串カツの回
大阪城公園駅を降りて、大阪城を目指していく。
広めな歩道があって、ジョギングをしている人もちらほらと見かけた。
しばらく歩くと、堀が見えてきた。大阪城をぐるっと囲んでいるようだ。
「あれ、これどっから行きゃいいの?」
「あー、あそこだわ。あそこに橋あるし。あそこから行くんでしょ」
「何かイメージしてたのより狭いな橋」
「あれじゃん。道幅広いと攻められ放題みたいな」
「ああ、成程ねー!」
せっかくなので橋の前で、皆で写真を撮った。いや、大阪城の前で撮ろうよ。橋って!!
橋を渡って歩いてると何か岩やがごろごろ置いてある場所に出た。そこから更に歩いていくと、いよいよ大阪城がその姿を現す。
大阪城に近づくにつれそのスケールに圧倒される。でかい。何これ、この石垣のでかさ。どうやって昔の人切り出したんだろう。しかもこんないっぱい。こんなでかい石切り出せたら俺絶対自慢するわ。「ここ!!この石!!俺だわ!!俺が切り出したやつだわ!!」って言うわ。
皆で並んで入場券を買って、いよいよ城内に入ることにする。
「何あれ、階段のとこ何か霧みたいなの出てるけど」
たまに都会の駅前や公園で見かける、スチームを発散させる機械が階段に沿って付いていた。
「あー。あれじゃん?何か涼しくなるやつ」
「大阪城ハイテクだな」
「和洋折衷だな」
「全然違うわ」
あれですね、歴史を大して知らない人間がお城とか行くともうこんな感じのグダグダな会話になるんですね。それでも城内に展示されていた史料は色々興味深くて、飽きる事無く見る事が出来たし、天守閣から見渡した大阪の景色はなかなかのものだった。あと外人の人が凄いいっぱい居た。あ、この情報別にいらない?
大阪城を出る頃には何だかんだ結構な時間が過ぎていて、今から行けば丁度いい塩梅でお昼になる時間帯だった。この旅の主旨は食い倒れだ。お好み焼き、タコ焼き、串カツは絶対に食べようって事になっていたので、ネットで調べた有名な串カツ屋さんに向かう事にする。通天閣のすぐ近くにあるお店だ。どうやらお店近くにビリケンさんがいるらしい。
いや、ビリケンさんに会いに行くわけじゃないんだけど。
串カツって大阪だと当たり前にお店あるんだね。東京じゃ結構珍しいっていうか、殆ど無いイメージだったので、串カツ屋さんが乱立しているのには驚いた。まぁ、男子高校生が四人も集まれば、肉に群がるのは当たり前みたいなところあるよね!
さっそく店内に入って、お店の隅のテーブルに座らせてもらう。
「あー、結構歩いたせいか疲れた。ていうか腹減った」
言いながらツトムがメニューを回してくれたので皆で覗き込む。
「メニューすげえいっぱいあるね」
「え、こんな値段安いんだ。うわ、十本以上食べよ」
「最初はやっぱカツでしょ」
「あ、俺これ食べたい。おくら」
「すげえ胃に優しそうなのいっちゃったな」
「肉行こうぜって言ったばっかなのに」
とりあえずカツは皆頼んで、あとは各々食べたいのを頼む事にした。そんなに時間も経ってないけどすぐに揚げたてが出てくる。めっちゃくちゃ美味しそうだわ。
「ん、じゃ」
「「「「いただきます!!」」」」
さすが揚げたて!!一口口に入れるだけでアツアツの衣がこう、何か口の中でジュワって、こう……やめよう。俺グルメレポーターの才能無いわ。うめえ!!!超うめえ!!
「よし、礼ちゃんグルメレポートして」
「うっわ……」
まさやんそのくだり俺やったばっかだからね!心の中で!!
「頼むよ、礼ちゃん」
「カツみたいにアツアツなの頼むわ」
「うわ、マジでやめろ」
何か言う前に軽くスベられるともうどうにもならないからね。
にこにこ顔のまさやん達を睨めつけながら串カツを頬張る。
「どうなの?」
「ねえ、どうなの」
「ねえねえ」
うるっせえな口の中アッツアツなんだよ!!今話かけんじゃねえ!!
半ばヤケクソでコメントを考える。もういいやどうせスベるし、串カツ美味いし。
「……たぶんこの肉を普通に焼いても、美味いと思うんだけど、これはそれを更に衣をまぶして揚げてるから、衣分プラスで美味い」
「全然伝わってこない!!」
「いや、衣だけじゃないだろ!!」
「礼ちゃんセンス無さすぎ!!」
「何なの!?何で俺大阪でこんな責められてるの!?いいじゃんもう串カツ美味しいねで!!」
「は!?そんな志の低さで大阪渡り歩けると思ってんの!?」
「思ってるよ!?」
「全然駄目!!礼ちゃんぜんっぜん駄目!!そんなんじゃ野崎さん任せらんない!!」
「は!?」
もうこいつらほんと嫌だ!!人がせっかくその話題にこれ以上触れないようにしてたのに!!
「今野崎の話関係ないだろ!!」
「関係あるっしょ!!仮に礼ちゃんが野崎さんと串カツデートをしたとして!!」
「串カツデート!?」
「野崎さんがメニュー選びに迷ってた時礼ちゃんがそんなんじゃ、野崎さん迷っちゃうだろ?」
「礼ちゃんさ、野崎さんを路頭に迷わせていいの!?」
うわもう超めんどくさい!!
まさやんとツトムが変なテンションになってしまっている今、ノブだけが頼りだった。
ノブに視線を向けて援護を頼む。
「……甘くないの食べるのもたまにはいいかも」
うわー!!出たー!!ノブの頭の中、中村さんでいっぱいだー!!お幸せにー!
「つーか今度行くのは大阪じゃないから!ご心配なく!!野崎を引っ張ってく自信あるし!!」
まさやんとツトムが目配せし合う。ノブは若干遠いところ行ってるなこれ。
「……いや、確かにそうかもしれないよ?礼ちゃん。でも俺らは心配してるわけ。だって礼ちゃんデートなんてほぼしたことないじゃん」
「そうそう。上手く行くか分かんないよ?マジで。俺らに相談しといた方が絶対良い」
二人がなんでこんな自信満々なのかがマジで分からない。
「よし、ツトム。とっておきのヤツ、見せてやれよ」
「オーケー!」
え、何?何はじまんの?嫌な予感しかしないんだけど。もうちょっと具体的に言うと、小芝居が始まる予感しかしないんだけど。
「いや、礼ちゃん。こう見えてツトムはマジでアドバイザーだからね。2年4組のシャーマンキングって呼ばれてるから」
「いやそれまた別のあれだろ」
「いや、マジでマジで。見てて。今からツトムが恋愛の神様を憑依させる小芝居をするから」
「今小芝居って言った?」
目の前でツトムはぎゅっと目を瞑りながら若干手を上に挙げて中途半端なポーズを取っている。店内なので目立つのが恥ずかしいんだろう。じゃあやらなきゃいいのに!!
「あ、来るよ。来る来る。降りて来るよ。凄い来る」
ツトムが必死の形相で小芝居をする。俺達もごくりと生唾を呑み込んで小芝居をした。
「……ぶはあ!!」
ツトムが大きく息を吐く。と、こちらを見つめてくる。え、怖い!!めっちゃ目開いてる!!え!?ツトムってこんな目開くの!?びびっているとツトムが口を開いた。
「カミ。レンアイ。ナヤミ。コタエル」
「え、それ違くない!?」
その口調、神様って言うよりどっちかっつーと隣のめっちゃ肌黒い人の方じゃない!?
「お久振りです、神様」
深々とまさやんが頭を下げる。えー!?このまま行くの!?
「モンダイナイ。セイショウネン、ナヤミ、タスケル、カミノヤクワリ」
「もったいなきお言葉」
「カミヤ、レイ。オマエ、トマドイ、カンジル」
「え?」
「トマドイ、ワルイナガレ、ツクル。アセリ、キンモツ。ジブンノキモチゴマカス、ダメ」
何か良い事言ってるっぽいんだけどカタコト過ぎて全然入ってこない!!
「さすが神様」
まさやんべた褒めじゃねーか。
「スナオナキモチ、コレガイチバンダイジ。シャニカマエル、ヨクナイ。ジブンノキモチ、スナオニツタエル。グルメレポート、オナジ」
「さすが神様」
「カミヤレイ、スナオ、ノザキサン、アンシン。バンジウマクイク」
「ほら、礼ちゃん!!神様もこうおっしゃってるんだから!!もっと自分の気持ちに素直になれよ!!」
いや、アドバイスは素直にありがてえけど!憑依させる必要あった!?
「スナオナココロ、レンアイノヒケツ。ミスターポポ、ウソツカナイ」
「ミスターポポって言っちゃってんじゃねーか!!」
ツトムの小芝居は正直必要なかったけど、若干胸のつかえが取れたような気は、した。
エイプリルフール!!(遅い)