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第九章 今さら助けてくれてと言われても困ります

 バナージから招待を受けたあと、フィーヌはかれらをギャフンと言わせるための下準備を始めた。

 

「ねえ、ヴァル。ダイナー領で埋蔵量が少ない金鉱山はどこかしら?」

「うーん。こことここのあたりかな」


 ヴァルは腕を組んで、フィーヌの広げた地図を指さす。


「じゃあ、逆に埋蔵量が多いところは?」

「それはここ。断トツだよ」


 ヴァルは迷うことなく一点を指さす。

 それはダイナー公爵領でも特に辺鄙で〝何もない場所〟という言葉がぴったりの場所だった。


「フィーヌ、何を企んでるんだ?」


 ヴァルは興味津々の様子で目を輝かせる。

 

「まあ、ヴァル。企んでるだなんて人聞きが悪いわ。ただ、バナージ様からお屋敷に招待されたから、金鉱脈を教えてほしいって言われると思って」

「ふーん。じゃあ、ここを教えるといいよ。半年くらいで掘りつくすと思うけど」


 ヴァルは先ほど教えてくれた、埋蔵量の一番少ない場所──リリト金山とナルト金山の中間地点を指さした。

 

「ありがとう、助かるわ」


 フィーヌはころころと楽しげに笑う。


「随分楽しそうだな、フィーヌ」


 背後から低く落ち着いた声が聞こえ、フィーヌはハッとした。振り返ると、そこにはホークがいた。


「ホーク様! 休憩ですか?」

「ああ。フィーヌの顔を見にきた」


 ホークは体を屈めると、座っているフィーヌの額にチュッとキスをする。フィーヌは表情を和らげた。

 

「ヴァルと作戦会議をしていたのです。どうやってバナージ様とレイナを懲らしめようかって」

「それは楽しそうな会議だな。俺もそれに参加しても?」

「もちろんです」


 フィーヌは頷く。


「ダイナー公爵家について調べたところ、最近シートという地域の土地について調べまわっているらしい」

「土地を?」

「シートというのはヴィットーレの西海岸に位置する田舎町だ。調査した部下によると、透き通った海と真っ白な砂が続く美しい海岸があるらしい」


 それを聞いて、ピンときた。

 

「もしかして……。ロバートがここに来た頃に、バナージ様はリゾート開発に興味をもっていると言っていたんです。金鉱石の採掘で得た収益をそれに出資してしまうので必要な経費のやりくりすら大変だったと、以前聞いたことがあります。そのリゾート地がシートなのかもしれません」

「なるほど」


 ホークは腕を組む。

 

「それは使えるかもしれない。シートはリバーゼ子爵領か。早速遣いを出すとしよう」


 ホークはにやっと笑った。

 

 

   ◇ ◇ ◇


 

【ヴィラ歴423年9月】  

 

 バナージからの招待を受けた一月後、フィーヌとホークは王都へと向かった。

 夕方頃にダイナー公爵邸に到着したフィーヌは、馬車を降りて周囲を見回す。


(庭園が荒れているわね)


 よく見ると植木にツタが絡まっているし、雑草も生えている。

 貴族の邸宅において、庭園を始めとする屋敷の管理は女主人の仕事だ。つまり、このように庭園が荒れているのはレイナの管理が行き届いていないことを意味する。


「お待ちしておりました。ご案内します」


 フィーヌ達を出迎えたダイナー公爵家の家令は、初めて会う中年の男性だった。彼はフィーヌとホークをダイニングルームに案内した。


「こちらで少々お待ちください」


 家令は一礼すると部屋を出て行く。入れ替わるようにメイドが入室し、ウェルカムドリンクを出してきた。


(屋敷の使用人がだいぶ入れ替わったのね)


 先ほどの家令に引き続き、お茶を持ってきたメイドもフィーヌの知らない女性だった。フィーヌがバナージと婚約破棄してからまだ数年しか経っていないのに、知っている使用人を全く見かけない。


「待たせたな」


 バシンとドアが開き、入ってきたのはバナージとレイナだった。バナージは最後に会ったときよりも少し太ったようで、顔が丸くなっている。レイナはまるでこのままパーティーに行くのではないかと思うような、華やかなドレスを着ていた。


「久しぶりね、お姉様。ロサイダー領ではそういうドレスが流行っているの? こっちではあまり見かけないわ」


 レイナはフィーヌを見つめ、ふっと口元に笑みを浮かべる。

 フィーヌはレイナを無言で見返した。

 

(開口一番にドレスがダサいと暗に言うあたり、相変わらずいい性格しているわ。でも、こうこなくっちゃつまらないわ)

 

 けれど、ある意味ホッとした。

 万が一レイナがこれまでのフィーヌに対する数々の行いを心から反省して涙ながらに謝罪してきたら、フィーヌはここに来たことを後悔したはずだ。

 けれどこれなら、フィーヌも心置きなく戦うことができる。

 

「ご招待ありがとうございます、ダイナー卿、レイナ」

 

 フィーヌはレイナの嫌味を聞き流すと、にこっと微笑む。

 レイナはフィーヌがほとんど反応を示さないので面白くなさそうな顔をしたが、フィーヌは気づかないふりをしてやり過ごした。


「遠いところ、悪かったな。金鉱脈が見つかった件について、是非直接礼を言いたいと思ってな。公爵家と辺境伯家、お互い高位貴族同士仲よくやっていこうじゃないか」


 バナージはフィーヌとホークの正面にどさりと座る、レイナはその隣に座った。



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ギャフン(≧▽≦)!! 久々に見て刺さりました♪ ざまぁから〜のギャフン!!((o(´∀`)o))ワクワク
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