欠片集め
メンテナンス終了時間になってもログインすることが出来ず、やきもきしていたが、30分後、ログインすることに成功した。
「あ、入れた!」
「ホント?・・・あ、ホントだ」
待ちかねていたイベントにようやく参加できる。早めに狩場を確保しなければ、すぐに埋まってしまうだろう。野崎と色々相談して、まずはアインガルドの最下層で狩りをすることに決めた。適正レベルが25~30の狩場のため、経験値は期待できないが、初心者ダンジョンの中では湧きも悪くなく、最寄の町からでも、大陸と大陸をつなぐ通路を2回通過しなければいけない立地の悪さを鑑みて、あまり人は来ないだろうと予測した。って言っても同じような考えを持つ人もきっといるだろうから、早めの行動が肝心だ。
『ライアがログインしました』
『NANAKOがログインしました』
『♪LILI♪: こんです』
『黒白猫: おかえりちゃーん!!』
『にあ: おかえり!』
『☆星龍☆:こんです!』
『ライア: どもです!』
『NANAKO: こんです』
俺はログアウト前にいたフィールドから更に移動し始めた。
「野崎は今どこ?」
「え?もうアインガルドだよ。ポタに登録してあるから」
「あ、マジか。ごめん俺今走ってる」
「いいよ。待つよ」
『シシリアさんがログインしました』
『シシリア: やっと入れた!!』
『黒白猫: おか!』
『☆星龍☆: こん!』
『ライア: おかえりなさい!』
『NANAKO: 1時間半は長いですよね』
『♪LILI♪: ねぇ!すごく待たされた気がするw こん!>シシリアさん』
『にあ: あ、さっき掲示板チェックしたら風巳さんが書き込んでて、今日は19時から
皆で狩りいこうよって!』
『黒白猫: 把握!』
『シシリア: 今頃そわそわしてるんだろうなぁwww』
『ライア: 掲示板ですか??』
チャットの流れを止めるような気がしたが、思わず打ち込んでしまう。と同時に野崎にも質問する。
「野崎、掲示板って何?」
「あれ、神谷に教えてなかったんだっけ?」
「ん?」
「あのね、OVERLOADメンバー専用のギルドホムペがあるの。ちょっと待って今アド教えるから・・・・」
そういってしばし無言になる野崎。そっか、ギルドならホームページを持っていてもおかしくない。・・・そういえば俺、OVERLOADのギルドルールとかもしっかり把握できてないような。・・・ちゃんと聞かないと駄目だよな普通。
『黒白猫: ?』
『NANAKO: あ、そっか。掲示板知らない?』
『にあ: え!』
『シシリア: そっか!?あのね、ライアさん。うちのね、OVERLOADのギルドHPがあるんだよ!!』
『ライア: そうなんですね!俺、チェックしてなかったです』
『♪LILI♪: 何だかライアさんって、ホント最近入ったって感じがしないから皆知っているものだって思ってたかも』
『黒白猫: ホントだよwwwwww』
『にあ: そっかそっか。じゃあアド貼っておくから!』
そういってにあさんはURLをチャットに貼り付けてくれた。
「あれ、野崎。まだ探してる?」
「ん、スカイプのチャットで送っておいた」
「ありがと!!後で見ておくわ」
『♪LILI♪: 狩場まだ空いてますね』
『にあ: そのうち混むかもね』
『黒白猫: 俺は今バファルの地下2にいるわ。ガラッガラよwww』
『シシリア: 何か意気込んでたけどそんなでも無いのかな?』
『☆星龍☆: いや、さっきノイトマ行ったけど入り口にすでに何人か居てさ、しかも一人が赤ネームだったから退散してきたwww場所によっては混んでるよきっと』
『にあ: ドロップイベントだと初心者Dのが混むんだよなぁ』
『♪LILI♪: さくさく狩れますからね』
『ライア: もう皆さん狩りされてるんですか?』
『黒白猫: いえーす!!』
『♪LILI♪: してるよー!』
『にあ: b』
『シシリア: 俺も早く移動しようっと』
もう皆狩り始めてるのか。チャット中も移動を続けたライアはようやく通路を通り抜けた。フィールド上を駆け抜けてアインガルドに突入する。入り口からすぐのところにNANAKOが座り込んでいた。
「ごめん、行こう!」
パーティー申請をNANAKOに投げる。
「ずっと座ってたけど誰も来なかったから、大丈夫。ガラガラだよ」
「あ、マジか」
「でもそこらへんに湧いてるの何匹か倒したけど、ポーションしか落とさなかった」
拗ねたような声に思わず笑ってしまう。
「まーだ始まったばっかじゃん!!最下層行こう!!」
NANAKOが立ち上がる。
「ん」
「よっしゃ!!・・・あれ、何かテンション上がってきた!!」
「・・・ふふっ」
「やべえ超楽しい!!まだ何も出てないのに!!」
「ホントだよ!!」
弾むような野崎の笑い声を聞きながら改めて思う。やっぱ一人で狩りするより、誰かと狩りするほうが嬉しいし、楽しいんだなと。
道中に道を塞ぐモンスターを殴りながらも最下層へと降りていく。アインガルド地下4階。
「リザードマン」や「ビッグハンマー」など、かつては強敵だったモンスターたちも、レベル三桁に届こうかという今のライアにとっては剣を装備しなくても素手1発で吹き飛ぶような相手だ。ただ、読みはばっちりだったようで、最下層に他のプレイヤーの姿は無く、最下層はモンスターで溢れかえっていた。
「そうだ神谷、アイテムはランダムゲットでいいから」
思い出したように野崎が言う。パーティーを組んでいる時、経験値は等分されるが、アイテムの取得に関しては取得方法が選択出来る。モンスターを倒した本人のみがアイテムを取得できるデフォルト、倒したプレイヤーに関わらずアイテムが取得できるランダムだ。
「え?いいよ、偏ったら悪いし。つーか野崎のが狩り効率いいんだから、確実に野崎のが損するだろ」
「ううん、ランダムにしようよ。ね?」
なぜか頑なな野崎に説得されてアイテムはランダムゲットにした。律儀な奴。
「っしゃー!じゃあ始めますかぁ!!」
ライアをモンスターたちが固まっている場所へ走りこませる。次いでモンスターたちの中心で「ブレードウェーブ」を叩き込む。ライアを中心に、周囲のモンスター達が一気に爆散した。ポーションや魔石、それに小額のお金が辺りに散らばる。
「出なーい!!」
思わず叫ぶと野崎が吹き出した。
「そんないきなり出たら強運すぎるでしょ」
「確かに!!」
「神谷テンションどうしたの?」
「分かんない!!楽しくなっちゃってる!」
「ふふ、ね、楽しいね!!・・・どーーーん!!」
NANAKOが「ライトニング」で周囲のモンスター達を吹き飛ばす。視界に入っていたモンスターが一瞬で消えた。
「ちょ、俺の分も残しといてよ!!」
「どーん♪」
「野崎!!まだ湧いてない!!まだ湧いてないからね!?」
バカみたいなテンションで狩りを続ける。走り回りながらモンスターをたこ殴りにしていく。それでもイベントアイテムは一向にドロップしない。10分・・・20分・・・刻々と時間は過ぎていく。
「・・・なかなか出てこないね」
「んー、まぁポーションみたいには出ないよなあ・・・。でもイベントアイテムなんだからもっと出ろよ!!とは思うけど」
「貰えるアイテムが凄いもんね。仕方ないかも」
ギルメンの皆も同じような状態らしく、さっきから皆の発言が不満気だ。
『黒白猫: うわぁ!!すげえ人来た上に横された・・・狩場移動するわ』
『ライア: ありゃりゃ』
『シシリア: 皆気立ってんのかもなぁ』
『にあ: 出ないよ!!みたいな?』
『♪LILI♪: こないだのGWイベみたいにどんどん出ればいいのに・・・』
『☆星龍☆: 何か運営のあんまアイテムあげたくない感が凄いですね』
『黒白猫: wwww』
『シシリア: くれよおおおお!!そこはぁあああ!!!』
『ライア: 釣った魚に餌くれよ!!って感じですよね』
『にあ: wwwwww』
『♪LILI♪: ww』
『黒白猫: しかし出ない!!』
『NANAKO: もう30分以上狩ってるのに・・・』
『シシリア: まぁ、まだまだ!!そのうち出るよ!たぶん!!』
「あ!!」
野崎が叫ぶ。
「出た!!」
「え!?」
NANAKOのいる場所にカーソルを合わせると確かに近くに見慣れないアイテムが落ちている。『魂の欠片』だ。
「うお!!マジだ!!」
「やった!」
「拾いな!早く拾いな!!」
野崎がすぐに拾う。
「あ、私に来た!!」
「うおー!俺も早く出そう!!」
もうこれ出ないんじゃないの、位まで下がっていたテンションが一気に回復する。よっしゃ!!リザードマンどーーーん!!はい出たポーション!!分かってたけど!!
『NANAKO: 欠片出ましたよ!』
『シシリア: マジかああああ!!!』
『黒白猫: キタ━━━━━(゜∀゜)━━━━━ !!!!』
『♪LILI♪: おめ!!』
『☆星龍☆: うおお!!おめ!!』
『にあ: おめでとおおおお!!!』
『ライア: うおーー!俺も出す!!』
リザードマンやビッグハンマーを次々とスモールポーションや魔石に変化させる。いや、『欠片』でろよ!!
「何貰えるかなぁ?ねえ、神谷、何貰えるかな!?」
すでに野崎は交換した時のことを考えてウッキウキのようだ。声のトーンまで明らかに高くなっている。ちくしょう!!でもそこまで楽しそうにされると何かもう許せる!!
結局、皆で競い合うように狩ったが、『魂の欠片』はかなりドロップ率が低いのか、手に入れられたのは皆1時間強ほど狩って、平均2個だった。
あ、俺?俺ですか?
「・・・本当にいらないの?神谷」
「いいって。それは2個とも野崎のもんでしょ」
はい、この1時間、ドロップしたのは野崎のみでした。更にランダムゲットで2回とも野崎に行くという。いや、それ自体はむしろありがたい話なんだけど。だって野崎が出したもんだからね。問題はそこじゃなくて。何で俺にはドロップしないのって話だよ!!
ちくしょう!!ポーションがアホみたいに溜まる!!魔石もやべえ!!もう当分エグゾーストには困らないわ!!
「でも・・・」
「・・・野崎、何かさ。いや、俺ギルドの人と狩りしてた時も思ったんだけどさ」
「え?うん」
「こうやってさ、出たアイテムどうしようか?とかさ。ドロップ率悪いよねーとかさ。
そういう話出来るのってさ、超楽しいんだけど」
「・・・うん」
「だから、野崎が取っときなよ。それ野崎のだから」
「うん。・・・ありがと」
何が「だから」なのか自分でもよく分かんないけど、言いたいことは野崎には伝わった・・・と思う。
強い装備作って、ボス狩りに行って。PK追い返して、レアアイテム拾って。『ジェネシス』はホント楽しい。でも何か、今は思うんだけど。楽しみ方ってそれだけじゃねーよなぁ。
『風巳さんがログインしました』
『風巳: |ω・)』
『黒白猫: かぜみんキタ━━━━━(゜∀゜)━━━━━ !!!!』
『♪LILI♪: こーーーーーん!!』
『☆星龍☆: お!!こん!!』
『ライア: マスター!こんです!!』
『シシリア: マスター!紅茶めっちゃ飲みたい!!』
『にあ: マスター、いつものやつ頼むよ!!』
『風巳: (゜ロ゜;)!?』
『NANAKO: wwwww』
『☆星龍☆: www』
『黒白猫: 悪ノリwwwwwwwwwww』
『風巳: 高いよ?』
『ライア: wwwwwwwwwwww』
『♪LILI♪: ww』
『にあ: wwwwwwwww』
『シシリア: ちょwwwwwwwww』
『風巳: 首尾はどんな感じですか!?』
『黒白猫: 気持ちいいくらい出ない!!』
『にあ: 出ない!!』
『♪LILI♪: まだ2個ですね』
『☆星龍☆: 結構狩場混んできましたね』
『ライア: まだゼロです!!』
『シシリア: 心が折れそう!!』
『風巳: (・ω・) 』
『黒白猫: !?』
『にあ: !?』
『シシリア: !?』
『ライア: !?』
『♪LILI♪: !?』
『NANAKO: !?』
『☆星龍☆: !?』
『風巳: (・ω・)ノ やんぞ』
『黒白猫: しゃああああああああああ!!!!!!!!!!』
『☆星龍☆: WRYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!』
『♪LILI♪: わああああああ!!』
『ライア: ハァアアアアアアアアアン!!!』
『シシリア: ほわあああああああああああああ!!!!!』
『NANAKO: うおおおおおおおおおお!!!』
『にあ: こいやああああああああああああああああああああ!!!!』
チャットの流れに野崎と2人で笑ってしまう。
「・・・俺ホントOVERLOAD入ってよかったわ」
しばらく笑い続けたあと、思わず口から出た言葉だった。そうだね!みたいなリアクションを返してくれると思ったのに野崎から返事が無い。
「・・・」
「野崎?」
「・・・」
「あれ?聞こえてる?」
「・・・神谷?」
「ん?」
何だよ聞こえてるじゃんか。
「楽しい?」
「めっちゃ!!めっちゃ楽しいな!!」
あれ、また無言じゃん。野崎―?話しかけようとした瞬間、とんでも無い爆弾が落ちてきた。
「・・・私もすっごい楽しい!!」
何かもうガード全部降ろしたような人懐っこい声。もう何、ちょっと想像して欲しいんですけど、女の子にぜんっぜん慣れてない男がいるとするじゃないですか。で、ちょっと女の子に親密にされると勘違いしてのぼせ上がってしまうじゃないですか?もう俺は正直一瞬で勘違いしそうになったわ。それ位の破壊力。
マジで心臓に良くない・・・。
「・・・神谷聞いてる?」
一瞬でいつも通りのテンションに戻った野崎の声を聞きながら、俺はバックンバックン鳴ってる心臓を確かめながら、あ、そういえばここには心臓があったよな。なんていう頭悪いことを心の中で呟いていた。
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