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報酬

夏休みに突入して二週間。あと数日したらお盆で、まさやん達との旅行が控えている。




『ジェネシス』はというと、シーズンイベントもついに佳境に入った。集めきった「魂の欠片」は36個だ。かなりの量になったと思う。本当は20個程集めた時点で交換しようと考えていたのだけど、公式の掲示板で、「なるべく連続して交換した方が、レアアイテムの出る確率が上がる」という意見が書かれていた為に、とにかくギリギリまで集めることにした。


「んじゃあ、交換してくる」


「あ、とうとう行くの?」


今日も俺と野崎はスカイプで通話をしていた。というか、ジェネシスをやっている間はほぼ毎日と言っていい。野崎はほとんど夕方頃からログインするのだけど、俺は用の無い日は午前中から夜までずっとログインしているので、「神谷いつでもログインしてるね。ウケる」と言われてしまう始末だ。我ながら暇人だな。


「40個弱は集まったし」


「え、本当!?……神谷、それだけあったら、絶対良いのが出ると思うよ」


「野崎は鞄出た時、何個位交換したんだっけ」


「え、3個」


「改めて聞くと凄い運良いな」


「……実は私、貯めた方が良いの出やすいって噂、神谷に教えてもらってから貯めてたんだよね」


「あ、マジで?え、じゃあ交換しに行こうよ」


思わず声のトーンを上げるとヘッドホンの向こうで野崎が意味ありげに含み笑いをした。


「うん、だって神谷と一緒に交換したくて貯めてたし」


一瞬言葉に詰まる。いやいや野崎さん。そういう……そういうの反則ですわー。まぁ、もちろんジェネシス仲間としてってことなんですけどね!!自ずとテンションは上がるね!


「お、嬉しいこと言ってくれるじゃん」


はい、そこでこの返答ですよ。正直、もう好きだ!!みたいになっちゃってるけどね、俺。そこはぐっと我慢して、嬉しいって気持ちだけアピール!!


「……嬉しいの?」


あれやっべ、掘り下げてきたぞ野崎。やばい。あんま掘り下げられると下手な事言いそうだわ。


「……え、普通に嬉しいよ。だってさ、野崎と俺って全然接点無かったでしょ。それが、今だってこうやって通話してるし。『ジェネシス』やってて良かったって思うよ」


……うん、嘘は言ってない。あくまでも友達って言う意味に取られるだろうけど。


「そっか。……私も、神谷とこうして話とか出来て嬉しいよ?」


「……おおう」


「何その反応」


「いや、ごめん……。何か、野崎が素直なこと言うから」


「え、私いつも素直だけど」


「確かに」


「確かにって何」


もう駄目だ好きだ。



<><><><><><><><><><><><><><><><>



そうして俺と野崎は「帝都アスタリア」までポータルで移動すると、アスタリア城のお姫様NPCの元へと急いだ。


「……ここまで貯めといて碌なので無かったら泣けるなあ」


「私はもう鞄出たから満足かなぁ」


「いいよなぁ。鞄。俺も欲しいわぁ」


「出しなよ神谷。神谷なんて特にファイターなんだから、重量軽減の恩恵凄いじゃん」


野崎の言う通り、「ライア」の職業であるファイターはとにかく重量のある装備品が多いのだ。もちろんSTRに振り続ければ重量制限も緩和はされるのだけど、それでも特に両手武器は重く、その分アイテム品をある程度は吟味して携帯しなくてはならなかったり、ある程度狩りを続けているうちに重量制限に近づいて、泣く泣く狩場を後にしなくてはいけない、なんて場面も発生したりする。


「もちろん、鞄狙いですよ。……さーて、じゃあ交換するわ」


お姫様NPCにカーソルを合わせてクリックする。


『アリサ: 勇者よ、よくぞ魂の欠片を集めてきて下さいました。これで砕け散った王の魂を鎮めることが出来ます』


あ、何そういう話だったのか。何か悲しい話だな。っていうかこのお姫様アリサって名前だったのか。初めて知ったわ。


『アリサ: あなたにささやかな祝福を。さぁ、お受け取りください』


お姫様NPCが光ったかと思うとイベントリの「魂の欠片」が消失して、代わりに「魔光石Lv5」が現れた。「魔光石」は武器の強化に使用する強化アイテムだ。レベルが高い程強化の成功確率は上がる。通常手に入る魔光石のレベルは1から3なので、かなりの良品と言える。


「どう?神谷」


野崎から声がかかる。


「ん、魔光石レベル5だった」


「レベル5ならいい方だね」


「ね。でも出るなら武器そのものとかの方がいいなぁ」


さて、どんどん交換しちゃいましょうか。お姫様NPCに話しかけ続ける。……あっという間に14個交換してしまった。


獲得したのは「魔光石」が7個、これまた強化アイテムで、属性攻撃を付与する「術書」が6冊。残りの1個は当りと言えるもので、全属性抵抗力を3%上昇させる「タリスマン」だった。とりあえず中間報告を野崎にすると、若干興奮気味に野崎が反応した。


「え、やったじゃん神谷。全属性のタリスマンだったら、売れば結構なお金になるよ?」


「マジか。どれ位が相場?」


「どうだろう……でも、全属性だから、4Mとかじゃないかなぁ」


「マジか」


1Mが100万なので、400万で売れるってことですね。すげえ。


若干テンションが上がったので、勢いに乗って交換していくうちに、その瞬間はやってきた。


「……うーん、やっぱ強化アイテムばっか出る、わあああああ!?」


「どしたの神谷?」


「うわ!!野崎!!やった!!バック出た!!すげえ!!」


「え!?ホント!?」


「しかも数値が総重量9%軽減なんだけど!!ヤバい!!やった!!」


「9%!?凄いじゃん、ほぼ上限じゃん!!」


すげえ!!まさか本当に出るとは思わなかった!!


今回のイベントで入手出来る鞄の種類は「レザーバック」と「ボストンバック」に分かれている。「レザーバック」は重量軽減の数値が決まっていて、300から500の間なんだけど、「ボストンバック」は総重量の、5%から10%の軽減になっている。この違いは何かというと、あえて区別するとすれば、「レザーバック」は魔法職向けで、「ボストンバック」は打撃職向けだというところにある。サマナーやソーサレスは基本的にSTRに振る人は殆ど居ない。STRに振るくらいだったら回避が上がるDEXにでも振った方がいくらかマシだからだ。装備品を身に着けることが出来る位の最低限のSTRがあれば事足りるし、ほとんどの人は装備品のSETボーナスか何かで、STRを上げている。その為にキャラクター自身の重量制限値は極端に低いのだ。それに比べてナイトやファイター、レンジャーといった打撃職に関してはSTRに振り分ける数値がかなり高い。つまりキャラクター自身の重量制限値もかなり高い。更に「ボストンバック」はあくまでも「総重量制限値から数%の軽減」なので、固定値では無い為に、STRを上げれば上げるほど、軽減値は増えていく。俺はどちらかというと「ボストンバック」が欲しかったので、かなり嬉しい。


現在のライアの重量制限値の上限が3879なので、その9%とすれば……約350か!

とんでもないな。


「……これ売ったらどれ位するんだろ……売らないけど」


「え、70M位はするんじゃない?たぶん」


「……ちょっと凄いですね、野崎さん」


調子に乗ってファイターの新装備も出ないかと期待したんだけど、結局その後出たのはほとんどが消費アイテムだった。それでも、かなり満足だ。


「やったね、神谷!!」


野崎も結局交換して手に入れたものに真新しいものは無かったみたいだけれど、自分の事のように喜んでくれていた。だからたぶんあんな事言ったんだと思う。


「ありがとう!!いやーこれで野崎とお揃いだわ」


「え?」


「いや、だから鞄?お揃いじゃん」


「……あぁ、そういう事?」


「えええ、何で野崎若干引いてるの」


「……だって神谷凄い嬉しそうに言うから」


「いやいやいや。いいじゃん。喜ぶって」


「……あ、神谷これから狩り行く?」


「え?あー、ね?」


何か若干変な空気になったまま、その後は野崎と狩りを続けた。


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