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メンテナンスを待ちながら

『NANAKOがログインしました』


『黒白猫: お』


『ライアがログインしました』


『黒白猫: やっほー』


『にあ: こん』


『シシリア: 久しぶりー』


ログインしてみると、思ったよりもギルメンがログインしていた。やっぱり夏休み効果なのだろうか。まだ俺はギルメンのリアル事情には詳しくはないけど、くしねさんも星龍さんも大学生みたいだし、にあさんもシシリアさんもそうなのだろうか?まぁ、イベントはソロで参加するよりは皆でワイワイやったほうが楽しいに決まってる。今まで散々、単独行動をしてきた俺は、このイベントへのワクワク感が尋常じゃないのだ。


『NANAKO: こんです』


『NANAKO: お久しぶりです』


『ライア: こんです!!』


『にあ: あとちょっとでメンテだよー!!』


『黒白猫: イベント始まったら皆一気にログインしてくるよねw』


『シシリア: たぶん、そうですね! 狩場空くかなぁ』


『ライア: 風巳さん来るでしょうか?』


『にあ: うーん、どだろ?』 


『シシリア: マスターね、本気で店開けるか悩んでたよw』


『黒白猫: ちょwwwwwwwww』


『NANAKO: ええw』


『にあ: 風巳さんwww』


『黒白猫: 何て店長だwww』


『ライア: え!?風巳さんは店長さんなんですか!?』


『シシリア: 喫茶店のマスターなんだよwww>ライアさん』


『にあ: リアルでもマスターっていうwww』


『ライア: すげえ!!』


「マジかよ・・・リアル店長って」


思わず声を上げると、野崎もマイクの向こうで笑い声を上げる。以前、野崎が風巳さんのリアル事情をちょっとだけ漏らした時のことを思い出した。あの時野崎は「風巳さんは自営業だけど詳しくは知らない」って言っていたはずだ。けど、チャットのやり取りや今の様子を見るに、知っていて俺には教えなかったのだろうと思えた。きっと「マスターはリアルでもマスター」というネタを少しでも引っ張りたかったのだろう。いやいや、俺じゃあるまいし深読みしすぎか。


俺は露店を巡ろうとしたが、思ったよりも出店が少なかったため諦めた。よくよく考えれば、メンテナンスが入れば強制的にサーバーからログアウトさせられるのだ。露店を出店していてもどうせそのうち追い出されるとなれば、やる人も少ないのだろう。あまりにも暇だったので、今のうちに移動をしてしまおうと思い、初心者ダンジョンのある大陸までポータルで移動をした。


「神谷はどこで狩りするの?」


「ん、まぁ沸き場でやろっかなって思ってたんだけど、効率考えたら初心者ダンジョンでもいいのかなって」


「あぁ、初心者ダンジョン込み合いそう」


「ね。早いとこ最下層まで潜って、場所確保しようと思って」


「・・・あ・・・のさ」


「ん?」


野崎にしては随分歯切れの悪い口調だ。珍しいことだなとぼんやりと思っていると、野崎が少し早口になりながら言ってきた。


「い、一緒に狩りしない・・・」


「え、するでしょ。普通に」


「・・・え」


「いやいや、野崎。こんな通話までして、別々に狩りするのが逆におかしくない?え?俺、最初からそのつもりだったんだけど・・・」


あれ?俺また何か勘違いしてた?今度は踏み込みすぎた感じ?


「そ、そう?・・・」


あれ?何だ?この空気。何か若干気まずい。え、野崎もっと喋ってこうよ。何故か野崎はだんまりを決め込んでいる。


「あと10分位?メンテまで」


「・・・そうだね」


「そろそろログアウトしとく?」


「うん」


言葉少ななままの野崎に若干戸惑いながらもチャットを打つ。


『ライア: じゃあ一旦落ちますね!メンテ終わったらまたすぐインしまーす』


『黒白猫: 俺も落ちるわ!皆また後で!』


『にあ: あ、落ちます!!』


『シシリア: あ、俺も!!後でねー!』


『NANAKO: 一旦乙です』


ログアウトを済ませると、手持ち無沙汰になったことに気づく。メンテが終わるまで後一時間だ。あれ?後一時間・・・あと一時間何すんの?


「・・・神谷、待ち時間何するの?」


「ね。何もすることない・・・」


何も考えてなかった。つーか、あと一時間・・・野崎と通話したまんまじゃねーか・・・!!ぶっちゃけると、『ジェネシス』をやってない状態で野崎と会話繋げる自信がぜんっぜん無いんだけど。


「・・・」


「・・・」


うおお!!駄目だ!この空気駄目だわ!!すでに沈黙ですよ!俺?ううん、一言も発してない!!これ?これは心の声だから!!めっちゃ大声を発してるっぽいけどその実、お口はチャック状態だからね!お口はチャックて!!今日び小学生でも言わないわ!!


自分でも何を考えてるのかよく分からないけど、正直冷や汗がすごい。この空気凄い。通話だっつーのに、まるで日ごろ女の子と対面で接する時ばりの無言を貫いてしまう。あれ、おっかしいな!?さっき通話しはじめた時はそうでもなかったのに・・・。あ、野崎からの発言が無いからか。え、何でだろ、俺変なこと言った?この空気作り出したの俺なの?


「・・・神谷」


野崎さん!!マジありがとうございます!!話しかけていただけてありがとうございます!!ヘッドホンが吹っ飛ぶ勢いで頭を下げたかったけど自制して心の中で土下座をしておく。


「な、何!?」


「・・・」


・・・何かさっきっから野崎が変なんだけど。何か言いたいことでもあるんだろうか?


「・・・ギルドに誘ったじゃん・・・私・・・」


「え?・・・う、うん」


ん?今更またその話?野崎は凄く言いづらそうにぼそぼそと話し始めた。


「・・・最初、身近に『ジェネシス』やってる人がいたのが凄い嬉しくって・・・だから結構無理やり誘って・・・たのね?正直、神谷がどう思うのかとか、あんま考えてなかったし・・・」


「・・・だから、その後神谷が話しかけてくれなかったりして・・・私凄い焦って・・・廊下で言ったことも・・・正直、神谷が悪いわけじゃないの分かってて・・・わざと責めるようなこと言ったんだ。そしたら神谷・・・きっと話してくれると思ったから・・・」


「・・・通話ででもいいから、話したくて。『ジェネシス』のこと、話したりとか・・・。狩りしながら話したりとか・・・凄いしたくて・・・」


「・・・ごめんね」


顔は見えない。当たり前だ。パソコンの画面を睨みながら思う。でも、俺はパソコンの画面を凝視していた。暗い画面に映るブッサイクな自分の顔を眺めながら俺は言葉を返した。


「あのね、野崎。俺はね、知ってると思うけどめっちゃ女の子と話すの苦手なのね?」


「俺はね、女の子が凄い怖いんだわ。女の子がこっち見て何人かで話してるの見ると、俺の悪口言ってるのかな?とか思うの。素で。すげえ被害妄想激しいの」


「でね、野崎とぜんっぜん教室で話さないのは、話せないのは俺に問題があるの。そこは野崎のせいじゃないわけ。俺の性格に問題があるわけ。だから、野崎は謝んなくていい。・・・前も言ったけど、俺はすげー野崎に感謝してるからね。ギルド誘ってくれたこと。でもってね、『ジェネシス』の話するの、俺もすげえ楽しいから」


「・・・だからね、俺別に無理してるわけじゃないから。俺無理してこうやって通話してるわけじゃ全然ないから。狩りも、一緒に行きたいから誘ってんのね?」


「・・・うん」


「おっけーですか、野崎さん」


「・・・うん」


「・・・あと一時間はメンテ長いよね」


「・・・長い。・・・神谷何か面白い話無いの?」


「野崎、それは芸人ですら嫌がる話の振り方だぞ」


有り得ないくらい饒舌になった自分に内心ドン引きしながら野崎とたわいもない話を続ける。たわいもない話をしながら思う。女の子相手に、自分の思ってることここまで正直に話したの初めてかもしれないなと。・・・いや、だから何だっつうんだ。


メンテが終わったのは少し遅れて一時間半後だった。俺と野崎は一時間半、会話が途切れることは無かった。


意識して引っ張ってるわけではないのですが、イベントがはじまりません

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