え?あ、はい大阪です!!
夜行バスを降りたら何かもう凄い大阪だった。もう誰が何と言おうとここは大阪。間違いなく大阪だった。
長時間の夜行バスのせいで俺達はものすごいダウナーになっていた。あれ?俺達って高校生だよね?って思わず確認したくなる位の疲労感。これはもう明後日に筋肉痛が来る。来ない。それ位の疲労感だった。
でも、そんな疲労感や眠気もバスから早朝の大阪に降り立った瞬間、吹き飛んだ。
「ウワー!!大阪だー!!」
思わず諸手を上げて叫ぶ。え、うるさい?大丈夫、道路すっごい広いから!!
「え、待って。腰痛い。駄目な感じに腰痛い。神経に触れてる感じする」
「……何か口の中カラッカラなんだけど。何これ」
「すげえ!!マジで大阪じゃん」
それぞれが思い思いのグッダグダな会話をしながらバスを降りる。
荷物を下ろしてもらって、自分の持ち物か確認しつつ、俺達はバスを離れた。もうここからは自由だ。俺達四人はここから何の頼りも無しに一泊過ごさなきゃならない。っていうか宿も取ってない。やばい。
「……で、どうする?」
一応皆で行くところは決めてて、大阪城と、ビリケンさんを見に行くのと、後はまぁ食い倒れってとこでタコ焼きとかお好み焼きとかいっぱい食べよう!とは決めてたんだけど。よく考えたら早朝に着いて、まだ店開いてない時間どうやって潰すかは考えてなかったわ。
「俺調べたけどもうちょい先行ったらスーパー銭湯あるからそこ行こうよ。普通にこの時間でも空いてるみたいだし。」
「さすがまさやん」
「何か体疲れたし、風呂入りて―」
「行きますか銭湯」
大阪に来て初めに入ったのは銭湯だった。でもほんと、夜行バスって体疲れるんだなぁ。何かめっちゃ筋肉凝ったわ。
結構でかい銭湯で風呂がある場所が何階かに別れてるところだった。皆で並んで体を洗いながら今日どうやって大阪回るかを相談する。
「どうやって回るのがいいんだろーなー。土地勘全然ないしな」
俺の呟きにまさやんが髪を流しながら振り返った。
「あ、俺ノブと一応行く順番は決めたよ。な」
「あ、うん。とりあえずさ、大阪城は早めに行きたいねって話してたでしょ?だからまぁ、ここ出たらまずは大阪城行こう。んでビリケンさん見て、そこで串カツとかタコ焼きとか食ってー、そしたらなんば行って夕飯食ってどっか泊まるとこ探そう」
「さすがノブ。伊達に授業中眼鏡かけてないな」
「それ関係なくない?」
「ツトムは何かしたい事あるんだっけ」
「あ、俺食い倒れ人形見たい」
思わずツトムをまじまじと見てしまった。
「もう撤去されて無えよ」
「は!?」
「いや、逆に何で今もあると思ったのか知りたいわ」
「え、じゃああれは!?あのでかいカニ!!あとグリコのやつ」
「その二つは撤去したら逆にもう大阪じゃないだろ」
「それは言い過ぎじゃない?」
何か皆大阪を穿った見方し過ぎなんじゃないの?
「あれ。でっかいカニってどこにあるんだっけか?」
「あれ道頓堀でしょ。なんば行ったらすぐだよ」
「あ、何だ。じゃあ夜には見られるのか」
何でそんなにでかいカニが見たいのかはちょっとよく分かんなかった。でも朝から風呂入ったのは正解だった。時計を見たら7時半でびびる。どれだけくつろいでたんだよ。すっきりとして凝った体も解れた俺らは大阪城を目指す事にした。
今いるところから最寄の駅は梅田だ。何か梅田って東京のビジネス街に似てるんだね。道路もすげー広くて建物も高いのばっかりでびっくりしたわ。梅田駅は有名なだけあって人も結構居た。でも話によるとなんばの方が凄いらしい。
何ていうか、大阪の電車は凄い。何が凄いって色んな線が複雑に絡み合ってる。東京だって色々地下鉄あるし、大阪の人から見たら訳わかんないのかもしんないけど、何か駅と駅の間が近いイメージで、別にどれ乗っても目的地いけるんじゃねーの?って錯覚を起こすけど実際は間違えたら全然違うところ行くからね。
梅田から大阪城までは結構かかるのかな?って思ったけど電車移動は全然無かった。逆に早く着きすぎる位だわ。開城が9時らしいし、どうやって時間潰そうかなってなって、まぁどっか駅中で時間潰そうってなった。
ちょうど空いてる喫茶店があったのでそこに入る。
席についてくつろいでいたらまさやんが口火を切った。
「……そういえば、ノブ中村さんといい感じなんだって?」
まさやんが話を急にノブに振ったので、ノブは目を白黒させていた。
「は!?何なに、ノブ中村さんと付き合ってるの!?」
それは俺も知らないわ!!っていうか何、この4人組意思疎通出来て無さすぎじゃない!?
「まさやん!」
「あれ?秘密だった?」
したり顔のまさやんをノブは一瞬睨みつけてたけど、すぐに眉を顰めて軽く溜息を吐いた。
「いや、皆には言おうと思ってたよ。……タイミング掴めなかったから。それに」
わざわざ言うようなことは何もないらしい。
「あれ、まだ付き合ってはない?」
まさやんの怒涛の突っ込みに、ノブが顔を真っ赤にして黙る。
「……付き合いたいとは、思ってる」
「マジかよ!いつの間にそんな流れになってんの?」
ツトムがにこにこしながらノブの肩を組む。
「……たまたま、ケーキ食べにいったお店で会ってさ。中村さんも甘い物好きだっていうから、色々話してる感じ……。いや、でもむこうはそういう気無いと思う」
「っかー!そんなん今から振り向かせばいい話っしょ!ノブ中村さんの事かなり好きだったしょー?頑張ったなー」
ツトムの言葉にノブは何も言えてないけどめっちゃ顔が驚いてる。
「……え、何で」
「いや、見てりゃ分かるっしょ!!あのね、例えば中村さんがキャッキャって笑うとすんじゃんか?そうするとノブはさ、そっちをそっと見るわけ。で、顔をほころばせるわけ。やっさしーーーーい顔するわけ!!もう俺はヒィーーー!!って大声で叫ぶのをこう、めっちゃ左手をつねって我慢してたからね!!もうね、ウブ過ぎる!!ノブじゃなくてもうウブって感じ」
「ツトム?」
「あ、顔怖い!!いや、ごめんだけど。でもまぁバレバレだって感じ」
「……マジかぁ」
「いや、いいんじゃないの?ノブってあんま好きな子出来たことないもんな。中村さんってのは何か意外だけど」
まさやんがフォローに入る。そっかー、ぜんっぜん気づかなかったわ。ノブは中村さんが好きだったのか。中村さん……。何だろ、ウッシャッシャって笑ってるイメージしかねえ。
「……今度また一緒に遊びに行く」
「マジかー!頑張れよー」
「……うん」
いいね。マジでノブは良い奴だからね。上手くいって欲しいわ。
「……さぁ」
いきなりまさやんが体の向きを変えた。俺の方に。
もう分かる?俺の表情の変化。いや、自分じゃ分かんないけどね。凍り付くってマジであんだなって思ったわ。引きつるっていうか。
「あと皆、れいちゃんも好きな人出来たから」
「ウワー!!」
俺はマジで悲鳴を上げた。ここで言う!?
俺のリアクションにノブとツトムは一瞬硬直したけどすぐさま体制を整えてきた。
「マジで!?」
「え、れいちゃん。聞いてないよそれ」
言ってねえもん!!っていうかまさやん!!俺まだ言うつもり無かったのに!!
「まぁでも俺も相手が誰かは知らない」
「まさやんも?」
「何でか隠したがるのなれいちゃん。理由あるみたいだけど」
「何、そんな言いづらい相手なの?」
わあグイグイ来る。さっきまで大人しかったノブまで目をキラキラさせてる。
「え、っていうかよっちゃんじゃないの?」
ツトムが首を傾げる。
「それが違うらしんだよね。俺もよっちゃんだとばかり思ってたし。でもその子とは電話とかしてるらしい」
「……え、マジで分かんない。誰?」
「れいちゃん。物事にはタイミングあるけどさ、……こういう事もあるじゃん?場の勢いってのも、あると思うわけ」
にやっとまさやんが笑う。タイミングが来たら。確かに、俺はそうやって先延ばしにする癖がある。いい時に。いいタイミングで。……でもそれってじゃあ具体的にいつなの?って言われると凄い困る。言いづらい事はとりあえず保留で。……そういう悪い癖をまさやんには見破られてるし、結局言いやすいように発破かけられたってことだよな。
俺は観念した。
「……野崎」
「ん?」
「え?」
「……?」
「……いや、だから野崎」
「……野崎って、野崎さん?うちのクラスの?」
「……そう」
俺は若干キレ気味に答える。……あれ?何か皆硬直してる。
「……ええええ、えどういうこと」
「え、マジで?え??」
「……?」
ええ、何このリアクション!?まさやんすごい透き通った顔してるけど俺の話全然耳に入ってきてなくない!?
「野崎さん!?え、あの野崎さん?どこで絡んでた?何も絡んで無くない?」
「野崎さん、かー……。マジかー」
「…………?」
まさやんが英語のリスニング全然出来てない人みたいな表情してる!!
大阪城行く前にエラい騒ぎになってしまった。
結局俺は野崎との現在までの関係を洗いざらい話すことになった。
「……え、じゃあそのネトゲで、どんどん仲良くなったんだ」
「そう、かな」
「……衝撃的だな」
「ていうか……れいちゃん日頃ギャル怖いって言ってたから想定すらして無かった」
「野崎さん派手だもんな」
「あ、でもかなり人気あるよ」
「あー」
「野崎さん派手だけどさ、確か1年の頃は結構大人しかったんだよね。今仲良いのってほら、中村さんでしょ、宮野志保さんとか、高木智代さんとかじゃん。皆ギャルじゃんか。最初は仲良く無かったらしいけど、いつの間にかって感じで仲良くなって、野崎さんも段々派手になってったらしい」
「ていうか野崎さんってめっちゃ雰囲気落ち着いてるよな」
「分かる。凄い大人ぽいよね。だから意外。ゲームとかしてなさそうなのに」
「……」
「え、何で黙るの。何でそんな顔で俺見るの」
ツトムとノブが顔を見合わせてから俺の肩を叩いた。
「……頑張れよれいちゃん」
「応援してる」
何この生ぬるい視線と応援。全然嬉しくない。
「……つうかさっきからまさやんがまったく会話に入ってこないんだけど」
「めっちゃ首かしげてるのはさっきから視界には入ってきてるけどな」
「頭の上にクエスチョンマークいっぱい出てそうな表情はしてるよね」
「腑に落ちないって感じだね」
「ちょっとまさやん!?いい加減会話入ろう!?」
「いや、ごめんちょっと待って……」
「普通に喋れるじゃん!!」
え、何!?まさやんがこんなに眉を八の字にしてんの見た事無いわ!!何なの?
「……駄目だいくら考えてもしっくりこない……」
「お、まさやんが戻ってきた」
「しかもそれなりにシリアスな感じで戻ってきたぞ」
「それなりにな」
「……れいちゃんはさ、よっちゃんが好きじゃなくて、野崎さんが好きなんだ?」
「……え、うん」
普通に真面目な感じでまさやんが聞いてきたのでツトムとノブも笑うのをやめた。
「いや、ごめん。何か感じ悪かったらごめんだけど、俺もよっちゃんと結構仲良いつもりだしさ。全然絡み無い野崎さんが出てきて混乱してるだけ。……っていうか野崎さんってどんな子なのか分かんないしさ?」
まさやんが真顔で聞いてきた。俺は若干悩みながらも答える。
「……うーん、どんな子……。まぁ俺も全然絡み無かったからあれだけど……。まずね、結構良く笑うよ。屈託なく笑う。後は笑いのツボが似てる。面白い事も結構言ってくる。後何か律儀。真面目っていうか……。結構キツめの口調だけど本人はたぶんあんま悪気無いと思う。あ、あと友達想いかな。結構話してると宮野さんとかの話出てくる。あんま詳しくは聞いてないけど一年の頃から仲よくって3人とも大好きだってのはすげえよく分かるよ。……後は何だろ。良い奴?かな……。気兼ねなく話せるっていうか……。え、何?」
何か皆がめっちゃ凝視してくるから怖い。
「……れいちゃん」
まさやんがめっちゃ真顔で怖いんだけど。
「え、何なに。俺なんか変なこと言った?」
「れいちゃんさ、高倉さんの事好きだったじゃんか」
「……うん?」
何でここで高倉さんの話出た。
「っていうか、高倉さんの事好きな振りしてたじゃんか」
「振りって。振りじゃないっつーの」
「あの時のれいちゃん、『あー、高倉さん可愛い。好きだわ』ってしか言ってないからね」
「は?」
「『うわー、高倉さん可愛いなー可愛いなー。』だけ。高倉さんが可愛い、で終了。あの子のどこが可愛いとか、一切無かったから。可愛いって言ってるだけ」
え、そうだっけ?……マジかよそうかもしんない。
「まぁ確かに、高倉さんすげー可愛いけどな。れいちゃん面食いなんだなーって思ってたけど。……今野崎さんの事聞いたけどさ、『可愛い』って言葉一言も出なかったな。でも、野崎さんが可愛くて仕方ないって言ってたよ今」
今度は俺が真顔になる番だった。
「……まぁ俺的には、よっちゃんいい子だし推していきたかったけど。れいちゃんがそこまで言うなら応援するしかねえなー……。しっかし野崎さんかよ。何でそうハードル高いとこばっか行くかねえ……」
「……やべー俺も恋したくなってきた」
ツトムがニヤニヤ笑って言う。
「……れいちゃん頑張れ」
コーラを傾けながらノブが笑う。
「良かったなれいちゃん」
したり顔でまさやんが微笑む。
何でこんなにこいつら嬉しそうなのか分かんないわ。
「……あれ、れいちゃん、カニばりに顔赤いけど」
うるせえ!!