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応酬

沸き続けるモンスターを無視してフロアを走り抜ける。目指すのはマップ右上の開けた空間だ。


走り抜けながらメニュー欄から選択しエフェクトをオフにした。と同時にライアを包んでいた金色の光が消える。すでにPKとの戦闘に入っているであろうフロアに突入すれば、恐らくそこは補助魔法と攻撃魔法の飛び交う場となっているはずだ。余りの情報量の多さにパソコンが処理しきれずにラグが生じるかもしれない。それに魔法のエフェクトはプレイヤー相手をタゲる時にも邪魔になりやすい。


そしてそのままメニュー欄の下へカーソルを落とし、『盾』表示のアイコンをクリックすると『剣』表示のアイコンへと変える。と同時にライアの名前が赤色へと変わった。

PKモード。この瞬間からPTメンバーを除く他プレイヤーへの攻撃が可能となった。


右上のフロアに辿り着く。風巳さん達ギルメンの他に、見慣れないプレイヤーが3人。中央付近に倒れているキャラクターがいる。NANAKOだ。


「相手結構固いよ。膠着状態かも」


「野崎倒れたまんまじゃん」


「うん、このままワールドに出てもいいんだけど。ちょっと様子見」


「そう?」


倒されたのは自分なのに妙に楽しそうな野崎の声を聞きながら何となく拍子抜けするが

敵に近づきつつもショートカットキーでスモールマナポーションを大量に消費してMPを回復させる。


♪LILI♪さんとシシリアさんの姿はまだ無いが直に到着するだろう。ただPK達がワールドにいつ逃げ出す保証も無い。今この場にいるのは3対3だ。相手が油断しているうちに決める必要がある。


今はもう殴り合いの応酬だ。風巳さんの周りを相手の召喚士サマナー精霊エレメンタルが取り囲んでいる。風巳さんもマテリアルダウンをかけて柔らかくなった精霊エレメンタルをボコボコに殴るが、召喚士サマナーはHPの尽きかけた精霊エレメンタルを再召喚し続ける。くしねさんは取り囲まれている風巳さんの体力をプレイで回復し続けているせいで身動きが取れないようだ。にあさんはくしねさんをかばいながら相手の戦士ファイターと削り合っている。まさに場は膠着状態だった。


「……相手逃げる様子ないっぽいね」


野崎が呟く。確かに愉快犯のPK達には見えない。大方この狩場の占領を目論んだプレイヤーたちなのだろう。


「ね。んじゃまぁ、やりますか」


どのPKもお互いに相乗効果をもたらしている為に崩しにくい。が、膠着する戦況を変えるにはまずターゲットを絞る必要がある。


ならば相手は一人だ。しっかりとカーソルを合わせて相手の神官プリーストをタゲる。

斬りかかる寸前に「フォースダウン」をかけられたが、気にせずに攻撃を当てた。ダメは100前後しか出ない。ヒールプレイをかけ続けている相手を沈めるには余りにも心もとない数字ではある。右クリックでブレードウェーブを叩き込んだ。出たダメは200を少し上回った程度だ。次に単体への三連斬撃を叩き込む「スラッシュ」を放つが、これも250前後。


相手の神官プリーストも「マテリアルダウン」をかけてから殴りかかってきた。みるみるうちにHPが削られるが、くしねさんがプレイをかけ続けているおかげで場にいるメンバーのHPは一定状態を保っている。相手もそれは同じだ。回復を担う相手の動きを封じ込めば、他のメンバーの回復に支障が生じる。実際、回復に専念出来なくなった相手のHPは少しずつ削れていく。


するとライアに向かって3体の精霊エレメンタル戦士ファイターが襲いかかってきた。

まぁ、そうなるわな。


「野崎、ごめん。悪いんだけど、ギルチャで今から言うこと打ってくんない?」


「え?うん」


「くしねさんに頼んでウインドフォースとウインドウォールかけてもらいたいんだ」


「分かった」


『NANAKO: くしねさんWFとWWお願いします』


ギルチャに返事はない。そんな余裕はないのだろう。だが、次の瞬間ギルメン達にウインドフォースとウインドウォールがかけられる。


みるみるうちに削られていたライアのHPの減りが少し鈍くなる。相手はライアのHPを削ろうと躍起だ。ライアを取り囲む精霊エレメンタル達がうっとうしい。


にあさんと風巳さんが駆け寄ってライアを取り囲む精霊エレメンタル達と戦士ファイターのHPをゴリゴリ削ってくれる。召喚士サマナー戦士ファイターの注意がまたライアから少し逸れたのだろう。相手の神官プリーストを目指してライアが通り抜けられるくらいの隙間が出来た。


相手の神官プリーストをタゲると一気に近づいて通常攻撃を当てる。ウインドフォースで上げられた攻撃速度の斬撃はみるみるうちに相手のHPを削っていく。相手も慌てて回復をかけるが、少し怯んだようだ。タイミングが遅い。


悪くないタイミングだと思う。通常攻撃に加えて「スラッシュ」を放つ。右クリックを押してライアがスラッシュを放つ為に剣を構えるモーションに入ろうとする。


その瞬間を見計らって更に右クリックを叩く。


「え?」


野崎が呆気にとられた声を出す。相手の神官プリーストが膝をついたからだ。


「え?今の何?」


倒れ込んだ神官プリーストを見ながら野崎が茫然といった様子で呟く。


「…スキルキャンセル」


「え?」


「スキルってどの技も出すときモーションあるでしょ?右クリックしてから実際に出るまでたぶん0.5秒とか1秒とか?そういう時差あるじゃん。その間のタイミングで更に右クリックするんだわ」


野崎に話しかけながらさらに相手の戦士ファイターに近寄る。


「そうすると一度の右クリック攻撃にのダメが乗るんだよ。おまけに攻撃のモーションは一回で済むわけ。完全に成功するとそのモーションすら表示されないんだけどさ。だからスキルキャンセル」


言いながら相手の戦士ファイターにスキルキャンセルをかけたブレードウェーブを叩き込む。斬撃の波が二重となって相手に襲いかかる。ごっそりと減ったHPに相手は慌てたようにポーションを飲み続けている。


「打撃職しか使えないしさ。やたらMP食うだけだから狩りでは使わないし使えないけど。対人ではかなり使えるよ」


「何それ……初めて知った……」


野崎は本当に驚いていたようだった。あれ?結構有名じゃないんだこの技?


あっという間に崩れた戦況に更に追い打ちをかけるようにPK達のHPが瞬く間に削れた。何事かと思えばリリさんとシシリアさんが到着したようだ。リリさんの全体魔法の火力は凄まじいものがある。耐えきれずに召喚士サマナーが沈んだ。と同時に召喚されていた精霊エレメンタル達も消滅する。自由になった風巳さんとにあさんが戦士ファイターに襲いかかるが、とどめをさす後一歩というところで相手の戦士ファイター

姿を消した。どうやらワールドへ逃げたらしい。


『にあ: 逃げた』


『風巳: 皆さん乙です』


『シシリア: 俺ぜんぜん活躍してねえwwww』


『♪LILI♪: NANAKOさん大丈夫です?』


『NANAKO: やっぱり皆さん強いですねえ』


『黒白猫: ちょwwまだ復活してないのwww』


『NANAKO: 見るのに夢中になってました』


『シシリア: 敵は取ってやったからな!!b』


『にあ: いや何もやってないって自分で言ってたばっかでしょ!?』


『風巳: OVERLOADに手を出すとこうなるんですよ…』


『ライア: !?』


『黒白猫: かぜみん黒いの出てるよ』


『風巳:(oゝ艸・)』


『にあ: いやそんな可愛い顔文字使ってもダメ……って何それ!可愛い!!』


『黒白猫: あらやだ可愛い!!』


『♪LILI♪: 可愛いw』


『シシリア: いやいや皆騙されるなって!!』


『風巳: 。゜(ノωヽ*)゜。』


『シシリア: 可愛いよ!!』


『ライア: えーーーーーーーーーーーーー!!!!???』


『♪LILI♪: wwww』


『にあ: wwwwwwwwwwwwwwww』


『黒白猫: wwwwwwwwwww』


あっという間にいつも通りの雰囲気に戻ったギルチャに思わず頬が緩む。


『NANAKO: 復活してきますw』


「……神谷、ごめんね。復活しないでただ見てて」


野崎が申し訳なさそうに言う。


「ん?いいんじゃないの。下層まで降りてくる前に決着ついてたでしょ」


「……スキルキャンセルかぁ。私知らなかった。超強いね」


「対人戦では重宝するかもだけど…。MPの減りが異常だし、上手くいかないとダメージ通常のままでMP2発分減ったりするし、デメリットも多いけどね」


「あ、そうなんだ。でも神谷がまさか倒すとは思わなかった」


「ちょっと野崎さん?」


「あ、そういう意味じゃあ無くてね。相手レベル高そうだったから」


「一人くらいは倒してやろうと思ってさ。やられっぱなし癪だし」


「やられたの神谷じゃなくて私だけどね」


「いや、だから余計に」


「……」


ん?今俺何て言った?


「……ありがとう…?」


「……いえ、どういたしまして…?」


何故か疑問形の応酬の後、俺たちは狩りを再開した。


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