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兄妹

目覚ましを叩くこともなく目を覚ます。自然起床って素晴らしいですね。昨日は結局サイゼでミラノ風ドリアをつっつきながら4人で話し込んでいたために、帰ったら23時を過ぎていた。そのまま風呂に入ってすぐ寝てしまったために、昨日は『ジェネシス』にログインできていないのだ。イベントは2週間続くとはいえ、ネトゲは時間をかけた分、結果につながっていく。イベントも同じだ。昨日の分を取り返そうと思い、もそもそと着替えると早速パソコンの電源を付けた。朝飯は後だ。今日は一日がっつり『ジェネシス』やろう!!そして今度こそ、「魂の欠片」を取ろう!俺がそう心の中で叫んだ瞬間だった。


「礼、起きてる!?」


ノックもせずに勢いよくドアが開けられると美雨がズカズカと部屋に入ってきた。


「うおっ。何!?」


「起きてるし。朝ごはんは?」


「え、後でいいよ」


「…またパソコン?朝ごはんも食べないですることじゃ無くない?」


「……」


実際その通りなので俺が何も言い返せずにいると美雨が近づいてきてパソコンを覗き込む。


「…何してんの?」


「別に何でもいいだろ…」


「…っていうか何で隠すの?」


「隠してないだろ、別に…何?何か用?」


「あのね、私今日暇なのね。買い物行こうよ」


「……あー……」


「何か用事でもあるの?」


ネトゲがしたい。なんて言ったらこいつ絶対怒るな。…仕方ない。


「ん。いいよ」


「ホント?じゃあ準備終わったら教えてね」


そう言うと美雨が部屋を出ていった。部屋着のまま表に出るわけにもいかないのでクローゼットを開く。気に入ってる組み合わせは昨日一式着てしまったのでストライプの長袖シャツと七分のカーゴパンツに着替える。暑いかなとも思ったけど味気ないのでまさやん達に「木こりみたいだね」と言われたベストも羽織る。洗面所に行くとワックスを手のひらに馴染ませて髪の毛を立たせてから、両手で掴むようにして髪をくっしゃくしゃにしてウェーブをかけていく。…夏休みだし後頭部とサイドにパーマでもかけようかな。

最後に前髪をワックスで整えて歯を磨いてからリビングに行ってみると、美雨がソファでテレビを見ていた。


「準備出来たけど」


美雨は振り返るとさっと全身をチェックするみたいに眺めて、頷く。


「おっけー。あ、ちょっと待って。お財布取ってくるから」


「…どこに行く?アウトレット?」


「うん!」


「ぜってー混んでるよな…この時間」


「夏休みだしいつ行ってもどうせ混んでるでしょ?」


「まぁ、そうかもだけど」


美雨が自分の部屋に引っ込むのを見ながら俺も自分の部屋から財布の入ったバッグを拾い上げた。


家の外に一歩出るとむわっとした熱気が襲ってくる。


「うっわ、あっつ!!」


思わず叫ぶと後ろの美雨も


「うわ、何これ…焼けちゃう…」


とか言いながら日焼け止めを塗っている。準備いいな。


「美雨、なんか被るもん持ってないの?」


振り返ると首を振る。


「男もんだけど俺の持ってる帽子貸そうか?」


「…いいよ、この格好に礼の持ってる帽子合わなそうだし」


「あー…。なるべく日陰歩くか」


うちの家から駅までは割と近いけどそれでも歩いて15分はある。なるべく日陰のあるルートを選びながら駅まで歩く。


「美雨、勉強どうなの?」


「ん、順調だよ。成績も割と良かった」


「美雨は頭いいからな。別に心配することじゃなかったか」


「…礼は?」


「んー?あー…。通知表開いてないや」


「は!?自分の成績でしょ?」


「うん。家帰ったら見てみる」


「…信じらんない。お母さんもお父さんも何で突っ込まないわけ?」


「まぁ、たぶんそんな変わんないでしょ」


「……礼、高1の三学期の成績は?」


「え?そんなん細かく覚えてないわ」


「…私の心配してる場合じゃない気がする…」


そんな風に会話しながら地元の駅に到着した。思ったよりも人の少ない電車に乗り込む。空調が効いている為随分と楽になった。座席が一つ空いていたので美雨を引っ張っていくと座らせる。そのまま立っているとごねたけど、無理やり座らせた。どっかの学校の部活男子と思しき連中が美雨をじろじろと見ていた為だ。別に見るのは一向に構わないんだけど。まぁ、やっぱ本人ちょっと嫌そうだしね。だったらそんな露出多い格好すんなとも思うけど、まぁ言ってもまだ子供だし。座った美雨にかぶさるようにして前に立って、美雨がそいつらから見えないようにした。


そんな俺の意図に気付いたのか気付いてないのか美雨は座席に座れたために電車を降りるまで終始機嫌がよかった。


目的地のアウトレットがある駅に到着すると電車から降りてすぐに自販機に近づく。無理無理。超暑い。朝取った水分はもう全部出たっつーかよく考えたら俺朝飯食ってないじゃん!!とにかく水分を欲していた俺はすぐさま自販機に泣きついた。アクエリアスを買うと午後の紅茶も一緒に買う。美雨に午後の紅茶を渡す。何故か不満気な顔をされた。


「あれ、喉乾いてなかった?」


「…私もアクエリアスが良かった」


「あれ、美雨午後の紅茶好きじゃなかったっけ?」


「…好きだけど、今はアクエリアスの気分だった」


姫か!!内心で突っ込みながら美雨の手から午後ティーを取り上げるとアクエリアスを掴ませる。


「…こっちは礼のでしょ?」


「あー、ね?俺は午後の紅茶の気分になった」


「…あ、そ」


ここで「ありがとう」位言ってくれると俺も報われるんだけど、悲しいけどこれ、現実なのよね。


その後は美雨に言われるがままあちこちのアパレルを覗いて、楽しそうに服を選ぶ美雨を横目で見つつも自分の服を探したりして過ごした。結局ZuccaでTシャツを1枚だけ買った。


「これ可愛くない?」


美雨がワンピースを広げて見せてくる。デザインよりも思わず値札を見てしまう。アウトレットといえどもブランドものは大して安いわけじゃない。それに、中学生が着るものでも無い。まぁ俺も高校生だけど。俺はせいぜい服やゲーム位にしか金をかけないけど、美雨は服に化粧に小物に靴に鞄に…挙げたら切りがないほど金かけるからな。


「高くね?」


「私今日お金いっぱいあるよ。お小遣いきっちり貯めてるもん」


「…素晴らしい」


そしたらもう兄として言えることは何もないわ。どんだけ露出多めの服であっても…。

美雨も高校入ったらギャルと化すんだろうな。っていうかこいつ、すでに派手だもんな。


…野崎みたいになんのかな。まぁ、いいか。なっても。


つーか野崎何してんのかな?昨日からインできてないしな、そんなしょっちゅう連絡取るわけでもないし。あいつ『ジェネシス』やってるかな今ごろ。「魂の欠片」何個集めたかな…。いいな、俺も早く集めたいなぁ。


「……」


気が付くと美雨が至近距離まで接近してこちらを覗きこんでいた。


「…何やってんの?お前」


「お前とか言うな。礼こそ何ぼーっとしてんの」


「ぼーっとしてた?」


「してた。超してた」


「あー…暑いからな」


「…ちょっと笑ってたけど?」


「暑さでちょっとおかしくなっちゃったかな…」


俺がしきりに首をかしげると美雨が心底馬鹿にした表情をした。


「…目当てのもの見つかったし、帰るか?」


「うん。あ、帰りにご飯食べて帰ろうよ」


「美雨何食べたい?」


「礼は?」


「フレッシュネスバーガーは?」


「いいよ」


「おっけー」



<><><><><><><><><><><><><><>


チーズドッグとスパムバーガー、7upをグランデサイズで2つ注文すると、札を持って席に着く。


「…礼さ、何かあった?」


注文を待っているとおもむろに美雨が質問してきた。


「は?何がって…何?」


「最近、よく笑うようになってない?」


「…どこで?」


「どこでも。今日も店員さんに話しかけられて笑ってた」


「…いやそりゃ笑うんじゃない?会話してたら」


「愛想笑いじゃなくて、凄い自然な笑い方。家にいるときとかと変わんない感じ」


「……?」


「女の店員さんだったでしょ?」


いや、そんなん言われても。確かに若い女の店員さんがすげえ話しかけてきたけど。


「ああいう時っていつもの礼だったら、強張った感じで相手するのに、今日は自然体だったよ」


「……そっ…かぁ…?」


「自覚、ないんだ」


「あー…、うん」


「まぁ、いいことだけど。私から言わせたら兄がコミュニケーション取れない人とか嫌だし」


そこで店員さんが注文したものをトレーに置いて持ってきてくれたので、受け取って机に置く。たっぷりマスタードとケチャップをかけたチーズドックにかぶりつきながら会話を再開させる。


「その言い方だと今までコミュニケーション取れてない人だったじゃん俺」


「だってそうじゃん。礼、今までうちに女の子連れてきたことなんて一度も無いし」


「……そんなん美雨だってそうじゃん…」


めっちゃ小さな声で抗議したけど黙殺された。


「私が友達連れてきたときも超そっけなかったし」


「…いや、あれはさ」


「確かに桃達もキャーキャーうるさかったかも知れないけど」


桃ちゃん達というのは美雨の学校の友達だ。何度かうちに遊びに来たことがあったけど、何故か皆して俺の部屋に特攻をかけてきたことがあり、その時はかなり扱いに困った。


「…桃達うちに凄い遊びに来たがるんだけど」


ぶすっとした表情で美雨が言う。


「は?いいじゃん。遊びにくれば」


「……いいよ。今来たらきっと今以上に来たがるようになるし」


「は?」


「……話戻すけど、そんな感じだったのにずいぶん角が取れたんだなって」


「いや、そんな簡単に人は変わんないだろ…」


「何言ってんの?すぐ変わるよ…本人が気づかないだけでしょ」


目の前の妹が何を言わんとしてるのか正直よく分からない。まぁ、俺みたいな根暗が女の子に対して自然な対応が取れるようになってきている…っつーんだったら、それは喜ばしいことな気がする。


「まぁ、確かに変に構えるのは無くなったかも。人は見た目によらないんだなって思ったし、壁作るのは相手に失礼だなって思うし」


「…ふーーーーーーーーん」


「……何その色々含んでそうな長さのふーんは」


「別に?まぁ、でもいいんじゃない?今までがおかしかったんだよ」


「は?」


「美雨は礼が凄い優しいって知ってたしね」


「……は!?」


突然何言ってるんだこいつ。


「照れるなよ」


そういいながら美雨はひっひっひと笑った。


思春期かつ年近という難易度の高さでもこれ位の仲の良さの兄と妹が居ても

まぁいいじゃないと思うのですが、どうなんでしょうか。

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