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当たり前の行動

ノイトマに飛んでみると入り口近くでくしねさんが座って待っていてくれていた。


『ライア: すみません、お待たせしました』


『黒白猫: いやいや、俺もついさっきまで狩ってたから大丈夫よ!』


『♪LILI♪: NANAKOさんも着きましたか?』


『NANAKO: はい。着きました』


くしねさんから来たパーティー申請を許可してから返事をする。


『ライア: パーティー入りました』


『にあ:おk。じゃあ呼ぶよー!』


次いで召喚申請が表示される。魔法陣に包まれてライアの姿が消えた。


「そういえば神谷、皆と城狩りは初めてなんじゃない?」


野崎に言われてそういえばそうだなと気づく。


「確かに。経験値うまいんだけどさ、ソロ狩りだとキツイじゃん。だから元々あんま足が向かわなかった」


「そっか。確かに私もソロは無理だなぁ。PKも怖いし」


「警戒しといたほうがいいよね。PK」


「……うーん、大丈夫じゃない?」


野崎のまったく不安がっていない言葉にかえって俺が不安になる。


「大丈夫?この時間帯はってこと?」


「あ、そうじゃなくて、このメンバー的に」


メンバー?『OVERLOAD』の皆だから大丈夫ってことか?


「え、皆結構PKK慣れしてるってこと?」


「ううん、皆PK来たらワールドに逃げちゃうから」


成程。『ジェネシス』ではダンジョンをいくら深く潜っていようとも、どの階層からもワールドマップへ脱出することが可能となっている。もちろんメニューウインドウを開く必要はあるので、もたもたしているうちにPKやモンスターの餌食となる可能性は大きいのだけど、慣れてしまえばキャラクターを死なせずに戦局からの離脱が可能なのだ。


「あぁ、成程」


確かにPKされなければ、PKKする必要もない。相手に狩場を取られてしまう結果とはなるけれど、確かに『OVERLOAD』の皆は進んでPKをやりたがる人はいなそうに感じる。

ギルドルールのPKKのくだりも、本当にやむを得ない場面に応じての内容なのだろう。


「神谷もPK来たらすぐ逃げなよ?」


「おっけー」


まぁ、ギルドの皆で狩りをしていれば、集団でいること自体が牽制になって手を出してくるPKも少ないだろうし、大して深くは考えずに二つ返事をした。


『風巳: これからPT合流しておk?』


『シシリア: クエスト終わったー!!!』


『♪LILI♪:おkですよー!』


『黒白猫:じゃあ地上で待ってるよー』


どうやら上位クエストを終了したらしい風巳さんたちも合流することになった。ギルメンが揃って狩りをするとやっぱり心強いものがある。それに加えくしねさんも風巳さんも高レベルの神官プリーストなので補助魔法を随時かけてもらえるのも嬉しい。くしねさんは「クイックムーブ」、「ウインドウォール」、「ウインドフォース」などの能力上昇系に特化している。一方で風巳さんは「フォースダウン」や「マテリアルダウン」、「マナロスト」などの能力減少系特化型だ。神官プリーストの補助スキルはあまりにも数が多い為に1人で覚えきるのは例えレベルが200に到達したとしても不可能だ。

そこでギルドにいる神官プリーストはそれぞれ取得するスキルを特化して覚えることが多い。何よりも強力かつ凶悪なのが、くしねさんによって能力上昇を受けつつ、風巳さんの能力減少によって弱体化したモンスターを蹴散らすことができるということだ。能力値を2倍に引き上げることは至難の業だ。それこそ補助スキル値をMAXにしても到底なしえない。だが、そこに相手の能力を半減させるスキルを重ねがけすれば、上昇値は1.5倍で済む。特化型の神官プリーストがメンバーにいることはギルドの能力値を跳ね上げる。まして、OVERLOADの2人のように示し合わせて違うスキルを取っているならなおさらだろう。


ノイトマを降りていく途中でかなりの人数の狩りと出くわした。やはり夏休みなだけあって、ギルド総出で狩りを行っているところも多いようだ。暗黙の了解というか、なるべく近寄らないようにして通り過ぎる。タゲを取ることが出来る距離まで近づけば、例えそんなつもりはなくてもPKとして警戒されることだってあり得る。


…そういえば『ジェネシス』始めたばっかのころ、好奇心でどっかの城に入ったら地下降りてすぐにPKされたことあったなぁ。まぁ、あれは沸き場で先客に気が付かずにモンス横殴りしてた俺が悪いんだけど。白チャで怒られたもんなぁ。


くしねさんの後ろをおっかけつつもどんどん地下へと潜っていく。


「人凄いけど、これだけいればかえってPKなんか来ないんじゃない?」


「ね?」


この様子ではソロ狩りをしている人なんて皆無だろう。補助魔法をガンガンにかけながら大人数で狩りをしている中で、そのうちの1人をPKなんてしたらどうなるか位は予想がつく。よってたかってボコボコだろう。まぁ、護符を発動させている時点でデスペナの心配もないし、あんま気にしないで狩ろう。


『風巳: 降りてくるの大変だった…』


『シシリア: 何かいつもより沸いてる?気のせいか』


『黒白猫: プレイヤーの数凄いからねー。回転率いいんじゃない?沸く傍から倒されてるけど』


『♪LILI♪: 久しぶりにノイトマきましたけど、やっぱり沸き方が凄いですね』


『にあ: 人も凄い!』


『NANAKO: でもよくワンフロア取れましたね』


『にあ: さっきまで知り合いが狩ってたの場所譲ってくれたんだよね』


『にあ: マスター』


『風巳: 何です?』


『にあ: 男爵が今度ギルドウォーやろうってさ』


『♪LILI♪: あ、そうそう。それが条件だそうです』


『黒白猫: ほら、ライアさんも入隊したし!GW経験させたげたいじゃん』


「…神谷可愛がられてるよね」


チャットを見てか、野崎が呟く。


「可愛がられてる?」


「うん、神谷がインしてない時に風巳さん私につぶやき飛ばしてくるんだけど。どうしたの?って感じで。くしねさんもリリさんも結構神谷のことギルチャで話してるよ」


え、マジで?


「風巳さんが言ってたけど、チャットだけでも何かその人の空気って滲み出るんだって。

『ライアさんはすごく素直そう』って言ってたよ?」


「おおう…マジか…」


「私は『それはどうですかねえ』って返しておいたけど」


「えーーーー!??」


「神谷って意外に頑固じゃない?」


「…あー、でもそうかも」


「そうでしょ?」


ふふん、といった感じで野崎が言うのを聞きながらチャットを打つ。


『ライア: ギルドウォーですか!やりたいです!!』


『NANAKO: GW久しぶりですね』


『風巳: いいですね。久しぶりに男爵さんのところとやりましょうか』


『シシリア: いいね!どうせなら派手にやりたいね!』


『にあ: 男爵さんに選りすぐりのメンツで来てもらう?』


『♪LILI♪: 千歳さんと再戦したいなぁ!』


『黒白猫: 前やった時は中途半端な活躍だったからマジで頑張るわ!』


『風巳: じゃあ早速男爵さんにチャット飛ばしておきましょうか』


ギルドウォーか。『ジェネシス』の目玉の一つともいえるギルド同士の大戦闘。もちろんソロで今まできてた俺はやったことない。どんな感じなのだろうか?


そんなことをぼんやりと考えていたときだった。


「あっ」


ヘッドフォンごしに野崎の短い悲鳴が響く。


「え!?どした!?」


「……最悪、油断してた」


野崎がくやしそうに呟いたのとほとんど同じタイミングでギルチャが流れる


『黒白猫: PK』


『風巳: 右上』


『♪LILI♪: 今行きます』


『シシリア: 今行く』


『にあ: 3人』


あまりにも淡々としたチャットの流れが、かえって異常な事態に見える。


「…野崎やられたの?」


「…ちょっと気づくの遅かった。今風巳さん達が戦ってるから、神谷は早くワールド出なよ」


「……30秒ちょうだい」


「は?」


ライアが右腕を掲げる。金色に全身を光らせながらMPを全てつぎ込んで『バーサーカー』を発動させる。


少しだけ黙っていた野崎が、あきらめたように呟いた。


「……能力値減少特化の神官プリースト召喚士サマナー戦士ファイターの3キャラね」


「あいよ」


野崎の言ったことには語弊があった。OVERLOADの皆は確かにPKが来たら一目散に逃げるんだろう。でも、もし逃げる前にギルメンがPKされたら?


そっからワールドに逃げるメンバーなんかOVERLOADにはいないでしょ、野崎。


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