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◇ ◇ ◇
王都に滞在する最終日、フィーヌとホークは一緒に出掛けることにした。
王都には滅多に来ないので、せっかくなので町散策をしようと思ったのだ。フィーヌは長年通いなれた大通りを、ホークに案内する。
ふと、大通り沿いにある雑貨屋に置かれたハンカチが目に留まった。
「これ、可愛いですね」
フィーヌが手に取ったのは、様々なお花のワンポイント刺繍が入ったハンカチだった。ひまわりやバラ、パンジーもある。
「屋敷にいる使用人達にお土産に買ってきてもいいですか?」
「もちろん」
ホークが頷くと、フィーヌは十枚ハンカチを選ぶ。
「ずいぶんたくさん買うのだな」
「はい。皆がどの柄が好きかわからないので、全種類買おうと思います。余ったものはわたくしが使えばいいので」
フィーヌは笑顔で頷く。
そして、今度は少し歩いた先にある文房具屋が目に留まった。
「ここの文房具屋さんは最新の万年筆が色々取り揃えてあるんです。お父様もここのものを愛用していました」
「へえ」
「閣下も一本使ってみませんか? プレゼントします」
フィーヌはホークに微笑みかける。
普段、フィーヌはホークから色々なものを与えられているけれど、フィーヌからホークにプレゼントすることはない。
日頃の感謝を込めて、何かプレゼントしたいと思ったのだ。
「では、選んでくれるか?」
「もちろんです」
フィーヌはショーウインドウに並ぶ万年筆を眺める。
どれにするか散々迷ってから、青と黒を基調としたボディの万年筆を彼にプレゼントした。
「ありがとう。フィーヌからプレゼントをもらうのは初めてだな」
「どういたしまして。使っていただけたら嬉しいです」
フィーヌは笑顔を見せる。
「きみがくれたと思うと、仕事がはかどりそうだ」
「……そうですか」
ホークがとても嬉しそうに笑うので、フィーヌはドキッとする。
(最近、どうしてこんなにドキドキするんだろう)
ホークと一緒に時間を過ごしていると、いつの頃からか胸がドキドキするようになった。
この気持ちに本当は気づいているけれど、フィーヌは気づかないふりをする。
「ここはフィーヌの思い出の地なのだな」
「言われてみればそうかもしれません。子供の頃、両親とこの通りを歩くのが大好きでした。今日は何を買ってくれるだろうって」
「なるほど。さぞかわいい子供だっただろうな」
ホークは屈託なく笑う。
「閣下にも、どこか思い出の地はありますか?」
フィーヌはふと興味を覚えて、ホークに聞き返す。
「俺か? そうだな……領地にあるレイクタウンという場所は美しい湖があって、家族で何度か訪問した」
「へえ」
「そのうち、一緒に行くか?」
「はい、是非」
フィーヌは頷く。ホークの思い出の地を、自分も見てみたい気がした。




