表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

第8話:最強の盾を求めて

鉄甲蟲を打ち破り、『硬質化』と『貫通強化』という新たな牙を手に入れた俺は、興奮冷めやらぬまま岩場地帯に佇んでいた。


(フフフ……。最強の矛は手に入れた。だが、これだけじゃ足りない)


俺は冷静に自らのステータスを分析する。

奴の舌の一撃は、HPの半分を削り取る威力だった。攻撃は最大の防御、とは言うが、そのリスクを減らすには、やはり防御面の強化が不可欠。


(最強の矛には、最強の盾が必要ってわけだ。RPGの基本だよな!)


《まったく、あんたも懲りないね。まあ、その慎重さはいいことだけど》


アリアが呆れ半分、感心半分といった口調で思考に語りかける。


《それなら、この岩場地帯のさらに奥、山の斜面に巣を作ってる魔物がいるよ。『岩亀ロックタートル』。名前の通り、岩のような甲羅を持つ巨大な亀だね。鉄甲蟲が“硬さ”なら、こっちは衝撃を吸収する“靭やかさ”と“重さ”を兼ね備えた防御特化型。あんたの盾にするには、もってこいの素材じゃない?》


岩亀ロックタートル。いいじゃないか。そいつの甲羅を俺のボディに組み込んで、鉄壁のディフェンスを手に入れてやる。

俺は再びアリアのナビゲートを頼りに、山の斜面を目指した。道中、いくつかの魔物を狩り、さらに力をつけていた。

山の斜面を登ると、洞窟の前に、小山ほどの大きさの、苔むした巨大な岩が鎮座していた。

いや、岩じゃない。のっそりと、その岩から巨大な頭と四肢が突き出てきた。


(デカい……。こいつは質量が段違いだぞ……)


俺はまず、『硬質化』した鉤爪で、その甲羅の強度を試すことにした。

渾身の一撃を叩き込む。


ガギィィィンッ!!


凄まじい衝撃が腕に走り、俺の身体が弾き飛ばされた。

甲羅にはわずかな傷がついただけで、しかもその傷すらも、じわじわと自己修復しているように見える。


(硬いだけじゃない! 衝撃を吸収して、さらに再生能力まであるのかよ!?)


まさに天然の要塞。鉄壁とはこのことだ。

俺の攻撃に、岩亀はようやく反応し、首を甲羅の中に引っ込めた。そして、次の瞬間。


ゴゴゴゴゴ……!

甲羅が高速で回転を始めた!


(なんだありゃ!? コマみたいに回り出したぞ!)


《岩亀の必殺技、『ローリングスマッシュ』だよ! あの状態で突っ込んでこられたら、岩盤ごと削り取られる! 避けな!》


アリアの警告と同時に、回転する巨大な岩塊が、俺めがけて突進してきた。

俺は必死に回避する。岩亀が通り過ぎた後の地面は、見るも無残に抉り取られていた。


(危ねぇ! あんなの食らったら、ペラッペラの紙スライムになっちまうぜ!)


(……詰んでないか、これ?)

弱点が見当たらない。鉄甲蟲の時のように、ひっくり返すのは不可能だ。

酸で溶かすのも日が暮れるだろう。関節を狙おうにも、甲羅に引っ込んだら手も足も出ない。


すると、岩亀は俺を無視するかのように、近くの崖に生えている、キラキラと光る鉱石を食べ始めた。


(待てよ……。あいつ、鉱石を食ってるな。もしかして、あの甲羅の硬さの源は……?)


俺はスキル『影潜み』で気配を消し、同じ鉱石を手に取り、その一部を『捕食吸収』してみた。

ひんやりとしたエネルギーと共に、鉱物の組成情報が俺の身体に流れ込んでくる。


《【特殊な魔力鉱物を吸収しました。MPが10回復しました】》

《【条件を満たしました。スキル『鉱物知識 LV.1』を獲得しました】》


(お、新スキルゲット! 『鉱物知識』?)


これだ!

俺は、このスキルこそが岩亀攻略の鍵だと直感した。

スキルを発動させ、再び岩亀の甲羅を見る。すると、俺の単眼に、これまで見えなかった情報が浮かび上がってきた。

――この亀が食している鉱物は、甲羅の表面を強化する魔力を多く含んでいる。だが、その反面、魔力伝導率が均一ではない。強化された部分と、そうでない部分にムラが生じている。

――甲羅の中央やや後方の一点。そこが、他の部分に比べて著しく魔力伝導率が低い。構造上の『歪み』。弱点ウィークポイントだ。


(……見えた! 俺にも見えるぞ、ララァ!)


まさに、天啓。


問題は、どうやってその一点を正確に、そして強力に攻撃するかだ。

俺は自分のスキル一覧を眺め、ある組み合わせに思い至った。

『硬質化』と『貫通強化』で最強の矛と化し爪に、『酸分泌』を纏わせる。

金属すら溶かす酸を、最強のドリルにコーティングしたら、どうなる?


(やるしかねえ!)


俺は再び岩亀の前に姿を現し、挑発する。岩亀は再び甲羅に籠り、『ローリングスマッシュ』を放ってきた。

俺は回避しない。真っ向から、迎え撃つ!


右腕に全神経を集中させる。『硬質化』! 『酸分泌』!

そして、『鉱物知識』で見抜いた、一点の弱点。

突進してくる巨大な回転甲羅。すれ違う、その一瞬。

俺は身体を捻り、全スキルを込めた右腕を、槍のように突き出した。


(一点突破ァ!! この一撃に俺のスライムすべてを懸ける!)


俺の酸を纏った爪が、回転する甲羅の弱点に、吸い込まれるように突き刺さった。

――ギィィィィィィンッ!

けたたましい金属音と、甲羅が軋む嫌な音。酸が鉱物の層を溶かし、硬化した爪がその亀裂をこじ開ける。


ドッゴオオオオオンッ!

やがて、岩亀の回転が止まり、甲羅全体が砕け散った。

強固な鎧を失った岩亀の首を、俺は容赦なく鉤爪で刎ね飛ばした。


《【スキル『自己修復』のレベルが3に上がりました】》

《【対象の特性を解析完了。スキル『甲殻生成 LV.1』を獲得しました】》

《【対象の構造を解析完了。パッシブスキル『衝撃耐性 LV.1』を獲得しました】》


最強の盾も、手に入れた。

俺は湿地帯の方角を、再び見据える。

(矛も盾も揃ったぜ、大王様。今度こそ、お前を喰らい尽くしてやる)


復讐の準備は、整った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ