自販機より、愛を込めて
真夏の太陽が、フライパンみたく町を焦がす。
夏休みだというのに子どもは家に籠もり、響くは蝉の大合唱。青空を席巻する入道雲も、これでもかと言うほど季節を主張してくる。
コンクリートだのアスファルトが熱を蓄え、外気の茹であがる午後の通学路。
僕が大学へ行くための、唯一の道だ。
――そこで、僕は自販機に出くわした。
「麦茶にする? ポカリにする? それとも……ワ・タ・ク・シ?」
この自販機、喋りよる。
ここ数週間ずっと、通りかかるたびに声をかけられているのだ。
何故かは分からない。どんな理屈で、この機械が意思を持って喋っているのかも。
「好きです! ワタクシはひと目見たときから、貴方様の虜なのです……!」
それもこの自販機、告白しよる。
猛暑日には似つかわしくない情熱的な言葉を、かれこれ数週間は聞かされている。
「さてさて、勉学に励む素敵なダーリン♡ 飲み物は如何でしょうか」
「ダーリン言うな。つかいらん、変なもん盛られてそうだし」
「……」
「おい何で黙ったよ」
「惚れ薬は、“変なもん”には入りますか?」
「おうドストレートだぞ」
「500円まででも駄目ですか?」
「遠足気分かお前は?! 駄目なもんは駄目だ」
と言いつつも、早く離れたいので財布を開ける。
「はぁ……今日だけだからな」
「はわぁ……! 有りがたきお言葉……自販機冥利に尽きます」
自販機冥利ってなんだ。
探してみたが、あー500円玉しか無い。
まぁこの際しょうがないかと投入口に入れると、飲み物のボタンが、赤く光る。
……おいランプで“LOVE”を描くな。情熱の赤で彩るな。
「はぁ……これでいっか」
上から2段目、点灯しているメロンソーダのボタンを押すと、存外普通に出て来た。
メロンソーダのイメージ写真がプリントされた、ごくごく普通の炭酸飲料だ。
ほうと胸を撫で下ろし、蓋を開ける。
舌が水分を求める衝動に身を任せ、勢いよく口の中へと流し込み、
「ぶふぅううううう!!」
噴き出る炭酸。咽る僕。
それから、期待と興奮を表現するかのようにボタンを点滅させまくる自販機。
「げほ、ごほっ! 超あったかいんだけどこれ!? ほっかほかなんだけど?!」
「はい、懐で温めておきましたので」
「何してくれてんの?!」
「これが真心です」
「ポンコツ自販機め!!」
期待していた喉越しを返せ。
「ポンコツではありませんよ? ワタクシ、赤いランプをちゃんと点けてましたから」
「じゃあ僕が悪いのかよぉ!!」
「ポンコツな貴方様もス・テ・キ♡」
「お前にだけは言われたくなかった……」
ツッコんでたら、身体が熱くなってきた。
滲む汗を腕で拭い、温かいソーダを飲み干した。
「明日も待ってますよ♡」
「この道を通らずに大学に行けたら、どれほど良かったか……」
真夏の自販機は、兎にも角にもおアツイことだ。
大学のある方角に、つま先を向けて歩き出す。
「……味は良いんだけどなぁ」
歩きながら、あくまで聞こえないように呟く。
あっという間に空になった缶を持ち上げると、ふと側面の文字に気づいた。
「なんだかなぁ」
綴られた言の葉に、思わず顔が綻んでしまった。
“お身体に気をつけてくださいね
自販機より、愛を込めて”




