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ユアハート・マイリーズン  作者: 八武希幽水


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1.26 ダブルデート②

 その後、一行はショッピングモールを一旦抜けて、喫茶『すみぞめ』で休憩をとる事にした。大量の衣類と本、グッズを抱えた三人の知己と、見知らぬ桜髪の少女を、店主である天野在子は不思議そうに、或いは面白げに温かい笑みを浮かべて迎えた。


「いやぁ……学校の件、今朝ニュースで見たときは心配したけど、様子を見るにお前達は大丈夫そうで良かったよ。……というか遊んでちゃ駄目だろ、生徒会」

「遊んでないですよ、立派な課題活動です。ほら、急な休校にかこつけて遊び惚ける生徒が居ないか査察……由紀の気分転換も兼ねて。あと、ほら。知り合った、えーと、観光客の道案内、的な?」


 優香里のふわふわした釈明に在子は「ふーん」と、半ば呆れたような表情を浮かべ、由紀の隣の席にちょこんと静かに座るユイに優しく笑いかける。ユイは表情こそ変えなかったが、軽く会釈で応じた。


「今日は奢りだ。三人はいつもので良いだろ? 貴方は何にする、綺麗なお嬢さん?」


 飲み物の注文を聞かれたユイは、いつも在子が煙草を吸いくつろぐカウンターの、その奥のショーケースに飾られた酒瓶の方をじぃっと見る。


「甘いもの。……あと、カクテルとか、あるなら」

「……ん、甘いものと、酒? 酒、飲むの? いやー、アソコのは私の半分趣味でさ、出すにしても夜中の常連だけで。まだ日も高い内に、それも学生の前で出すのは、ね」


 在子は困ったように頭をかき、ユイと三人を見比べる。


「そもそも、お嬢さん年幾つ? こいつらとそんなに変わんないように見えるけど」

「146億歳」

「……はい?」


 仏頂面の彼女の口から出た突拍子も無い回答に在子はキョトンと数秒硬直した後、堰を切ったように呵呵大笑した。常に大人の余裕を纏わせる彼女の珍しい姿に由紀達三人は唖然としていた。未だ込み上げる笑いを堪えるように煙草を震わせながら在子は言う。


「……お嬢さん、どっかのお姫様みたいな顔して、かなりぶっ飛んだこと言うんだね。久しぶりに笑った。んん、お酒はやっぱり出せないけど、代わりに《《アレ》》、ご馳走しちゃおうかな?」


 そう言うと在子はカウンターに戻り、何やら準備を始める。合間に四人に飲み物を出しながら待つこと数分。怪訝そうな表情を浮かべるユイの前に大きめの盆が置かれる。


「……これは」

「へへ、ウチの裏メニューだ。特別製だぜ?」


 在子が自信たっぷりの表情でユイに差し出したそれは、一つの大きなパフェ。

 小さなバケツ程もあるガラスグラスの中に、ミルフィーユ状に敷き詰められた黄色いスポンジと紅白の生クリーム。最上部には溢れんばかりに盛り付けられたイチゴと、雪のように散りばめられた粉砂糖。そして中央には桜の花びらを模したチョコチップ。

 見る者に「春と桜」を想起させ、圧倒する豪奢な逸品。喫茶『すみぞめ』の最高傑作。


――その名も、『桜花絢爛・アルコスペシャル』。


「桜美丘市の方で店開いてた頃からの常連さん限定のメニューだ。……何だか分からんけど、様子を見るにどうやら由紀達が世話になったみたいだし。お礼も兼ねて、どうぞ」

「……なるほど」


 目の前に差し出されたそれを見つめるユイは相変わらず無表情であったが、その紅い瞳は、由紀はおろか優香里と明人にも分かるくらいに嬉し気に輝いて見えた。

 四人が見守る中、ユイは慎重そうにパフェを食べる。クリームを口に含み、ゆっくり味わうように頬を動かす。そのまま次の一口へ。次も、その次も。次第に舌が次の一口を待ちきれないと言わんばかりにスプーンを動かす手が早くなる。

 顔に出さずとも、言葉にせずともユイの心情は皆分かった。



――滅茶苦茶美味しい、と。



「……良い食いっぷり。流石アルコスペシャルだ」

「それ、旨いけど死ぬほど甘いのに……。甘いもの、そんなに好きなんだ、ユイさん」

「ユイ、気に入った?」


 無表情のまま一心不乱にパフェを食べるユイの姿は中々シュールで、思わず由紀達は笑ってしまう。我に返ったようにユイは手を止め、僅かに頬を染めて目を泳がせる。


「いえ。……いえ、そうね。とても、美味しいわ。特に中のクリームが甘めなのに飽きがこない作りで。スポンジ生地はカステラに近いもので仕上げているのね、しっとりしていて舌触りも良い。飾りつけイチゴも大きく熟していて美味しいわ。果物も全部高級なものを使用しているのね」


 静かに、しかし早口で情熱的に品評するユイを見て、在子は満足そうに頷く。


「ユイさん、分かる人だね。イチゴは関東から取り寄せてる高級品種。スポンジ生地も紅白クリームも全部私考案のオリジナル甘々レシピだ。……いやー、最初の最初は半分冗談で考えたメニューだったんだけど、度が過ぎた甘党でさぁ、結実のヤツ――」


 そこまで言いかけた在子は、先程の明人とそっくり同じようなリアクションを取り、きゅっと口をつぐんだ。由紀達の間に再び気まずい沈黙が流れる中、一人スプーンをもごもごとさせていたユイは手を止め、食べかけのパフェをしげしげと見つめる。


「そう、これはカミシロ・ユミの為の品なのね」


 そう言うと、ユイはおもむろにスプーンでパフェを一口分すくった後、隣に座る由紀に「ん」と差し出す。


「え、え?」

「とても美味しいから、あなたも食べて」


 わたわたと困惑する由紀だったが、スプーンを突き出したままじーっと真顔で見つめてくるユイの何とも言えない圧に結局負けて、恐る恐るパフェを口に含んだ。


「……美味しい?」

「う、うん。ちょっと甘すぎるけど……美味しい」

「良かった。……半分こしましょう」


 こくんと頷いたユイは、パフェを心底旨そうに食べては、時折由紀の方にパフェを差し出し、食べる様子を何やら満足げに見つめる。そんな二人の様子は、傍から見れば恋人同士のやり取りのそれだった。


「……………………」

「……あぁ、の。その」

「……ほほぉ」


 笑顔と困惑と怒りが綯い交ぜになった結果、一周回って無表情になった優香里と、赤面しながら慌てた表情でキョロキョロと視線を泳がせる明人、そしてそんな一同を俯瞰して興味深げに眺める在子。三者三様の表情で見守られながら、ユイと由紀はパフェを食べていた。やがて最後の一口が、赤い顔をした由紀の口に運ばれるや否や、ダンッと大きな音を立てて立ち上がった優香里の怒号に近い号令が店内に響き渡る。


「――よっしゃ、食べ終わったな、畜生め! ユイさん、次は駅の向こうの観光地区、案内してやるよ! ここらで一番綺麗だし見栄えが良い、行くだろ、行くぞ、さぁ立った立った。由紀も明人もボサッとすんな! 在子さん、ごちそうさん!」

「……あぁ、あぁ。気を付けてな、あんまり遅くにならんように。ユイさん、パフェ気に入ったんなら、またおいで。あぁ、今度は酒も用意しとく」


 苦笑しながら一行を見送る在子は、豊かな表情変化で不機嫌を伝える優香里と対照的に満足そうな無表情を浮かべるユイに再度笑いかける。



「……えぇ。ありがとう、アルコさん。とても美味しかったわ」


 カウンターに飾られた酒瓶をちらりと見たユイは、コホンと咳をして頷いた。


 舞之宮市は五つの地区で大まかに分けられている。舞之宮駅を中心に由紀達の通う舞之宮高校やショッピングモールがある中央区。何本もの商店街が形成され人々の往来が豊かな西区。南方の郊外に大規模な工業施設を構える南区。駅を跨いだ北区は打って変わって静かな高級住宅地。優香里が住む高層マンションもここにある。


 そして由紀達一行が向かったのが北区の隣、巨大な庭園と旧市街通りがある東区の観光地区であった。大きな池を中心に散策路が設けられた庭内は、現在は桜並木と新緑に彩られ、風光明媚な春の景観を形成している。


「運がいいよ、ユイ。ちょうど昨日あたりから市内の桜も開花し始めてね。四季ごとに見所はあるんだけど、舞之宮庭園はこの時期が一番なんだ」

「……確かに綺麗ね。市街地の中に、こんな自然豊かな場所があるなんて」


 桜の花びらが浮かぶ水面の傍を由紀と並んで歩きながら、ユイは感慨深げに呟いた。

 由紀の案内に従いつつ、ユイは時折懐から懐中時計に似た機械を取り出し、何かを探るようにそれを彼方此方にかざす。由紀はそれに見覚えがあった。『神城の大桜』でユイと初めて会った時にも彼女はそれを手にしていた。


「……やはり、特段の霊子変動は無いわね。ここは霊子濃度が周りより低いから、何かしら術式を仕掛けるなら、ここか桜美丘市だと思うのだけど。上手く隠しているのかしら」

「よ、良く分からないけど、その時計みたいなので霊子の事とか、ユリスさんの居場所が分かるんだね?」

「霊子時計ね。自分の存在確立補助の他、周辺の霊子状態を可視化できる。……彼らがあなたを狙いにしているのは確実だけど、あなたを攫って事を起こすのか、それともこの世界で何かしら行うのか。レベッカの口ぶりから考えるに――」


 そんな事を話していると、後ろから二人を呼ぶ声が聞こえる。


「おーい、二人でばっか周ってんじゃないよ! ユイさん、城登ろうぜ、絶景なんだ!」


 人目も気にせず、明るい笑顔で手をブンブンと振る優香里が居た。傍らに荷物を全部持たされて少しふらついている明人の姿も見える。


「もう……優香里姉ぇったら。あんな大声で」

「行きましょう」


 由紀の腕を軽く掴み、ユイは呼ばれた方へ向かう。


「……優しい人達ね」


 歩きながらユイは、何故だか少し恥ずかしそうに顔を赤くしている由紀にだけ聞こえるような小さな声で呟く。


「え?」

「楽しい以外の感情が浮かんでくる隙が無いくらい、ずっと明るく振る舞い、気遣ってくれている。素敵な知己を得ているのね、あなたは」

「……そう、だね。うん、えへへ。でも、それはユイに感謝しているのもあると思うよ。僕を助けてくれて、だからお礼を返そうとしてくれて」

「私の方じゃない。いえ、そちらもあるけれど。……あなたの方によ」


 視線を変えないまま、ユイは少し細めて言う。


「あなたが悲しい方の事を考えないよう、努めて明るくしようとしてる。自分達の本心が望まない事でも、歪でも、あなたの為に。私には分かる」


「……それは」


 由紀が続きを聞く前に、二人は優香里達が並ぶ城内への待機列に合流してしまった。



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