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ギルドウォー

まさやんと話をしたら大分すっきりした。どうも自分のことなのに曖昧っていうか、よく分からないで弄んでいた気持ちがしっくり落ち着くところに落ち着いた気がする。


別に野崎のことが好きでもいいじゃないか。


妙な罪悪感に苛まれて、あんま直視できなかったけど。たぶん、元々野崎に抱いてたイメージとか、はじめて出来た同じ趣味の仲間意識だとか、そういうものと好意がごっちゃになってたんだろう。たぶん。


野崎は普通に良い子だった。教室で見かける姿は、無表情で、そっけなくて、見た目もギャルっぽいけど、話したらいい子だった。そんでもって、俺は落ちた。ぶっちゃけると放課後の下校口で、声を掛けられた時から好きだったのかもしれない。いや、それは無い!気が付いたら好きになってたけど、それは別に悪いことじゃない気がする。まぁ、野崎からしたら俺はそういう対象じゃないだろうから、今の関係からどうなるのってなったら、俺がしゃかりき頑張るしかないんだけど。つってもなぁ。じゃあ何するのってなったら、別段現状に不満あるわけじゃないし。逆に問いたいけど世の中には何であんなにカップルが溢れてんの?皆超普通に恋愛とかしてない?何なの?意味が分からない。意味分から無すぎて俺はもう、モンスターを狩るよ!!


そんなことを思いながら『ジェネシス』を立ち上げる。今日は一大イベントが待ち受けている。ギルメンの皆もわざわざ今日の為に時間を空けているはずだ。


ギルドウォー。まさに『ジェネシス』の醍醐味の一つで、その名の通り、ギルド同士の大規模戦闘になる。俺がとにかくやってみたくて堪らなかったけど、出来なかったものの一つだ。やべー滾る。ニヤニヤしながらログインのパスを入力する。


今日はこの間狩場を譲ってくれた、風巳さんの知り合いの人と、久しぶりにギルドウォーをする日なのだ。


『ライアさんがログインしました』 


『ライア: こんです』


『風巳: こんですヾ( ゜д゜)ノ』


『にあ: こん!』


『NANAKO: こん』


『シシリア: お、ライアさんきた』


『♪LILI♪: ライアさん今皆で狩りしてるんです。迎えに行きますね』


『☆星龍☆: こんばんは!』


『黒白猫: ここーん!!』


『†silver†: こんばんはです』


俺以外のギルメンは皆既にログインしていた。皆でこれから一緒に戦えるんだと思うとかなりテンションが上がってくる。


『ライア: LILIさんすいません。今アスタリアにいるので、出ますね』


『♪LILI♪: ジェノム来れるかな?そこから飛びましょう』


『ライア: ありがとうございます!今行きます』


『NANAKO: 神谷、通話しよう』


ギルドチャットに紛れて、ささやきが送られてくる。野崎からだ。一瞬どきっとしたけど返信する。


『ライア: ん、もう準備はしてあるから野崎のタイミングでかけてきて』


打ち終わってあまり時間を置かずに、スカイプのコール音が響く。いや早え!!お前は常にヘッドセットを装着してるのか野崎。


「……聞こえる?」


いつも通りの決して高くないテンション。ジェネシスで狩りをしている時には跳ねる声。それでも野崎がギルドウォーを前にかなりテンションが上がってるであろうことは想像出来た。



「めっちゃ聞こえる」


「今皆で狩りしてるの。神谷、魔石とかマナポは足りてる?」


「んー、魔石は魂の欠片集めでめっちゃ出たから60個位はあるわ。マナポはあんま無いかも」


「今マナポ狩り中だよ。露店でも買い集めたんだけど、気持ちもうちょっと欲しいかもってなってて。ギルドウォーの前に皆に均等に配るって」


「マジか。え、そんなに必要なもん?スモールマナポがちょっとと、ミディアムマナポはたぶん30個位持ってるけど」


「30個かぁ。神谷はファイターだけど、バーサーカー常時掛けとかないと攻撃通らないかもだから、ちょっと不安かなぁ」


「ミディアム1個あればMP250は回復するじゃん?MP全部使ってバーサーカーかけて、維持時間が3分弱だから、足りるんじゃない?ギルドウォーって30分制限でしょ?」


「MPは常にフルで欲しいかも。相手が通常攻撃で落ちるとは思えないもん」


マジか。ちょっとギルドウォーを舐めていたのかもしれない。


『♪LILI♪: ライアさんお待たせしました』


『ライア: すみません、助かります』


『風巳: 二人とも呼びますよー』


『♪LILI♪: おkです』


『ライア: お願いします!』


LILIさんが迎えに来てくれたのでパーティー申請を承認して2人で早速ポータル移動する。

行ってみればそこはイグリアスの最下層だ。ここではマミーロードという上級職のアンデットモンスターの湧き場で知られている。また、湧く数は少ないがマミーキラーというモンスターも沸く場所で、マミーロードはミディアムマナポーション、マミーキラーは稀にハイマナポーションを落とすために魔術師ソーサレス御用達の狩場の一つだった。


『にあ: っしゃーラストスパートかけますか!』


『シシリア: 何個位集まった??』


『☆星龍☆: Mマナポが21個で、Hマナポ4個ですね』


『黒白猫: ミディアム32個!ハイマナポが7個!』


『†silver†: Mが26個、Hが2個です』


『♪LILI♪: 私は今M34個のHが8個かな』


『にあ: LILIさんすげえ』


『風巳: 私はMが22個でHが……1個ですね』


『にあ: かぜみんハイマナポ少なっ!』


『風巳: ヽ(''''A`)ノ』


『シシリア: ギルドウォーを前に心が折れかけてる!?』


『風巳: 露店で買うし……』


『にあ: さっき買い占めたでしょう』


『風巳: 金ならある!!マナポ持って来いヽ(`Д´)ノ』


『黒白猫: かぜみんが汚い大人に!!』


『シシリア: やめなさい』


『風巳: (つД`)』


『にあ: 泣くな!!お兄ちゃんがたくさん狩ってあげるからな!!』


『シシリア: 甘やかさない!!』


チャットの流れに笑ってしまう。


「風巳さんだだっ子みたい」


野崎の発言に思わず吹き出す。風巳さんは本当にギルドマスターのイメージ通りで、落ち着いていて、皆を上手くまとめているなぁと思う。他のギルドは知らないけれど、俺は少なくともOVERLOADのギルメンの皆と居て不愉快な気持ちになったことが無かった。きっとそれは、語弊があるかもしれないけど『気が合う』ってことなんだと思う。


「皆仲良いよね本当に」


「そうだね。特に風巳さんと副ギルマスのにあさんとシシリアさんは元々同じギルドだったし」


「?元々?」


「あれ?知らなかったっけ。風巳さん達って元々は違うギルドに入ってて、そこから抜けて3人で作ったのが『OVERLOAD』なんだよ」


「あ、そうなの!?知らなかった」


「そっか、でも確かに言ってなかったかも。っていうか、今日ギルドウォーする男爵さんも、そもそも風巳さん達と同じギルドだったんだよ?『時の旅人』って知らない?」


……『時の旅人』?何だか聞いたことがあるような、無いような……。


「何となく聞いたことあるかも」


「うん。たぶん公式サイトだよ。生産特化のギルドで、お城の占領数とか凄かったから名前は結構売れてると思う。あまりにもギルドが膨れ上がっちゃって、内輪揉めとか、マナー違反とかが目につくようになって、初期メンバーが離れていったらしいんだけど。それが風巳さん達だよ」


「マジか。……え、マジか」


「うん。そういうのがあったから風巳さん、『OVERLOAD』のメンバーは、言い方は悪いかもしれないけど凄く吟味したんだって。同じ考えのにあさんとシシリアさんを引き抜いて、狩り友だったLILIさんとくしねさんも誘って。純粋にスカウトされたのは、私とsilverさんと星龍さんかな。……私もずっとソロ狩りしてて、初心者ダンジョンの最下層まで潜ってて。そしたら運悪くピットボスが湧いちゃって。その頃は装備だってクエストの報酬の奴だし、最下層だから通常モンスターの湧きも凄いし。あっという間にHP削られちゃって、あぁ死んじゃうって思った時に一瞬で体力が回復したの」


「え?って思って見たら画面端に見たこともないような装備をした神官プリーストの人が居て。あぁ、この人がヒールかけてくれたんだなって思ってたらいきなりパーティー申請が飛んできてね。思わずOKボタン押したんだけど。そしたら次の瞬間画面の敵全部に防御力低下のエフェクトがかかって。え?え?って思ってたらピットボスが吹っ飛んでたの。その神官プリーストが風巳さんだったんだけど」


俺は野崎の話に夢中で耳を傾けていた。ソロ狩りをしていると、神官プリーストの人がすれ違いざまにヒールをかけてくれることはたまにある。辻斬りならぬ辻癒つじヒールってやつで、非常にありがたいことだ。でも、野崎の言ってるようなタイミングで助けてもらったことは無い。っていうか風巳さん格好良すぎだろ。


「えええ、かっこよすぎるわ」


「ね。それで私が『ありがとうございます。凄く助かりました』て言ったら『いえ、今吹っ飛ばしたボスを狩りに来たところだったんですよ。何もドロップしない(´・ω・`)』って返事が返ってきて。凄いおかしかったし、嬉しくって。その後は地上に戻ってずっとチャットしてたなぁ」


「……それで、私も落ちなくちゃいけなくなって、そしたら風巳さんにギルドに誘われたの。……私、その時はまだ『ジェネシス』にそんなにはまってたわけじゃなかったから断ったんだけど。それから『OVERLOAD』の狩りに混ぜてもらったりしてて。あぁ、ギルドっていいなぁって」


野崎の言葉に同意する。ギルドに入るってことは誰かと繋がりを持つってことだ。それはきっと素晴らしいことだけど、生活のサイクルも、ゲームにかける気持ちも千差万別で、繋がりは時には縛りにもなる。それは億劫に感じてしまう瞬間も多いものだ。俺はそういった拘束感に抵抗があったのでギルドに入っていなかったのも事実だ。


「居心地が凄く良いんだよね『OVERLOAD』って。年齢層が割と上なのもあるのかもしれないけど……」


「ホントそうだわ。……そう考えると、俺さくっと入っちゃったな!」


「神谷は本当に久しぶりの新メンバーだったんだよ」


「ありがたいわ!野崎に感謝ですよ。でも俺が入ったことで空気壊しちゃって無い?途端に不安なんだけど」


「……」


「あれ?野崎?」


いきなり反応が無くなったので思わず問いかける。


「私、割と人を見る目はあるつもりなんだけど」


「ん?」


「そういうの気にせずに居られないでしょ。神谷って。だから誘ったんだけど」


「……お、おおマジかー!すげー買いかぶられてるけど!!俺全然空気読まないしね!!」


「そうだね」


「おい!」


「あはは」


若干動揺したのを野崎に悟られないように喋りまくる。不意打ち過ぎる。誤魔化すように目の前のモンスターを殴りまくった。あ、ミディアム落ちた。




<><><><><><><><><><><><><><><><><><><><>


準備は万端だ。狩りと露店で集めたマナポに魔石をかき集めて分配して、一人当たりミディアムマナポは50個、ハイマナポも5個ずつ渡されている。魔石は再分配は無しでも十分な数が集まっていた。


待ち合わせ場所は冬の街、フォウゼンの街外れの区画だった。皆で移動するとすでにそこにはずらっと人が集まっていた。……何だこれ。


『風巳: お待たせしました』


白チャで風巳さんが発言する。その場にいる全員に伝わる共有チャット、通称白チャは、他のチャットを流してしまう為に街中での使用はマナーとして差し控えられている。その為、わざわざ人気のないところに集合したのだった。


『男爵: いえ、待ち合わせの時間までまだありますよ』


俺の戸惑いは消えない。丁寧な口調で受け答えをする男爵さんの姿は、熊の着ぐるみだったからだ。



ファニー装備というものがある。『ジェネシス』内での自分の分身とも言えるアバターを、着飾りたいという需要は根強いものがある。そんな中で、戦闘には向かないけれど見た目で楽しめる装備がファニー装備だ。『ジェネシス』はその点も凄く充実していて、熊の着ぐるみ、鮫やタコ、戦隊ヒーローもどきに雪だるま。ドレスに水着なんてものもある。世界観ぶち壊しではあるけれど、どこのMMOにも見られる光景ではあるんじゃないか。


そんなネタ装備に全身を包んだ集団が、待ち構えていた。


『男爵: はじめまして、暁戦線あかつきせんせんの男爵と申します。よろしくお願い致します』


丁寧な挨拶を、熊の着ぐるみがした。


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