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第7話:鋼鉄のプライドを砕け

大王酸弾蛙にコテンパンにのされ、這う這うの体で逃げ帰ってから数時間。俺はアリアのナビゲートに従い、湿地帯の北に広がる岩場地帯に到着していた。


(しかし、まあ、見事に負けたもんだ……。捨て台詞だけは一丁前だったけど、完全に負け犬の遠吠えだったな)


俺は自分の鉤爪を見つめながら、自嘲気味に息を吐く。あの蛙の、俺を見下すような目。思い出すだけで、黒曜石の身体の奥がズキリと痛む。だが、この悔しさが今の俺のガソリンだ。


《うじうじしてないで、さっさと獲物探しなよ。カッチカチの魔物を喰らって、その硬さを自分のものにするんでしょ?》


(分かってるって。その名も『鉄甲蟲アイアンビートル』だろ? 俺の爪を最強のドリルにするための、最高の素材じゃねえか)


しばらく岩場を進むと、前方に巨大な金属の塊のようなものを発見した。

体長は3メートルほど。カブトムシに似たフォルムだが、その全身は鈍い銀色に輝いている。


(うわ、マジで鉄じゃん。あんなの喰えるのかよ。歯が立たないってレベルじゃねえぞ……)


俺は岩陰に身を潜め、観察を続ける。

動きは鈍重だが、一挙手一投足に凄まじい重量感が伴っている。

俺は意を決して影から飛び出し、挨拶代わりとばかりに鉤爪を叩きつけた。


キィィィィンッ!


金属同士が擦れ合うような耳障りな音。俺の腕に返ってきたのは、痺れるような衝撃。

そして、鉄甲蟲の側面には、うっすらと白い線が一本入っただけ。傷? いや、これはただの擦り傷だ。


(マジかよ……)


愕然とする俺に、鉄甲蟲がようやく気づいた。

蒸気機関車のような咆哮と共に、突進してくる。

俺は紙一重でかわし続けるが、防戦一方だ。


(こいつ、攻撃が単調なのが救いだけど、一発でも食らったら即死コースだぞ……!)


一旦距離を取り、作戦を練り直す。

物理攻撃がダメなら、『酸分泌』だ。

俺は鉄甲蟲の背中に飛び乗り、酸を滲ませる。ジュウウウッ!と音を立てて白煙が上がった。

だが、煙が晴れた後、甲殻の表面はわずかに変色しただけ。この分厚い装甲を溶かしきる前に、振り落とされて踏み潰されるのがオチだろう。


(くそっ、酸もダメか! どうすりゃいいんだよ!)


正面からぶつかってダメなら、やり方を変えればいい。

どんなに硬い鎧にも、必ず「隙間」はあるはず。関節、目、口……あるいは。

俺の単眼が、ある一点を捉えた。鉄甲蟲が方向転換する際、わずかに見える腹部の甲殻。明らかに薄そうだ。


(……ひっくり返すしかない)


だが、どうやって?

ならば、奴自身の力を利用するしかない。俺はニヤリと、顔のない顔で笑った。

作戦名は、『カブトムシ、ひっくり返して土下座させちゃる大作戦』だ!


(おい、鉄クズ野郎! こっちだぜ、トロいんだよ!)


俺は鉄甲蟲の目の前で挑発するように動き回り、奴のヘイトを自分へと向けさせる。

俺の背後には、巨大な岩壁がある。

凄まじい圧迫感が迫る。激突の直前。

俺は地面を蹴り、真上へ跳んだ。


ゴッッッ!!!


地響きと共に、鉄甲蟲が岩壁に激突。その勢いでバランスを崩し――仰向けにひっくり返った。

ジタバタと、金属の脚が空しく空を切っている。


(っしゃあ! 思惑通り!)


千載一遇のチャンス。俺は即座に鉄甲蟲の腹部に飛び乗り、装甲が比較的薄い関節の隙間に、ありったけの力を込めて鉤爪を突き立てた。

ブスリ! と、今までにない確かな手応え。

だが、それだけでは倒せない。

俺は爪を突き立てたまま、傷口から、スキル『捕食吸収』を直接流し込む!


(内側からなら、関係ないだろぉ!)


外側がダメなら内側から攻める! 恋も戦いもインナーマッスルからって言うだろ! 言わないか!


――ギシャアアアアアアアッッ!


鉄甲蟲が、絶叫を上げる。外からの攻撃には無敵を誇ったその巨体が、内側からの侵食にはなすすべもなかった。

やがて完全に動きを止めた。


《【スキル『捕食吸収』の熟練度が上昇しました】》

《【対象の特性を解析完了。スキル『硬質化 LV.1』を獲得しました】》

《【対象の構造を解析完了。パッシブスキル『貫通強化 LV.1』を獲得しました】》


脳内に、勝利のファンファーレが鳴り響く。

これだ。俺が求めていた力。大王酸弾蛙の分厚い皮膚を貫くための、『矛』。


俺はスキル『硬質化』を発動させてみた。右腕の鉤爪が、ギィン!という金属音と共に、さらに鋭く、鈍い銀色に輝く刃へと変貌する。

その爪で近くの岩を軽く引っ掻くと、いともたやすく深い傷が刻まれた。


俺は湿地帯の方角を向き、顔のない顔に獰猛な笑みを浮かべた。

(待ってろよ、カエル野郎。次は、お前のそのふざけたツラに、風穴開けてやるからな!)


リベンジへの道筋は、確実に見えた。俺の進化は、まだ始まったばかりだ。

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