夏休みの始まり
『ジェネシス』へのログインを控えてから10日間。プリントの裏で作ったテスト勉強の計画表も何とか計画通りこなすことが出来た。そして怒涛のテスト期間。直前であがいたお陰か、テスト自体の感触は・・・たぶん大丈夫。たぶん。いや、分かんないけど。
『ジェネシス』のインを控えたことで、必然的に野崎との音声チャットもこの10日間していない。ちょうどまさやん達と教室で勉強会をした日の夜に、野崎には「テストやばいのでジェネシスしばらく控えます」ってメールはしたんだけど。「分かった」とだけ返信が来た。さすがに野崎もあれからはログインしてないんだとは思う。確認してないけど。
まぁ、とにかく何が言いたいのかっつーと、とりあえず学期末のイベントごとは終了し、今俺達は体育館にいて、壇上に上がって校長が生徒の心意気みたいなの話をしてるってことで。まぁ、何でかって言うとうちの学校、長い休み明けると髪が茶になってたりする子が結構いるから。「だめだぞー」って、そういってるわけで。
はい!!来ました夏休み!!
校長からの心意気を綺麗に受け流した後、教室に戻る。後は夏休み中の課題の配布や、諸連絡をして今日は終わりだ。明日から夏休みに突入するため、皆かなり浮き足立っている感じで教室はガヤガヤとうるさい。部活に入ってる人は夏休み中も部活で忙しいのだろうけど、俺は帰宅部なので夏休みがフルで休みになっている。つまり、『ジェネシス』がやりたい放題なわけで。自然と頬が緩む。やべーテンション上がってきた。
「神谷っち嬉しそう。夏休み予定いっぱいなの?」
前の席からよっちゃんが話しかけてきた。
「いや、遊ぶ予定とかはまだ入ってないよ!あ、でも皆で旅行行こうぜって話になってる」
「えー!いいなぁ、私も旅行行きたいなぁ」
「行けばいいじゃん!!戸田さんとか、三国さんとかと」
「そうだねー!そうしよっかなぁー・・・。あ、そうだ神谷っち」
「ん?」
よっちゃんがごそごそとポケットをいじりだす。携帯を取り出すと
「私、実は神谷っちのアド知らないんだよね。交換しよう?」
と言ってきた。
「あれ?そうだっけ?」
「そうだよー?っていうか神谷っち、クラスの女の子とアド交換とかしたことないでしょー?私もタイミング掴めなかったのさぁ」
よっちゃんがおどけて言う。つーかさっきから俺の後方からすげープレッシャー来てない?石田じゃない?石田からの俺に対する気当たりが凄いんですけど。絶対振り返らないけどな!!
「あー・・・。あはは」
野崎のことが頭をよぎるけど、ここで正直に言うことでもないと思い、黙っておく。ガヤガヤと騒がしい教室でよっちゃんとメルアド交換をした。
「おっけ、登録したよ」
携帯に「大野良美」と登録しようとして、ふと思い直すと「よっちゃん」で登録し直す。登録完了画面をよっちゃんに見せるとふにゃっと笑った。あ、後ろからの圧がやべえ。
「・・・神谷っち、夏休み、もしね、もし暇だったら遊ばない?遊びたいな、私」
「あ、マジで?全然おっけーだけど・・・」
返事をした途端によっちゃんが驚いた顔をしたのでそれを見て俺も驚いてしまった。え?何?
「ほんと?」
「え!?あ、うん。え!?うん!!」
「じゃあ、映画見に行きたいなぁ!!」
よっちゃんがニコニコしながら言う。いやぁ、よっちゃんの笑顔は癒されますね。
「いいね!あ、日時とか調整しなきゃいけないから、まさやんとかのメアドも教えようか?」
「え?」
よっちゃんが戸惑った表情をする。あれ?俺変なこと言った?
「あ、本人に確認取らないで教えちゃ駄目か。じゃあ、とりあえず俺がよっちゃんに連絡取れればいいよね?よっちゃんの他は戸田さんと三国さんってことでおっけー?」
「・・・うん!!私も女の子誘っておくね!!そのメンバーになると思う!!」
「じゃあ具体的な日時とかはメールして決めよっか」
「うん!あ、それじゃあ私早速2人に話してくるよ!」
そういうとよっちゃんは仲の良い戸田さんと三国さんのいる席へ行ってしまった。見ました?歩いてるだけで音がしそうでしょ?あ、全然伝わらない?あ、はーい。
「・・・石田」
後ろを振り返らずに石田に話しかける。
「・・・何だよ」
「映画見たく「超見たい」ね?」
返事早えよ!!!!
HRも無事に終わり、何となしに野崎の方を見ると天野さん達と楽しそうに話していた。たぶんだけど、夏休みの予定でも合わせているのだろう。・・・野崎は夏休み中忙しいのだろうか?『ジェネシス』どれ位するんだろう。そんなことをぼんやり思っていたら必要以上に野崎のグループを見つめすぎていたせいか、天野さんとばっちり目が合ってしまった。
咄嗟に視線を逸らす。ギャル怖い。
帰り支度をしているとまさやん達が寄ってきた。
「礼ちゃん、この後暇?駅でマック寄ってから帰んない?」
「あ、あー・・・。ちょっとごめん、俺今日用があるんだわ」
「マジで?何?」
「あー・・・ね?」
やっべ何も言い訳を考えてなかった。
「・・・まさか、まさかとは思うけど、ネトゲしたいから、とかじゃ・・・ないよね?」
ノブが眉を潜めながら言う。
「いや、まさか!!まさか、俺らの誘いを断ってネトゲを優先するのはありえないっしょー?」
ツトムが声の調子を変えて言う。
「まぁ、無いとは思うけど、無いとは思うけれども、もしも万が一そんな理由だったらー・・・礼ちゃんは夏の間中ハブということになりますなぁ」
まさやんがわざとらしく言う。ここは、冷静に切り返さないとやばい。
「いいいい、いややや!!そそ、そんなわけな、ないじゃないですか!!!」
「完全にクロじゃねえか」
「嘘発見器の目盛り振り切ってるレベルのリアクションだろそれ」
「はい、礼ちゃんお持ち帰り決定―」
ノブとツトムに両脇を抱えられたまま俺は駅前のマックへと連れ去られていった。
込み合う店内でかろうじて4人座れる席を確保する。ハンバーガーに食らいつきながら夏休みの計画を立てることになった。
「まぁ、俺は部活の合宿がすぐにあるけど、盆休みは取れるから、やっぱそこら辺でしょ」
まさやんが話を切り出す。まさやんはサッカー部でレギュラーを張っているので、部活を休むことは原則として考えられない。まぁ、それはノブもツトムも一緒だろうけど。
「まぁ実際、部活やってたらそうだよなー、まして俺ら部活全然別だし」
「礼ちゃんには悪いけど、俺らに合わせてもらうってことで」
「おっけー」
「・・・あれ、でも盆って今から宿取るの無理じゃね?」
ノブの発言にはっとする。確かに。お盆はどこも予約でいっぱいかもしれない。
「漫画喫茶でいいじゃん」
ツトムが何でもないように言う。
「漫喫?」
「そうそう。2泊位だったらどっかの漫喫でもいけると思うよ。フラットシートなら全然寝れるし、ナイトパックで8~10時間とかあるしさ。金も1500~2000円とかそこらじゃない?」
「え、だって風呂とかは?」
「いや、全部が全部じゃないけどシャワー付いてる漫喫あるからさ。それでいいじゃん」
「・・・それでいく?」
「まぁ、何とかなるんじゃない?」
「最悪、野宿でいいじゃん!!」
ノブが明るく言う。本当に最悪だなそれ!!
「頑張れ礼ちゃん!!」
「よ!!野生児!!」
まさやんとツトムがにっこり微笑みながらこっちを見つめていた。
「いや、俺だけかよ!!」
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結局ダラダラとマックで過ごし、家に到着したのは3時だった。コンビニで買ってきたポテトチップスを空けると、空のコップにコーラを注ぐ。にやにやしながら『ジェネシス』にログインする。10日間しか経っていないのに久しぶりな気がする。我慢してた分、今日は深夜までぶっ通しでやろう。『ジェネシス』にログインしようとして、思い出してスカイプに先にログインする。野崎のアイコンがオフラインのままなのを確認すると、『ジェネシス』のショートカットをダブルクリックした。
ログインした途端にチャットが勢いよく流れる。
『♪LILI♪: ライアさん!!こんです!』
『黒白猫: お、こんー!!テストお疲れじゃーん!!』
『†silver†: あ、こんです!ライアさん、テストお疲れ様ですv^^v』
『☆星龍☆: あ、ライアさんお久しぶりです!』
10日もインしてなかったために少し不安を感じてたのが馬鹿らしくなる位、皆が温かく迎えてくれる。やっぱり『OVERLOAD』はいいギルドだなと思う。
『ライア: こんです!皆さんお久しぶりです!!テスト終わりました!!』
『♪LILI♪: お疲れ様~!!』
『†silver†: 僕も終わりましたよ!!夏休みですね!!』
『ライア: あ、そうなんですね!お疲れ様です!!>silverさん』
『☆星龍☆: テス・・・ト?』
『黒白猫: レポー・・・ト?』
『ライア: !?』
『♪LILI♪: この2人も今日から夏休みだからね!』
『ライア: お2人とも記憶喪失みたいになってますけど』
『†silver†: www』
『黒白猫: ライ・・・ア?』
『ライア: くしねさん!?』
『☆星龍☆: それはさすがに乗れないwwwww』
『黒白猫: wwwwwwwごめんライアさんwww何かいじりたくなるwwww』
『♪LILI♪: こらこら』
『ライア: ばちこいですね』
『☆星龍☆: 頼もしいwww』
ニヤニヤ笑いながらチャットを打つ。チャットを打ちながら、ふと野崎は今日はログインするのかな、と思った。
理由がまったく分からないのですが、12日からアクセス数が急増しました。読んで下さって、ありがとうございます。