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(2)

「ああ、くそっ!」


 バナージは頭を掻きむしる。

 本当に、なにもかもが上手くいかない。


(こんなはずじゃなかった。どうすれば……)


 事業がうまくいっていたときに重用していた人材はバナージのしようとすることにいちいち諫言してきたので、煩わしく思ってほとんどを解雇してしまっていた。呼び戻せば上手くいくだろうかと考え、ふと脳裏に父の代からダイナー公爵家の鉱山開発の管理人をしていた男が言った言葉がよぎる。


『そうは言われましても、金鉱脈はフィーヌ様が神恵で──』


 その管理人──ロバートは確かにフィーヌの神恵が関与しているようなことを言っていた。

 あのときは金鉱脈を上手く捜し出せないことへの言い訳で言っているだけだと思っていた。しかし、本当にフィーヌが関係しているとしたら?


(もしかして、本当にフィーヌの力のおかげなのか? そういえば……)

 

 フィーヌが嫁いだあとにロサイダー領でダイヤモンド鉱山がみつかり、その利権を国王に献上したため話題になっていたことを思い出す。

 偶然の一致にも見えるが、タイミングがぴったり合っている。

 

「よし。フィーヌに手紙を書いてみるか。あいつは俺に惚れていたから、喜んですぐに駆けつけてくるはずだ」


 少し優しくすれば、必ず自分の思い通りになるはず。

 そう確信したバナージは口元に笑みを浮かべ、早速ペンを手に取った。


 

  ◇ ◇ ◇

 


 昼下がりのロサイダー領。

 フィーヌの私室では、ホークとフィーヌがお茶を楽しみながら夫婦水入らずの時間を過ごしていた。


「リリーなんだが、ずいぶんときみに懐いている。もしよかったら、きみの馬にどうかと思ったんだ」

「まあ、リリーをわたくしに? 嬉しいです」


 ホークの提案に、フィーヌは笑みを零す。

 リリーとはシェリーが産んだ牝馬で、今はまだ生後一カ月だ。


 誤解が解けたあとホークに連れられたフィーヌがシェリーの馬小屋を訪ねて初めて出会った日から、フィーヌはその可愛らしさの虜になって足しげく彼らのもとに通うようになった。

 そのおかげもあって、リリーはフィーヌにとても懐いているのだ。


「まだ仔馬だが、一年もすれば乗馬の訓練ができるようになる」

「はい、楽しみです。それまでに、わたくしもひとりで乗馬できるように練習しないと」


 フィーヌはこれまで、移動には馬車を使っていた。

 けれど、馬に乗れるようになったら移動できる範囲が格段に増える。リリーに乗って、好きな場所を縦横無尽に走ったらさぞかし気持ちがいいだろうと、今からわくわくした。


「乗馬を指導できる者を手配してやるから少し待ってくれ。それまでは、俺が教えよう」

「騎士団の乗馬指導員ではだめなのですか?」


 フィーヌは不思議に思って聞き返す。

 ロサイダー領には多くの軍人がおり、当然騎馬隊も整備されている。騎馬隊は優れた馬術を身に付けておく必要があるため、彼らを指導する指導員が常駐しているのだ。


「だめだ」


 ホークははっきりと言い切る。


(騎馬隊の馬術指導に当たる時間を奪われてしまうからかしら)


 たしかに彼らの本業はそれなのだから、馬に乗って戦うことのないフィーヌの馬術指導より優先されて当然だ。

 しかし、ホークが言った理由はフィーヌの予想していないものだった。


「馬術を指導するためには、どうしても体に直接触れる必要がある。フィーヌに触れていい男は、俺だけだろう?」

「え?」


 フィーヌは驚いて、ホークを見返す。


「約束してくれ。きみの体に触れるのを許されるのは俺だけだと」


 まっすぐにフィーヌを見つめるホークはその目を逸らさないままフィーヌの手を取り、そこに唇を寄せた。


(な、なんか……)


 こんなに独占欲の強い人だったのかと、困惑する。

 両想いになってから愛情表現を隠さないようになったホークの態度に、フィーヌは時々どぎまぎしてしまうのだ。

 けれど、愛されているからこそだと思えば不快感は一切なかった。

 

 そのとき、ノックする音がしてカチャッとドアが開く。

 どきっとしたフィーヌが慌てて手を引くのと同時に入ってきたのは、アンナだった。


「奥様。本日届いたお手紙はこちらに置いておきますね」

「ありがとう。……どなたから届いているか教えてくれる?」 

「もちろんです。えーっと、これはポンパドール夫人、次はミエル夫人……」


 アンナは手紙の差出人を順番に読み上げていく。


「あとこれは……ダイナー公爵ですね」

「ダイナー公爵?」



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