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均衡

スタートの合図とともに闘技場コロシアムの空気が変わる。


「対人特化?」


「うん。神谷、前出るのはいいけど、すぐ死なないでね」


いやいや、そんな簡単にはやられるつもりねーけど。まずは、ご挨拶もかねて暁戦線の人を一周しよう。そう思ったところで、YOYOさん一瞬でこちらに詰め寄ってきた。やべえ、さわやか悪魔が襲ってくる。


「速っ!」


思わず呟く。YOYOさんは狩人(レンジャー)だ。装備は短剣。となると攻撃速度特化だろう。元々狩人レンジャーは攻撃速度、移動速度に優れてる。ただ、こっちだって黒白猫さんに補助魔法をかけてもらっているから、そう劣ってはいないはずだ。


「神谷、走って!」


野崎が鋭く叫ぶ。は?って思った時には、もう遅かった。


YOYOさんを中心に、どぎつい紫色の霧が噴出される。と、同時にダメージ表示が何度もライアの頭に浮かんでは消えていく。


「……毒レンジャーかよ!!」


迂闊だった。攻撃速度特化型、移動速度特化型の他に、狩人レンジャーには特殊な型がある。捕縛型がそれだ。『バインド』というスキルで、対象を縛り付けてから、弓で削っていくタイプ。序盤では有効だけど、中盤のクエスト辺りで抵抗の高いボスが出るようになってからは大分厳しくなるタイプの育て方だ。その為、狩人レンジャーは攻撃速度自体を伸ばして多撃で落とすか、移動速度を伸ばしてヒットアンドアウェーで落とすか、ステ自体も回避を上げるか、攻撃力を上げるか、大体そこら辺の育て方が一般的なはずだ。


そこから更に派生するのが毒特化。これは完全に死にスキルだ。何故なら、毒スキルは一定のダメージを相手に与える代わりに、一切経験値が入らなくなるからだ。つまり、前提として対人のみに効くスキルなのだ。



攻城戦では当たり前のように見かけるらしい、毒レンジャーだけど、ぶっちゃけ攻城戦もギルドウォーも初心者な身としては、お見かけするのも初の相手だ。使用者の周囲に毒を撒き散らす『ポイズンミスト』で、ライアのHPが段々と減っていく。


毒攻撃の一番いやらしいところは、判定中は一切ポーションが使えないところだ。減り続けるHPに焦っていると、途端に他の暁戦線のメンバーがこちらに詰め寄ってきた。


「うわ、やっべ!!」


だが、そんな様子は他のギルメンにも伝わっていたらしい。思わず笑ってしまう位の広範囲に、『ライトニング』が撃ち込まれる。LILIさんだ。野崎も合せる様に『ライトニング』を撃ち込む。YOYOさんが慌てたようにライアから離れていく。ポーションをがぶ飲みしているところを見ると、HP自体はそんなに無いのかもしれない。


黒白猫さんが駆け寄ってきてくれて、治療キュアプレイをかけてくれる。

状態異常の解除なんて、めったにされない経験だ。何か得した気分になるわ。


ほっとしたのもつかの間、すぐさま新しい相手がライアに近づいてくる。


七色眼鏡さんだ。手に持ったハリセンが凄く気が抜けるけど、カーソルを合わせて『ブレードウェーブ』を叩き込む。


七色さんは気にも留めない様子で突っ込んでくる。そのままライアにハリセンで突っ込みを入れた。一瞬でHPのバーがごっそりと半分減った。


「は!?」


慌ててショートカットキーを連打してポーションを消費する。何これ!?攻撃がクッソ重い。でも、七色さんの攻撃モーションは恐ろしく遅い。慌てて七色さんから離れる。避け続けるのはそんなに難しくなさそうだ。でも何だ今の。普通に4,000位通ったぞ。

俺の疑問を察知したのか野崎が呟く。


「七色さんは、STR極振りの斧特化ね」


戦士ファイターの武器は何種類もあって、両手剣、片手剣、片手斧、両手斧、槍に分かれる。剣は攻撃速度、斧は攻撃力、槍は剣と斧の中間、ってイメージ。特に両手斧はとんでもない火力を発揮する。でも、とにかく攻撃速度が壊滅的で、効率的じゃないから人気は無い。っていうかハリセンってカテゴリ斧なのかよ。


YOYOさんが再び接近してくる。さっきの攻撃で予想される範囲外までライアを逃がそうとしたら、今度はライアの体を光の輪が拘束した。うっわ、『バインド』までスキル取ってるのかよ!!


ここぞとばかりに突進してくる七色さんに慌てていると


『☆星龍☆: ライアさん代打!!!俺!!』


星龍さんが間に入って七色さんの接近を防いでくれた。YOYOさんがすぐさま『ポイズンミスト』を撒き散らす。星龍さんは七色さんと殴り合ったまま、思いっきり毒を浴びた。


星龍さんの職は騎士ナイトだ。前衛型でサポートに特化しているので、対人戦でも大きな壁の役目を果たしてくれる。今はダブルエグゾーストで『イージス』と『ガーディアン』もかかっている状態だ。

『イージス』は物理防御の上昇、『ガーディアン』は魔法抵抗力の上昇になる。


『ポイズンミスト』のダメは毒抵抗力依存なので、大分ダメージは低減されているみたいだったけど、ポーションも使えないまま、七色さんのハリセンでしばき倒されて、星龍さんは膝をついてしまった。


『☆星龍☆: うわああん!!』


膝を折った星龍さんの姿が消える。スタート地点まで戻されたのだろう。


「うわ、やっべえ」


乱戦に見えてその実、メンバー全員が誰かと対峙する形になっている。風巳さん達は男爵さんの精霊エレメンタルを三人がかりでタコ殴りにしている。


黒白猫さんは合間合間を縫って、プレイ治癒キュアをかけてくれるけど、アレックスさんに捕まって思うように動け無さそうだ。


Silverさんは援護に回ってくれていて、ヒットアンドアウェーでYOYOさんや七色さんに攻撃を繰り出している。ただ、『ポイズンミスト』の範囲外を走り回る為、なかなかこちらに来れず、星龍さんのような壁としての役割は期待できない。


「うわこれちょっと!やばいなー!!」


思わず声が上ずる。何てこった。王様マジピンチ。


「やっばいね!!神谷」


これまた駆け回りながら『ライトニング』を撃ち続ける野崎の声にも焦りが見える。

ほとんどギルチャも動いていない。打つ暇も無いんだろう。

そう思った瞬間だった。ギルチャが流れていく。


『風巳: シシリアにあ、男爵止めておいて』


『シシリア: b』


『にあ: bb』


『風巳: 崩す』


風巳さんが男爵さんの精霊エレメンタルから離れるとあっという間に闘技場の中央まで駆け抜けていく。千歳さんの洒落にならない『ライトニング』が風巳さん目がけて撃ち込まれたのにも関わらず、風巳さんは回復すらしない。


中央まで駆けつけた風巳さんが、ぐっと屈んだかと思うと、右手を振り払う。『暁戦線』のメンバー全員が黒い雷に打たれた。ダメージ表示は無い。でもこれは。


「え!?風巳さん『スキルダウン』も取ってんの!?」


『スキルダウン』。聖職者プリーストの持つエグゾーストスキルの一つで、効果は「相手の保有スキルのレベル低下」の弱体化スキルだ。効果時間は極端に短いが、スキルレベルの弱体化は戦局を大きく切り崩す。もちろん、モンスター相手には意味のない対人特化のエグゾーストスキルになる。


「ううん!!持ってないはず……風巳さん、もしかして……スキルポイント振り直してる!?」


野崎もかなり驚いたようで、声が上ずっていた。え!?まさか……この日の為だけに!?

スキルの振り直しには課金アイテムが必要だ。更に言えば、少し購入を躊躇する位の金額だ。まさか、このギルドウォーだけの為に、スキルを振り直すなんて。



『スキルダウン』の判定は、『スキルダウン』をかけられた後に使用されるスキルに限られる。すでに召喚されている男爵さんの精霊エレメンタルは影響を受けない。あっという間に風巳さんに近寄った精霊エレメンタルが総攻撃をかける。炎に、風に、氷に包まれて、風巳さんが膝をついた。


「ああ!!」


思わず小さく声を上げる。崩れ落ちる風巳さんから白チャが飛び出した。


『風巳: 対人特化は暁戦線の専売特許じゃ、無いんですよ( ´∀`)σ)∀`)』


……風巳さんの姿が、消える。


「……風巳さん大人気ないっ」


野崎が笑いながらも、『ライトニング』を放つ。


「うん、いや、何だろ……。野崎、これ勝たないとだわ」


ここまでお膳立てしてもらって、負けられないでしょ。


「だね、じゃあまずは……」


「YOYOさん狙いで!!」


ライアとNANAKOがYOYOさん目がけて駆けていった。


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