ニューゲーム
飛鳥悠馬は、ある時世界に絶望した。
傑出した才能を持つだけで、異常ともいえるほど優秀だっただけで、彼は化け物と認識された。大人たちからは気味悪がられ、同年代の子供からは嫉妬からか何かは分からないが、壮絶ないじめにあった。
――この世界ほど馬鹿馬鹿しい物はない。
いつからかそう思い込み、彼は世界に絶望した。このふざけた場所へいる必要はない。だから、彼は決めた。この世界とお別れしようと。ただ、普通に死ぬのは面白くなかった。どうせなら、世界に思いっきり迷惑をかけて死にたかった。
それがこの世界への復讐。悠馬の自分勝手な八つ当たり。
そのための計画を立てると、彼はさっそく実行に移した。まずは金を手に入れることからだ。運が良いことに、彼の両親がその世界では有名な資産家だった。両親を他殺に見せかけ殺すことで、莫大な資産を受け継ぐことには成功した。自分は被害者ヅラすることで、何も疑われなかった。
子供だった、ということもあるし、何より彼の親が死のうと彼自身が死のうとその町の住民には関係なかったのだから当然のことだ。とにかく、ここまで来れば後は簡単だ。金に物を言わせ材料を集め、悠馬はあるものを作りだした。
『核兵器』
現状、最も威力を持つとされる爆弾だ。あまり大きなものは作れなかったが、それでも悠馬が住む町を跡形もなく吹き飛ばすくらいの威力は持っていた。
この計画を思い立った時から、一年が過ぎていた。悠馬は起爆スイッチを手に持ち、恍惚の表情を浮かべた。
「さあ、始めようか。この街の、終わりを」
――この街の生ゴミ共は、自らの命運がボクに握られているとはこれっぽっちも思っていない。
そう思うと、何故だか笑いが止まらなくなってきた。今日も当たり前の毎日が来ると勘違いしている何万人もの人々の命を、奪うことが出来る。狂っている思想だと、悠馬自身思うが、関係ない。
「だって……みんな今日で死ぬんだから」
悠馬はスイッチを押しこんだ。ピー、と電子音が鳴る。
「バイバイ。汚れきった世界」
何かが光ったと認識するまでもなく、悠馬の命は消え去った。
――――おかしい。
暗闇の中、悠馬は心の内で呟いた。
――――何故、意識があるんだ?
その時だった。悠馬の耳に誰かの声が聞こえた。
「やっと生まれてきたわね。わたしたちのかわいい赤ちゃん」
「名前はもう決めてある。ユーマだ。ユーマ・ヴォルデモート」
「素敵な名前ね……ユーマ。あなたのお母さんよ。分かる? ……わけないか」
「いや、賢そうな顔してるし、案外分かっているのかもしれないぞ」
同調し、分かっている、と言おうとしたが飛び出たのは鳴き声だった。信じられなかった。意識はこんなにも明確にあるのに、体が付いていかない。腕や足どころか、指先の一本すら自由に動かない。全くもって意味が分からない。理解不能だ。
さっきの男女の会話、そして今の状況から、悠馬――改めユーマは混乱する頭で推理した。
――――まさか、ボクは赤ん坊に逆戻りしたって言うのか……?
まさか、そんな。だとすればそれは。最近、書店などでよく見かけるようになった、空想話に使われてる設定。所謂――『異世界転生』というやつじゃないか。
ありえない。そう思いたいが、今この身にありえている。
――――神か悪魔か知らないけど、突然変な世界に連れ込んで、ボクにどうしろと?
そんなことを考えながらも、ユーマは突如襲い掛かった強烈な眠気に負け、意識をシャットダウンした。
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