喫茶店での白状
大げさに仰け反りながら目を丸くしているまさやんから視線を外して、場を繋ぐ。
「えー!?どういうこと?ごめん礼ちゃん、俺全然頭追い付かないわ」
「……いや、何だろ。俺もね?俺も、頭整理ついてないから。だからちょっと意味わかんないかもだけど」
「何?もったいつけないでよ」
「うん、あのさ……」
話出そうとしてはっと気づく。野崎との絡みは『ジェネシス』繋がりだ。野崎はたぶん『ジェネシス』のことはクラスの男子には知られたくないだろう。ちょっと考えれば分かることだ。あんま考えずに、誰かに頼ろうとするから、こんなことになる。
でも、まさやんに話を聞いてほしいのも本当だった。それに、多少話をぼかしてもまさやんなら話を聞いてくれるだろうっていう多少の甘えもあった。
「……まぁ、ある子とね、ちょっときっかけがあり……電話?をするようになりまして……。こう……、喋ってみたら色々見えてきたもんがあったっつーか……」
我ながらしどろもどろだな。ダメだ、ぜんっぜん理路整然と話せねえ!!だって俺理路整然に話したこと今までで一回も無いし!!っていうか「理路整然」って言いたいだけだし!
「……よっちゃんじゃ無しに?」
「うん。よっちゃんじゃ無しに」
「……え、誰?」
ぐっとつまる。訝しげにこちらを見つめてくるまさやんの顔を一瞬見つめて、また顔を伏せた。
「そ、……れは言いたくない……」
「えええええええええ」
まさやんが椅子の背もたれに寄り掛かるように仰け反る。
「いや!ごめんって!!!でもさ、相手に迷惑かけたくないし!!」
「意味わかんねー!俺超急いで今日来たのにー!下手したら彼女からの呼び出しよりも機敏な動きしたのにー!!」
まさやんが脱力しながら不満気な声を出す。
「でもさ、まさやん。俺だって言いたいけど、ちょっと理由があってさ。……そ、そうだ。夏休み明けたらさ、ツトムとかノブにも言うし、その時誰なのかちゃんとまさやんにも言う!!」
「引っ張りすぎだろー……。いや、まぁいいけどさぁ」
渋々といった感じでまさやんが了承するのを見てほっとする。
「いや、でもまさやんに話聞いてほしかったのはガチだって」
「そーかい。……で?何の相談?」
まさやんが肩肘をついたままこちらを見つめてくる。多少納得いかないって感じだけど、こっちの話を聞いてくれるみたいだ。申し訳なさと多少の嬉しさみたいなのがごっちゃになる。
「うん。……えーっとね。何だろ、そのさ、その子と話してるじゃん?何か凄いテンション上がってくるんだけど、これって好きってことなの?」
まさやんが肩肘をついたまま、こちらを見つめ続ける。こちらを見つめ続けるその表情が、一切変化しないことに気が付いて思わずちょっと引いてしまう。え、まさやん怖い!!
「……しょ」
「しょ?」
「小学生か!!!」
「え!?」
まさやんが眉間に皺を寄せながら捲し立てる。
「今日びの小学生のほうが恋愛進んでるわ!!何それ!?何その、『はじめての恋』みたいなの!!何それ!!『赤い実はじけた』か!!バカか!!」
「えーーーーーー!!!?」
「礼ちゃんの胸のときめきなんかマジ興味ねえ!!マジ興味ねえわ!!何だそれ!!惚気かよ!!っていうか誰相手だよ!?全然分かんねえ!!それが一番謎!謎過ぎて謎!!」
やべえまさやんがキレた。
「まさやん!?」
「そんなん好きな子と話したらめっちゃテンション上がるに決まってんじゃん!!超上がるし!常識だし!そんなん俺に聞くなだし!!お前自身の胸に手を当てて聞いてみろだし!!」
変なテンションになっちゃったまさやんに怯えながらも思わず反論する。
「いや、胸に手を当てたら超バクバクしてたから……」
「礼ちゃーーーーーーーん!!!何やってんのー!!!そんなん恋じゃーん!!!もうそれ恋だよ恋―!!超恋!!これ以上ない位のどうしようもない位の恋!もうそれは恋!!盲目の恋!!だよーーーー!!もーーーーー!!やんなっちゃう!!」
気が付けば店内の人たちがちらちらとこちらを見ている。自意識過剰なのかもしんないけど、女子大生っぽい人たちとか、近所のママさんっぽい人たちがこっちを見て微かに笑ってる気がする。
「まさやん……声でかい……やめ……」
「やめねー!!!俺超テンション上がっちゃったもんね!!礼ちゃんが恋する乙女みたいなこと言うから!?超!!テンション上がっちゃったもんねー!!」
「まさやん……やめ……やめ、て下さい。やめて下さいませんか?」
「にゃー!!!」
「まさやん!!!」
テンションが上がりすぎて猫と化したまさやんを抑えつけて逃げるように喫茶店を出た。