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(4)


 そのときだ。どんどんとドアを叩く音がした。

 ホークはハッとして、ネックレスを入れている小箱を閉めるとそれをポケットにしまう。


「何事だ?」

「旦那様、アンナでございます」


 ドアを開けると、そこには真っ青な顔をしたアンナが立っていた。

 

「そんなに慌てて何があった?」

「奥さまが……」

「フィーヌがどうかしたのか?」

「奥さまがいなくなりました!」


 ホークは眉根を寄せる。


「いなくなったとは、どういう意味だ? 散歩でもしているわけではなくて?」


 アンナの様子からそういうことではないと察したが、ホークは自分を落ち着かせるために努めて平静を装って聞き返す。


「それが、こんなものが……」


 アンナが震える手で差し出した封筒をホークは受け取る。そこには、美しい文字で「ホーク様へ」と書かれていた。

 間違いなく、フィーヌの文字だった。

 見間違えるはずはない。彼女が作った書類や資料に何十回、何百回と目を通したのだから。


 ホークは焦る気持ちを必死に抑え、封筒を開く。


ーーー

 

 ホーク様


 あなたと過ごした二年間、とても幸せでした。

 こんなわたくしを大切にしてくださったこと、本当に感謝しております。

 これからはどうか、愛する人との時間をお過ごしください。

 遠く離れても、あなたの幸せを祈っております。

 ロサイダー領に恵みの大地が広がりますように。


 フィーヌ


 ーーーー

 

 

 手紙には離縁申請書が同封されていた。

 フィーヌの欄には既にサインが入っており、あとはホークがサインして提出するだけの状態のものだ。


「愛する人だと?」

 

 ホークはその離縁申請書をぐしゃりと握りつぶす。


「俺が愛しているのはきみだけなのに、どういうつもりだ?」


 ホークは自分の腕に刻まれたフィーヌとの誓約の紋章を見る。


(今のところ、異常はない……)

 

 誓約はどちらかが破ればそこで効力を失い、破った側には呪いが降りかかる。

 約束の二年の最終日、つまり今日の夜までは効力があるはずなのに呪いが発動していないということは、フィーヌは裏切ったわけではなく真心からこの馬鹿げた行為をしたということだ。


(まさか俺に愛人がいると思い込んで、自分から身を引いたのか?)

  

 とにかく、フィーヌがなにか重大な勘違いをしていることは理解した。


「旦那様。どうしましょう……」


 おろおろしたアンナは震える声でホークに問いかける。


「無論、追いかけて連れ戻す。アンナは引き続き、屋敷の中にフィーヌがいないか探してくれ」

「かしこまりました」


 アンナはこくこくと頷くと、すぐに思い当たる場所を再度確認に行く。


 部屋にひとりになったホークは、天井を仰ぐ。


(まさか、何も言わずに出て行くとは)


 最初から最後まで、予想を超える行動をしてくる。

 

(だが、ロサイダー家の家訓は『敵は徹底的に叩き潰せ。望むものは手段を選ばず奪い取れ』だ。そしてフィーヌ。今俺が心から欲しているのは、お前自身だ)


 あらゆる手段を使ってでも捜し出して見せる。

 そう決意したホークはすぐに、カールを始めとする特に信頼のおける部下達を呼び出した。


「フィーヌがいなくなった」


 ホークの言葉に、その場に集まった部下達は皆凍り付く。

 

「すぐに探しに行く。女ひとり、馬もなしにいける範囲は限られる」

「はい」


 部下達は一斉に返事すると、各々が周辺地域を探しに行く。ホーク自身もフィーヌを探しに町に出た。


 すぐに見つかると思っていたのになかなか見つからないことに、だんだんと焦りが募る。


(まさか、誰かに連れ去られたんじゃ……)


 嫌な想像が頭をよぎり、背筋が冷たくなる。

 そのとき、ふと通りを横切る子供の姿が目に入った。足を怪我しているのか、膝にハンカチを巻いている。

 刺繍されたそのハンカチに見覚えがあり、ホークははっとする。


「おいっ!」


 突然声をかけられた子供はホークを見てびくっと肩を震わせた。


「そのハンカチは誰に貰った?」


 サクランボの刺繍がされたハンカチは、フィーヌのものだ。

 

「親切なお姉ちゃんにもらった。転んだら、助けてくれたの」

「いつ、どこでだ?」

「今日のお昼ごろ、噴水広場の前だよ」

「噴水広場だと?」


 噴水広場は名前の通り、噴水の周りにある広場のことで、ロサイダー領の人々の憩いの場になっている。


(噴水広場は確か──)


 そこまで考えたときに「閣下!」と呼び声がした。



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