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自販機より、愛を込めて

作者: わた氏
掲載日:2025/09/21

 真夏の太陽が、フライパンみたく町を焦がす。

 夏休みだというのに子どもは家に籠もり、響くは蝉の大合唱。青空を席巻する入道雲も、これでもかと言うほど季節を主張してくる。


 コンクリートだのアスファルトが熱を蓄え、外気の茹であがる午後の通学路。

 僕が大学へ行くための、唯一の道だ。




 ――そこで、僕は自販機に出くわした。


「麦茶にする? ポカリにする? それとも……ワ・タ・ク・シ?」


 この自販機、喋りよる。

 ここ数週間ずっと、通りかかるたびに声をかけられているのだ。

 何故かは分からない。どんな理屈で、この機械が意思を持って喋っているのかも。


「好きです! ワタクシはひと目見たときから、貴方様の虜なのです……!」


 それもこの自販機、告白しよる。

 猛暑日には似つかわしくない情熱的な言葉を、かれこれ数週間は聞かされている。


「さてさて、勉学に励む素敵なダーリン♡ 飲み物は如何でしょうか」

「ダーリン言うな。つかいらん、変なもん盛られてそうだし」

「……」

「おい何で黙ったよ」

「惚れ薬は、“変なもん”には入りますか?」

「おうドストレートだぞ」

「500円まででも駄目ですか?」

「遠足気分かお前は?! 駄目なもんは駄目だ」


 と言いつつも、早く離れたいので財布を開ける。


「はぁ……今日だけだからな」

「はわぁ……! 有りがたきお言葉……自販機冥利に尽きます」


 自販機冥利ってなんだ。


 探してみたが、あー500円玉しか無い。

 まぁこの際しょうがないかと投入口に入れると、飲み物のボタンが、赤く光る。

 ……おいランプで“LOVE”を描くな。情熱の赤で彩るな。


「はぁ……これでいっか」


 上から2段目、点灯しているメロンソーダのボタンを押すと、存外普通に出て来た。

 メロンソーダのイメージ写真がプリントされた、ごくごく普通の炭酸飲料だ。

 ほうと胸を撫で下ろし、蓋を開ける。

 舌が水分を求める衝動に身を任せ、勢いよく口の中へと流し込み、


「ぶふぅううううう!!」


 噴き出る炭酸。(むせ)る僕。

 それから、期待と興奮を表現するかのようにボタンを点滅させまくる自販機。


「げほ、ごほっ! 超あったかいんだけどこれ!? ほっかほかなんだけど?!」

「はい、懐で温めておきましたので」

「何してくれてんの?!」

「これが真心です」

「ポンコツ自販機め!!」


 期待していた喉越しを返せ。


「ポンコツではありませんよ? ワタクシ、赤いランプをちゃんと点けてましたから」

「じゃあ僕が悪いのかよぉ!!」

「ポンコツな貴方様もス・テ・キ♡」

「お前にだけは言われたくなかった……」


 ツッコんでたら、身体が熱くなってきた。

 滲む汗を腕で拭い、温かいソーダを飲み干した。


「明日も待ってますよ♡」

「この道を通らずに大学に行けたら、どれほど良かったか……」


 真夏の自販機は、兎にも角にもおアツイことだ。

 大学のある方角に、つま先を向けて歩き出す。


「……味は良いんだけどなぁ」


 歩きながら、あくまで聞こえないように呟く。

 あっという間に空になった缶を持ち上げると、ふと側面の文字に気づいた。


「なんだかなぁ」


 綴られた言の葉に、思わず顔が綻んでしまった。




 “お身体に気をつけてくださいね

 自販機より、愛を込めて”


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