エコシステム AI フロンティア
AI 業界特有のエコシステム(経済圏)ができつつある。そのひとつに NVIDIA と Oracle と OpenAI の関係がある。NVIDIA は GPU を最大限活用する AI を育てているために OpenAI に出資する。OpenAI はクラウド上で動かすために Oracle に出資する。Oracle は、クラウド上の GPU を活用するために NVIDIA に出資する。あたかもマッチポンプのように 1000 億ドルと言われる出資額がぐるぐると 3 社の間でまわっているのだ。これが、永久機関ならば「まさかそんなことはあるまい」ということなのだけれど、経済圏では結構普通の話だったりする。
お金は動いてこそ、価値が上がるという考え方がある。金庫にある金塊は、たしかにそのものの価値はあるけれども、何かを生み出すわけではない。しかし、経済圏の中で投資という形でお金がお金を生む仕組み(配当金など)が作られて、資本が投資という形で流通してこそ価値を生み出すという考え方となる。このため、3社のなかでぐるぐる回っている資金は、少なくともどれかの一社が無くならない限り、回り続けることができる。まるで、自転車操業のように見えるけど、実際には自転車操業だ。しかし、でかい自転車操業である。これを「スループット会計」と呼ぶ。
この話を聞いて、私は「大学生の小遣いが経済をまわす」という竹村健一の話を思い出した。竹村健一は、大学生の小遣い程度でも経済を廻す、ということを大学の入学パンフレットに書いた。自分の財布にある間は、それは 1 万円の価値しかないけれども、大学生が 1 万円で何かを買えば、1 万円で何かを作っている人が儲かるという仕組みなる。当然、儲かった何かを作っている人は別の何かを買う。そうして、次々と何かを買う、そのために作る、という流れができあがって、流通が活性化される。大学生は卒業時には、景気のよい世の中に出ていけるという話である。
ただし、これはオチがあって、竹村健一は「皆がお金を使えば」という但し書きをしている。ひとりだけ 1 万円を使ったとしても、それでおしまいならば流通にはならない。皆が使えば大きなお金が廻るのだが、ちょっとだけでは、ただちに貯金になってしまうという話である。
実は、これが不況の仕組みであって、皆が財布を引き締めれば不況になるし、皆の財布が緩めば好景気になる。あたかも、景気が良くなれば技術が発達するという雰囲気はあるけれども、技術が発達しなければ好景気にはならない。その循環は、どこから始まりどこで終わるというわけでもなく、ぐるぐると廻っているのだ。もちろん、誰がそれを始めるかというのが問題なのだが(教科書通りでいえばニューディール政策のように、政府が始めるのが普通なのだけど)、それを AI 界隈のエコシステムでスタートさせているのが NVIDIA と Oracle と OpenAI の関係である、というわけだ。余談だが、ニューディール政策は政府の出資が多くなるため、インフレ=市場のモノが高くなるという現象から逃れられない。これは賃金が高くなればいいのだが、なかなかそういう訳にもいかない。だから、インフレとデフレ、好景気と不景気は、交互に発生すると言われている。果たして、NVIDIA と Oracle と OpenAI の関係は、好景気を発生させた後に不景気を発生させるのかは不明ではあるが、AI の経済圏は閉じてはいないので、考察が必要となるだろう。
NVIDIA さんが、路頭で GPU を売っています。
「GPU, GPU を買ってください」
待ちゆく人は GPU を買ってはくれません。いまや、API を動かすには高価な GPU などはいらないのです。ちょっとした AI システムの工夫で、高速な GPU はいらなくなってしまいました。スマートフォンの中で動く CPU でも十分な動きをし、組み込みチップにナノレベルの CPU が組み込まれてしまったため、ファンが大きくて、電力消費の多い GPU ボードは避けられ、しまいにはいらなくなってしまったのです。
「ああ、GPU を買ってください」
そこに、Oracle 紳士が通りかかりました。Oracle 紳士はまさしく神託のように皆に AI の知識を与え続けました。クラウドという広がりは、地球のあらゆるところに広がっていきました。しかし、知識というものは、宗教のようにカテゴライズされているものです。欧米の知識と、中国圏の知識、中東のイスラム圏の知識と、インドの仏教圏の知識は、なかなか混ざり合わずに離反するものでした。Oracle の神託は、欧米のキリスト教圏に広がっていたものですから、そう、あのトランプ詐欺師のおかげで、欧米圏はぐっと狭まってしまったのです。アラブ圏の反発や中国圏の一帯一路が広がってしまった現在としては、Oracle の神託クラウドも覇気がありませんでした。いつぞやの、保守費用で数十万の勢いもなかったのです。
Oracle 紳士は、NVIDIA さんに声をかけました。
「NVIDIA さん、GPU を売ってください。AI の知識を広めるには、GPU が必要なのです」
「ええ、そうではあるのですが、GPU が売れないのです」
OpenAI 君はどこにいったのでしょうか?
OpenAI 君は、Sora に散ってしまいました。あらゆる絵やあらゆる文章をため込むために OpenAI 君は貪欲に知識を吸収していきました。CG のため込みは著作権を上回るものでした。ひじょうに貪欲でした。貪欲のあまり、吐き出すものも大変なものでした。まるでまがつ神のように、あらゆるものを吐き出しました。著作権ありの動画や、著作権ありの絵画、アニメーションの特許侵害や、特許的な知識の流出。とにかく、貪欲でまぜこぜにため込んでしまったもので、消化しきれなくなってしまいます。しかも、お客の要求のままに吐き出すものですから、一部には熱狂的なファンに支えられているものですが、別のところでは総スカンを喰ってしまいます。
そして、あるとき、著作権の大御所デスティニーが怒り出しました。
「申告制なんてしったこっちゃないぜ」
OpenAI 君は、ついにアニメーションの神から鉄槌を下ってしまいました。あいにく、日本の漫画の神は天に召されていて、田中圭一のいたこ漫画に慣れていたので大丈夫だったのですが、米国のデスティニーは違います。破壊力が違います。なにせ、マルが三つあったらそれ「*ッキーですよね」と訴えてくるぐらい凄いのですから、デスティニーのキャラに似ていようなものなら大変な怒りになってしまうのです。激おこぷんぷん丸です。わからないですね。激怒です。実は、裏には任天堂やジブリも控えています。
そんな中で、OpenAI 君は最後のパーティを開いていたのですが、Sora に散ってしまいました。
NVIDIA, Oracle, OpenAI の三社連合は三社あるから成り立っているので、一社が散ってしまっては、そこでエコシステムはストップしてしまうのです。
NVIDIA さんは、GPU に電源を入れました。
「ああ、暖かい」
寒空の中に GPU のファンが廻り、NVIDIA さんは暖かくなりました。かつてはぶんぶんと言わせていた NVIDIA さんのファンも、いまや静かに回るだけです。電力がつき、少しずつファンの回転が遅くなっていきます。
Oracle 紳士は立ち去って行きました。再び、堅い保守契約を結ぶために、データベースの世界に戻って行ったのです。
冷えた NVIDIA さんは、静かに息を引き取りました。
教訓:著作権をなめてはいけません。
【完】
 




