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ユアハート・マイリーズン  作者: 八武希幽水


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1.15 桜華の亡霊③

 少女は由紀を抱えたまま、佐倉家の玄関前にふわりと着地した。そこで漸く由紀は、自分の知る世界に戻ってこれた気がした。


――本当に魔法、それか絵本のお話みたい。


 何処か夢心地に感じ惚けて立っていた由紀を、少女は唐突に両手を使って大胆にまさぐりだす。「ひゃあ!」という由紀の叫び声にも臆さずに無表情のままひたすら何かを探す様に由紀の身体を一分程かけて調べた。


「……霊子術の痕跡は無さそうね。ひとまずは大丈夫」

「は、はぁ」


 少女は一人納得したようにボソリと呟くと、由紀の顔を一瞥した後そのまま踵を返して足早に立ち去ろうとする。身体中触られて真っ赤に硬直していた由紀はハッと我に返り、慌てて少女の後ろ姿を追いかけ呼び止めた。


「ま、待って! お願い待って! ――『ユイ』さん!!」


 その声に、コツコツと靴音を鳴らしながら進む少女の歩みがピタリと止まる。振り返った少女は二つの紅い瞳に由紀の顔を映し、「何故?」と怪訝そうな顔を浮かべていた。


「その、レベッカさんが、あそこに居た人がそう呼んでいたから。ユイって」

「……成程。レベッカ、彼女が」

 ユイは記憶を思い返す様に上を見る。その後何やら一考した後、由紀を見て言う。

「……今日見た事、さっき見た彼ら、そして私の事は忘れて。悪い夢だったという事にして、明日からいつも通りに過ごして欲しい」

「え」


 無茶な話だ、と由紀も流石に思った。有り得ない超常の光景に、死の匂いがするやり取りを目の当たりにしたのだ。例え忘れようとして頭から消えるモノでは無かった。

 言うべきことは言った、と今度こそ由紀の元から立ち去ろうと背を向け歩き出す。そんな彼女に対して由紀はすかさず「待って!」と声を掛け、自分でも大胆と思いつつも彼女の腕を掴み、再び正面を向かせた。


「……なあに」

「……い、異世界? から来たんだったら、泊まるとか無いんじゃないかって。もう夜も遅いですし、良かったら、ウチに上がっていきません、か……?」


 次第に小さくなる声でそう提案する由紀に、ユイはゆっくりと首を横に振る。


「……気持ちだけ頂く、ありがとう」

「でも……僕、まだ貴方にちゃんとお礼できていません。それも二回分」

「私に礼など要らない。これは『裁定者』の仕事。カノヨビト達を、『特異点』の存在を裁定し、『現世』と『彼世』の安寧を守る事が私の使命なのだから」

「駄目です! 何かしてもらったら絶対に『ありがとう』は要るんです。それにお礼が言葉だけじゃ足らない事も。それが今だって思うから。だから」


 我ながら無茶苦茶な申し出だと由紀は言葉を発しながら思った。事実、返礼の受け取りを請われた当の彼女の仏頂面が揺れていた。嫌悪の類では無かったが、困ったような、戸惑うような表情を浮かべている。


 それでも由紀は食い下がった。押しつけがましいのは分かっている。だが此処で彼女を絶対に引き止めなくてはならないと思ったからだ。直感的に感じる。此処で別れてしまったらもう二度とユイは自分の前に姿を見せてはくれない、と。



「……お願い。このまま、行かないで」



 両手でしっかりと握ったまま、由紀は上目遣いで懇願した。

 真っ暗な佐倉家の玄関前で見つめ合う事数十秒。

 それは唐突に響いた。


――クゥゥゥ……ゥゥゥ。


 蚊が鳴く程に小さくて高い音。周りが静まり返っていなければ聞こえないくらいの控えめな響きは、由紀が確認できた限り確実に目の前の少女の腹部から聞こえたものだった。


――お腹が鳴る、音?


 それまでの緊迫していた空気から一転、思わずキョトンとする由紀に対して、何事も無かった様に無表情を貫くユイ。しかし由紀は暗がりでも、その白く綺麗な両頬が薄っすらとピンクに染まるのを見逃さなかった。



「……………………」

「…………あ、の」

「……なあに」



 尚も平静を保とうとする彼女を内心可愛らしく思いながら、由紀は満面の笑みで言う。


「良かったらお夕飯食べていきませんか? 僕、料理得意なんです!」

「……………………頂くわ」


 観念したようにユイは小さく頷いた。



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