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ラドゥガ王室恋物語

謳われぬ末姫

掲載日:2011/09/04

※お相手はガチで竜です。人間になりません。

一の姫は凜とした美しさを、

二の姫は誰もが目を奪われる妖婉さを、

三の姫は花のような可憐さを、

四の姫は学者が舌を巻く聡明さを、


詩人達はそれぞれの姫を高らかに謳った。

……ただし、末の姫を除いて。



そばかすだらけの、赤毛の王女。

その少女が私の元に訪れていたのは五年前迄のこと。


森の奥深く、お世辞にも楽しいとは言い切れぬ場所。

そこに私は住んでいるのだが、

彼女はそんな事を気にすることなく毎日足を運んできた。


十にも満たない、それも一国の姫が護衛も付けず…

そう心配していたのは言うまでもない。

確か彼女の家族は溺愛しているのではなかったのか?

だからこそ自由にさせているのか…

いやいや放任主義にも程があるだろう、と色々考えたものの、

ただ私は彼女の相手をするだけだった。


「……またいじめられたのか、ウィーニ」


ある日、訪ねてきた彼女はボロボロと大粒の涙をこぼして。

何を言うでもなく、ただ静かに泣き続ける。

その痛ましい姿を見ていられず、私は静かに果物を差し出す。


何故、泣く娘を慰めないのか。私は口下手だからだ。

言葉で伝わらぬのなら、行動で示すしかない。

私は旨い物を食えば幸せになる、よってこの動作を行った。


女心を理解していないと言われそうだが仕方あるまい。

雌など、そもそも同種にすらここ何百年会っていないのだ。

彼女が久しぶりに話した相手となる。

それに人間なら涙をぬぐえるが、私の爪では触れてしまえば傷つく。


鱗に覆われた巨躯、鋭い牙に尖った角。

そう、私は竜なのだ、何千年もこの森に居座る。

そして彼女はこの国の末姫。もちろん人間である。


奇特な彼女は何を思ってか、

お伽噺に出てくる王子ではなく、姫を攫う竜に興味を持った。

残念ながら悪い竜はいなかったが、近くに住む私の話を聞き、

いざ出陣……と何とも軽いノリで会いに来たのが始まりである。


その話を聞いた時はこの国大丈夫か、と悩んだものだが、

毎日雨の日も嵐の日も繰り返されたならば、

この奇想天外な彼女にも慣れてしまった。

一応、天気が悪い日は来るなと叱るが聞き耳持たず。

下らぬ私の話で楽しんでくれるのは嬉しいが、

怪我をされてはと心配する私の気持ちなど知らぬのだろう。


話を元に戻そう。

今のよう、時折彼女は泣いた状態で会いに来る。

正直、非常に困惑するので勘弁してくれとは思うが邪険にはできない。

私は少なからず、彼女に好意を抱いているからだ。

でかい蜥蜴風情が何をほざいているのだろうな。


「どうして、私はこんなに醜いの。

 父上も母上も姉上達も綺麗なのに。

 こんな姿じゃ、お嫁さんになんてなれない」


彼女はよく家族以外の男に詰られるらしい。

赤毛やそばかすといった彼女の個性を。

容姿など年を取れば衰える、それに所詮皮一枚の話だろうに、

それをバカにするなどなんとその男共は愚かなのか。

彼女の話を聞く度、罵った醜男共を殺してやりたくなる。


ぐずぐずと鼻を鳴らす。

ああ、そんなに擦ってはだめだ。赤くなっているだろう。

慰めの言葉一つ浮かばぬ私は焦ることしかできない。


「もし、どうしても妃になりたいなら私が娶るさ。

 ……私はお前が好きだから」


彼女の泣き顔はひどく私の心を揺さぶる。

だから、ついうっかり本音を漏らして。

相当驚いたらしい、瑠璃の瞳は今にもこぼれ落ちそうだ。


「本当?本当に?」

「ああ、嘘は吐けぬ」

「私、不細工だよ。そばかすだらけで赤毛で」

「私もこの通り鱗だらけで目つきが悪いぞ。

 気にするな。そもそも私はお前を醜いなんて思えん」


私の口説き文句にもならぬ告白に、

ぱああ、と彼女は心底嬉しそうな顔をする。

ちなみに先程の言葉は嘘ではない。

照れくさくて言えぬが、私は彼女が愛らしくてたまらないのだ。


「約束、約束よ、エリオット。

 私、貴方がもっと好きになってもらえるよう頑張るから。

 絶対にお嫁さんにしてね」

「……待っておるぞ」


無論、この約束は果たせぬのだろう。

私は竜だ、人になることは叶わぬ。

人を想うことはできても、愛されることはない。


きっと彼女も年ごろになれば、

容姿など気にせず愛してくれる者が現れるはずだ。

だから私はただ愛する彼女の幸福を願うだけ。


この逢瀬を最後に彼女が森を訪れることはなかった。




あれから五年の月日が経って、

最近、よくウィーニの噂を聞くようになった。

どうも彼女はとても美しい娘になったらしい。


それだけではない、

魔法の才もあり、国に大きく貢献しているのだと。

おかげで求婚者が耐えぬと耳にした。

風の便りでは近々結婚すると。

たぶん相手は隣国の王子だと囁かれている。


元々届かぬ相手とはわかっていたが、少し胸が痛んだ。

でも幸せになってくれて私は嬉しい。

そう、嬉しいのだ。彼女が愛する人間と結ばれたなら。


「……なのに、何故ここにいるのだ。ウィーニ」


にこにこと私の足下に立つ娘に問いかける。

彼女は会わぬ間にとても美しくなった。

それでも笑顔は変わらず、私は一目で気付いたのだが。


「約束通りお嫁に来ましたわ、エリオット!」

「……は?」


呆然とする私に彼女は形の良い眉を顰めた。

むすっ、と唇をとがらせ、非難めいた声で私を叩く。


「エリオット、待ってくれるって言ったじゃない!

 お嫁さんにしてくれるって……」

「いや、それはどうしても嫁ぎ先が決まらなかった時の……」


今のお前なら腐るほどいるだろ?

そう返したなら、彼女は更に機嫌を悪くする。何故に。

そもそも噂の王子はどうしたのだ。


「お前は隣国の王子に嫁ぐのだろう?」

「ありえませんわ!

 あんな顔だけヒョッロヒョロの貧弱王子なんて!」

「強い相手がいいなら、あの要塞国の将軍でも……」

「アイツ、まだ私が磨かれる前散々バカにしてくれましたの。

 そのくせ、私が謳われるようになってからは

 掌返して求婚求婚……思い出しただけで反吐が出ますわ」


ケッと荒んだ動作に驚きを隠せない私を置いて、

彼女は唯一鱗のない腹の部分へ擦り寄ってくる。


「私、ずっとずっと貴方が大好きでしたの。

 醜かった私を女として愛してくれたのは貴方だけ」

「……私は竜だぞ?

 それにお前が良くてもお前の家族が」

「竜と人間の夫婦なんてよくある話ですわ。

 あと家族は『孫が生まれたら見せに来てね』と

 温かく送りだしてくれましたわ」


今、さらっと爆弾を落とさなかったか。

彼女の発言を反芻する。おかしい、絶対におかしい。

だがマイペースな彼女は動揺する私に気付くことなく、


「私の全てを貴方に捧げます、エリオット」


花すら見とれると謳われる笑みを向けたのだった。




昔々誰にも謳われなかった王女様は、

星をも焦がれる美姫となりました。


美姫となった彼女の元には、

数多の男達が求婚しましたが、

彼女は全てを蹴り飛ばし、森の主である竜へと嫁いだのでした。


え?その後どうなったのかって?

一年も経たぬうちに国が姫の誕生に大喜びし、

十年後には森の住人が六人になっていたとさ。


そしてめでたしめでたしで物語は結ばれるのです。

ヒロインの方が男前大好き故、これからもこんな感じで。

次は一番上のお姉さんのお話でも。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 男前の少女っていいですよね! こういう感じであっさり周りを蹴って好きな人と結婚する話。かなり好物です
[一言] …うん、姉妹シリーズだとこれが一番好きだわー 男前ヒロイン?大好物です、むしろ引っ張ってもらいたいです そんな俺にはこの末っ子姫様が一番大好物です
[一言] ばいおれんじ様厨の私が通ります。 今更、本当に今更ではございますが、素晴しい話をありがとうございます。 ついつい、この話を読み返して涙を流してしまった次第です。
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