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脊髄反射

頭が痛い。目がシバシバする。結局深夜まで『ジェネシス』をやり続けたせいで目を覚ましたらすでに10時だった。体内時計が狂い始めてるな。


狩りを続けたおかげですでに結構な数の「魂の欠片」が手に入った。でもアイテムと交換するのはあえてやっていない。20個程貯めてから交換する予定だ。野崎がバッグを手に入れたように、俺も是が非でもバッグが欲しい。その為には一気に交換したほうが当たる確率が何となく上がりそうだ。いや、完全にイメージだけど。


今日5個位集めて、交換しに行こう。そんなことを寝起きに考えていたときだった。

枕元に置いておいた携帯が震えた。画面を開いてみるとメールが届いている。


あ、よっちゃんだ。


『神谷っち元気ですか?夏休み満喫してますか?私は元気です』


メールの文章を読んで思わず微笑む。よっちゃんはメールの文章までふわっふわしてるなぁ。満喫してるよ。…いや、してないか。ネトゲメインの生活だもんな。


寝っころがったままメールを打とうとして、はたと思い出す。そういえば夏休みに入る前によっちゃん達と映画見に行く約束してたんだった。やっべ、まさやん達一切誘ってない。…っていうかもうタイミング的にアウトっぽい。まさやんとか合宿行ってるだろ。

うっわどうしよう。内心焦りながらも返信する。


『久しぶり。ごめんよっちゃん連絡しないで。映画の件、まさやんとかあんま都合つかないかも』


嘘じゃない。ギリッギリで嘘はついてないよね。都合つかないどころか連絡も取ってないけど。


すぐに携帯が震える。よっちゃん返信はえーな。あんなにおっとりしてるのに携帯打つのはめっちゃ早いんだな。今度石田に教えてやろう。ギャップにやられて石田死ぬかもしれないし。石田の死因はギャップ死。俺は何を言ってるんだ。


『そうなんだ?神谷っちも忙しいの?』


全然忙しくないんだよよっちゃん。悲しいね。


『いや、俺は暇』


予定をガッツリ入れたいんですよ。でも正直旅行以外は大してイベントごとないんですよね。メールを送って1分もたたないうちに返信が返ってくる。携帯を握り締めたままのよっちゃんを想像して思わず微笑んでしまう。


『ほんと?今日は?』


『今日も暇だよ』


『なら神谷っち今から映画見に行こうよ』


『え、今から?』


『忙しくないなら』


『暇だけど他の人今から誘っても来るかな』


『私はふたりでも大丈夫だよ』


メールの内容に思わずどきっとする。よっちゃんは男女分け隔てなく接することのできるとても可愛らしい女の子だ。そんな子からこんなメール貰ったら普通にびびると思う。石田なんて一回死ぬんじゃない?人間一回しか死ねないけど。まぁ、それはそれとしていくら俺でもこれはちょっとびびるわ。


だって普通男女2人で出かけるってデートってことでしょ?あれ、俺よっちゃんにデートに誘われてるの?


……無い無い無い無い。抗体持ってないからすぐそっちに思考が行くなぁ。野崎と通話するようになって多少女の子に対する接し方も分かるようになって来たと思ったらこれですよ。ほんと、勘違いにも程がありますね。だってよっちゃんが俺を異性として見る要素皆無だし。あ、自分で言って凹んできた。でも、よっちゃんはあんなに女の子らしいのに、何故か俺が女の子に対して持つ抵抗を全然感じないから、すげー話しやすい。たぶんだけど、そんな印象をよっちゃんも俺に対して持っていてくれてるんじゃないだろうか?つまり、気の合う友達として。

なら、二人で遊ぶのも普通にある。全然あり得る。おっけー。


『いいよー!よっちゃんてどこら辺が出やすいんだっけ?池袋出られる?』


…あれ?何故か返信がぱたっと止まってしまった。丁度いいのでリビングに行くことにする。


昼飯何だか朝飯何だかよく分からない飯を用意していたら、携帯が震えた。よっちゃんからだ。


『池袋出られます。見たい映画が14:45からなので14時に池袋駅の東口で待ち合わせしましょう』


妙に丁寧な返信内容に笑ってしまう。


「何携帯見ながらニヤニヤしてんの」


ソファで不機嫌そうにテレビを見ていた美雨が話しかけてくる。


「いや、午後から遊ぶんだけど、メールの内容がおかしくて」


「誰?矢野さん達?」


「いいや、よっちゃん」


「は?誰」


「えーと、クラスの友達」


「……女の子?」


え、何怖い。何でそんなこと分かるの?思わず絶句していると美雨の不機嫌そうな表情が見る見る変わっていく。それも良くない方に。…玩具を見つけた子供の顔に。


「図星?」


「いや、そうだけど。え、何!?近い」


美雨はガバっと勢いよくソファから跳ね上がると勢いよく近づいてきた。うわ、面倒くせえ!


「何それ!え、二人?二人きり?」


「うん」


「えー!?デートじゃん!デート!」


「……いや、普通に友達だし」


「はー!?何言ってんの頭おかしいんじゃないの!?」


「いやおかしいのはお前のテンションだろ」


思わず発した突っ込みに美雨が不機嫌そうに眉をひそめる。何なの。何でそんなに食いつくの?


「何しに行くの?」


「え?映画見に行く」


「その後は?」


「は?」


「……映画だけで帰るの?」


「え、そのつもりだけど」


「何それ」


美雨は渋い顔をしながら呟く。


「え?何それって」


「映画なんてすぐ終わるし!その後は!?ご飯位食べて帰ってきなよ!」


「……あーー、ね?」


確かに、映画観終わっても多分6時行かないかもしれない。映画だけ見て帰るってのも何か……確かにちょっと無いよな。


「池袋ならお店だっていっぱいあるじゃん」


「確かに。今日夕飯要らないって言っておいて」


「おっけー」


美雨がにんまりと笑う。何でこいつこんな上機嫌なんだ。





<><><><><><><><><><><><><><>





電車から降りた瞬間にもう一度乗りたくなるくらいのむわっとした熱気に辟易しながら階段を下りていく。あいかわらずの人混みを足早に掻き分けていく。東口に出る階段を上っていくと待ち合わせする人たちでごった返している。辺りを見渡してみたが、まだよっちゃんの姿は無いようだ。近くにあった柱に寄り掛かった。


……そういや外でよっちゃんと会うのって初めてなんだよなぁ。正直私服姿に興味がないと言ったら嘘になる。よっちゃんは前の席だから自然と視線に入ってくるのだけど、持ってる小物とかがいちいち可愛くてよっちゃんっぽい。何て言うか自分のことをよく分かってるっていうか、似合うものが分かってるんだろうなって思う。きっと私服も可愛いんだろうな。


そんなこと考えながらぼーっとしてたら真横からポンポンと肩を叩かれた。


「神谷っち」


「うわ、びっくりした」


我ながら何も面白くないリアクションをしながら横を振り向くとよっちゃんがいた。


「……うわ!!びっくりした!!」


「え?何で二回言ったの?」


よっちゃんが首をかしげる。いや、マジでちょっとびっくりした。いや、よっちゃんすげえ可愛いな何だこれ。ふわっふわしてんな。いや、そういうレベルの話じゃないな。ふわぁっふわぁっしてるな。髪型可愛いな。若干化粧してるのかな。え?女の人って化粧でこんな変わるもんなの?何かキラキラしてるんだけど。大丈夫なの?


何か一瞬で色々考えたけど、よっちゃんがあまりにも可愛いので挙動不審になる。


「いや!ごめん。ちょっとびっくりしたっていう……」


「え?」


「私服だし」


「えー?神谷っちだって私服じゃないか」


にこにこ笑うよっちゃんにますます緊張度が上がっていく。


「あ、はい。そうでした」


「何で敬語なの!!」


にっこにこ笑いながら肩を殴られる。え!?普通に痛い!!


「……私何か変?」


相変わらずにっこにこ笑ったままだったけどそんな事を呟いたよっちゃんに申し訳ない気持ちになる。それは無い。変とかじゃない。普通によっちゃんが可愛くてびびっただけ。


でもそんなん普通に考えて言えないし!!ドン引きされるでしょ普通!!ここは何か無いのか。俺の話術スキル高ぶれ!!出ろ!!何か出ろ!!


「ごめん何かね、何かよっちゃんが可愛くてびびりました」


出たーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!終わったーーーーーーー!!!!


もう最悪だ!!死ね!!脊髄反射か!!せめて脳を経由して発言しろ!!

あまりにもあまりな発言にとっさに顔を伏せる。ダメだわ。これはダメだ。俺はもうダメだ。こんなんよっちゃんを意識してしまって上手く話せない系男子じゃねえか。もう完全に石田系男子と化してる。石田だ!!もう俺は石田礼だ!!


顔を伏せたはいいけどよっちゃんは身長が低いからか回り込むような感じで覗き込まれてしまった。


「……神谷っち」


ごめんなさいこんなセクハラ発言金輪際もうしません。


「私服かっこいいね」


うわあああああああああ!!!いたたまれねえ!!!

よっちゃんはにっこりと微笑むとすっと離れながら何事もなかったかのように歩き出した。


「早く行こう。きっと並んでるよ」


俺は無言で頷くとカルガモのようによっちゃんの後ろを付いて行った。

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