なめくじとギルドマスター
くしねさん(黒白猫さんの読み方はこれが正解だそうだ。野崎教えてくれてありがとう)
とLILIさんが加わったことでパーティー全体のレベルが上がってしまったので、狩場を移動することになった。全員で狩場からフィールド画面に移動する。
ちなみにくしねさんのレベルは111、LILIさんに至っては何とレベル125だ。今はログインしていないメンバーも、この前パーティーを組んだがほとんどの人のレベルが3桁だった。OVERLOADは実は高レベルギルドだったのだ。俺はこのギルド入って本当に良かったのだろうか?
ちなみにパーティーレベルというものを説明すると、普段ソロ狩りしている場合は自分のレベルからプラスマイナス5までのモンスターを相手にするのが一番経験値が貰えるために、おおよそ自分と同じレベルのモンスターを狩るのが一般的だ。しかしパーティーを組むとパーティーメンバーのレベルの平均値が反映される。パーティーで低レベルの人が歓迎されるのは平均を引き下げて高レベルの人が狩りを容易に行えるからだ。
俺達の現在のレベル平均値は94+120+111+125で112.5となるため、フレイムボムだと効率が良くない。少なくともレベル108のモンスターが望ましい。
『黒白猫: ラセル城でもいく?』
『♪LILI♪: うーん、でもPK怖いですよね・・・』
『NANAKO: それじゃ、チアソートの最下層とか』
『ライア: 俺チアソート行ったことないけど、大丈夫ですかね』
俺の今のレベルでは湧いてくるモンスターのレベルが高すぎるために、足を踏み入れたことがない狩場だ。
『黒白猫: ・・・マジか。行っとく?www』
『♪LILI♪: なめくじ退治だね』
『ライア: なめくじ?』
『NANAKO: 行けば分かるよ>ライア』
「・・・なぁ、野崎なめくじってどういう・・・」
野崎になめくじの意味を聞こうとした瞬間にギルドチャットが流れる。
『風巳さんがログインしました』
「あ、風巳さんだ」
野崎が妙に明るい声を出した。わざと今の質問の流れをぶったぎった気がしたのは気のせいだろうか。
『風巳: |ω・)ノこん』
『黒白猫: かぜみんおいすー』
『♪LILI♪: こんー!』
『NANAKO: こんばんは!』
『ライア: かぜみさんこんばんわです』
チャットを打ち込みながら野崎にふとした疑問を口にする。
「あれ、風巳さんって社会人なんだよね?まだ夕方なのにINできるの?」
「あぁ、風巳さんってね、自営業?なんだって。私もよく分からないけど」
「そうなんだ」
「ちなみにくしねさんは大学生だし、LILIさんは専業主婦だよ」
「・・・マジかよ」
まさかのLILIさん人妻かよ。『ジェネシス』のユーザー層の幅広さハンパじゃないな。
『風巳: 皆狩り中?』
ギルドチャットのログを見たのだろう。風巳さんの言葉に皆で返信する。
『黒白猫: そうだよー!かぜみんも狩ろう』
『♪LILI♪: チアソート最下層だから風巳さんの得意分野ですよ!』
「・・・ふふっ、得意分野」
LILIさんの発言に野崎が笑い出す。
「え、どういうこと」
「風巳さんがレベル110前後だったときに引きこもってたからね、チアソート」
「あぁ、なるほど」
「・・・風巳さんパーティー入れたら平均が117だからなめくじギリギリ大丈夫か・・・」
「・・・ごめん、野崎。さっきからいってるけどなめくじって何」
「・・・百聞は一見にしかずだから」
「・・・お、おぉう・・・」
何となく野崎の有無を言わせない感じに何も言えなくなる。ギルドチャットの流れは止まっている。しばらくして風巳さんがようやく反応した。
『風巳: (゜ロ゜;)』
「え、何この顔文字」
風巳さんは割りと顔文字を駆使するタイプらしい。でもなんだこの顔文字。
「嬉しいんじゃない?」
「いや、あきらかにひきつってるだろ。白目むいてんじゃねーか」
「・・・白目むく位嬉しいんじゃない?」
「嬉しくて白目むいちゃう人に会ったことねーんだけど」
何となく不穏な空気を感じつつもギルドチャットは流れていく。
『黒白猫: ライアさんOVERLOAD入ったばっかりだし、一緒に狩りしたいでしょ?』
『♪LILI♪: 風巳さん一緒に頑張りましょう?』
「・・・LILIさんの発言おかしくない?」
チャットの流れの不自然さに思わず呟く。
「え、わかんない」
「いやわかんなくないでしょ!野崎どうした!?」
「・・・神谷ってなめくじってどう思う?」
「脈絡なさすぎるだろ・・・何その質問・・・」
「・・・やっぱ神谷って顔合わせてないと突込みとかも出来るんだね」
なんだこいつ!?でも実際その通りなので何も言い返せない!!
『風巳: (´・ω・`)』
「おいおい風巳さんとうとう顔文字でしか会話できなくなってるけど」
「大体いつもこんな感じだけどね」
「え、いつもこんな眉毛下がってるの?すげえ切ない顔に見えるんだけど」
『黒白猫: かぜみん!ここはやっぱトラウマを克服するべきっしょ!!』
「くしねさん今トラウマっつったよ!?」
「え、ごめん神谷が何言ってるかわかんない」
「いやいやいや!チャット見ろって!!」
『♪LILI♪: 大丈夫ですよ、風巳さん。怖いことなんて何もないですよ』
「野崎!!LILIさんが専業主婦どころか母性全開なんだけど!!」
「神谷さ、テスト勉強とかもうしてるの?」
「ゲームしてる!!今!!ごめん野崎、ちょっとほんと話聞いて!?」
「・・・神谷ほんとキレキレだね。学校でもそんな感じで話せばいいのに」
何それ恥ずかしい!顔真っ赤になるわ!何なのこの子!?
『風巳: ・・・ライアさん、チアソートいったことないんです?』
おっと、話を振られたぞ。ここは・・・正直に返してみよう。
『ライア: そうなんですよ、一度も無いんですけど』
『風巳: ・・・じゃあ見せてあげたいから・・・頑張る・・・(´・ω・`)』
『ライア:大丈夫なんですか!?』
もうこの顔文字イコール風巳さんみたいになってるんだけど!
『NANAKO: じゃあ私ポタ持ってるので』
『黒白猫: っしゃ行こう!!』
『♪LILI♪: ななこさんありがとう!よろしくね』
えええ、皆言質とったら行動早え!!
NANAKOが光に包まれて姿を消す。ポータルを使ってチアソートに向かったのだろう。
パーティーを組んでいる場合、メンバーの一人がポータルで移動したダンジョンに残りのパーティーメンバーを召喚することが可能だ。
『NANAKO: 最下層まで走るのでちょっと待っててください』
「チアソート久しぶりに来たなあ」
野崎がなつかしそうに言うのを聞きながらも俺の不安が収まることは無かった。
『風巳: 大丈夫(´・ω・`)大丈夫(´・ω・`)』
「野崎!!風巳さんが!!風巳さんが自分を励ましてるんだけど!!」
「そろそろ最下層につくから」
「野崎!?聞いてる!?」
画面中央にウインドウが開く
『NANAKOから召喚の依頼が来ています。召喚を許可しますか?』
俺はYESボタンをクリックする。ライアが光に包まれて、ロード画面になった。
「うわ、うわうわうわ・・・」
チアソート最下層に召喚された俺の目に飛び込んできたのは、ライアの背丈の倍もあるであろう大きさのモンスター。
カーソルを合わせると「イビルイーター Lv112」とある。
見た目はイソギンチャクとなめくじを足して2で割ったようだ。どぎつい紫の模様が描かれ、触手をうねうねとくねらせながら、顔と思しきところをぶんぶんと左右リズミカルに振りながらこちらに近づいてくる。
「うわ、キモ・・・」
なんつうビジュアルしてんだこのモンスター!しかもこのフロアにいる数がハンパじゃない。うっじゃうじゃいる。なんかもうまさに巣。
でっかい触手付なめくじが頭をぶんぶん振りながら一斉に押し寄せてくる。
『風巳: ああああヽ(‘’’’A`)ノ』
何だこの顔文字!?なかなか使いどころないぞ!?でも何か風巳さんが追い詰められてるのが伝わってくる!すげえ!!
『風巳: きもいよう』
『黒白猫: wwwwwwww 』
『♪LILI♪: うわぁ、すっごい湧いてる』
『NANAKO:最下層まで降りる人あまりいないですからね』
『黒白猫: 補助かけるから!皆固まって!!』
『ライア: 了解です!!』
皆が一箇所に固まるとくしねさんが次々と補助魔法を掛けてくれる。
補助魔法のエフェクトに囲まれながら皆それぞれが右手を掲げだした。エグゾーストだ。
時間を稼ぐ為、近寄ってくるイビルイーター達に<ブレードウェーブ>を放つ。
次々とイビルイーターが近寄ってくる。うわあマジきめえ!!
皆のポーズが解け、金色の光を纏う。風巳さんと黒白猫さん達神官のエグゾーストスキルは<ソウルオーバー>。発動者の攻撃力を引き上げるスキルだ。<バーサーカー>の神官版といっていい。NANAKOとLILIさん達魔術師が発動したエグゾーストスキルは<コンフリクト>と<エクストリーム>。2種類のエグゾーストスキルを、MPを半々に振り分けて発動させたダブルエグゾーストだ。
<コンフリクト>はキャスティングタイムとディレイタイムを縮小させ、全体範囲魔法を連発可能にさせる。<エクストリーム>は魔法攻撃力の大幅上昇だ。
はっきりいってオーバーキルな気がするが、今回ばっかりはそれも何か許せる!!
『♪LILI♪: ライアさんありがとう!』
『黒白猫: っしゃぁ、狩りますか!』
目まぐるしいスピードでフロアを駆け巡りながら次々となめくじ、じゃねーやイビルイーターを殲滅していく皆を横目に、俺も<バーサーカー>を発動させる。
『ライア: どんどん釣っていきますね!』
『黒白猫: おお!さすがファイターだわ!まかせた!!』
『♪LILI♪: 頼もしい!』
『NANAKO: ある程度釣ったら風巳さんにパスしてあげて!』
「野崎!?」
『風巳: (゜゜)』
この後約2時間続いた狩りの間、結局風巳さんの発言は顔文字だけだった。
今回はギルドメンバー3人に焦点が当たっています。他のメンバーもどんどん出していきたいです。
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