人の頭を踏みつけ、最後にぽつりと言葉を漏らす。


「……そんなに、『元の世界』へ帰りたいかね? それは、俺もだけど」   

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