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第五章 フィーヌの神恵(1)

【ヴィラ歴421年12月】


 フィーヌがヴァルの力を借りてロサイダー領の土壌を改良してから二カ月が経ち、屋敷のそこかしこに植えた苗はしっかりと根付き、花を付け始めていた。


「パンジーを選んだのは正解だったわ。こんなに早く花が咲くのを見られるなんて」


 屋敷の周りを散歩しながら、フィーヌは顔をほころばせる。

 ほんのちょっとの差なのだけれど、花があるのとないのでは散歩しているときの心の潤いが違う。


「おーい、フィーヌ!」


 ふと呼び声がしてフィーヌは振り返る。そこには、ヴァルがいた。


「あら、ヴァル。ねえ見て。ヴァルのおかげでこんなに奇麗に花が咲いたわ」

「フィーヌのためならお安い御用さ」


 ヴァルは得意げだ。


「ところで、今日はどうしたの?」

「前に言ってた金鉱山、そろそろ採れなくなってきてるぜ」

「ダイナー公爵領のリリト金山?」

「それそれ」


 ヴァルは頷く。

 バナージの婚約者として過ごしている期間、フィーヌは定期的にヴァルに頼んでどこに金鉱山があるか、あとどれくらいで枯渇するかを教えてもらい、その情報をダイナー公爵家の鉱山管理をしている管理人に伝えていた。


「そう。たしか、他の金鉱脈は上部の地盤を硬くしてなかなか掘り当てられないようにしたのよね?」

「ああ。ばっちりだぞ」

「ありがとう」

「あいつら、今になってフィーヌの力に気付いて泣きついてきても、オイラが許さないぞ」

「ふふっ、そうね」


 フィーヌはくすくすと笑う。

 金鉱山の権益収入はダイナー公爵家の収入の多くを占める。それが枯渇するとなると、相当のダメージを受けることは免れないだろう。


(そういえば、ロサイダー領には金鉱脈はないのかしら?)


 もし見つけることができれば、ロサイダー領に大きな利益をもたらすことができるだろう。


「ねえ、ヴァル。ロサイダー領に金鉱脈はないの?」

「ロサイダー領? うーん、ないな」


 ヴァルはあっさりと答える。


「そう。残念だわ」


 フィーヌはがっかりして、眉尻を下げた。

 領地は広いのでもしかしたらと思ったのだが、空振りだったようだ。


「でも、他の鉱山ならいくつかあるぞ」

「他の鉱山? なんの鉱山かしら?」

「うーん。ちょっくら採ってきてやるよ」


 ヴァルはそう言うと、忽然と姿を消す。暫くすると、また前触れなく現れて大小さまざまな石をフィーヌの前に置いた。


「たくさん採れそうなのはこのくらいかな」

「ありがとう。たくさん種類があるのね」


 フィーヌはしゃがみ込み、ヴァルが持ってきてくれた石を順番に手に取る。

 それぞれ少しずつ色や形が違うのは、含まれている成分が異なるからだろう。


(これを見ただけじゃ、わたくしの知識ではなんの鉱石なのかわからないわ)


 フィーヌはじっと石を見つめる。金鉱石ならリリト金山で採れたものを何回も見たことがあるのだが、今目の前に置かれた鉱石はどれも違うものに見えた。


(ホーク様に頼めば、何の鉱石かは調べられるかしら? でも、そのあとが問題ね)

 

 ロサイダー領には今現在、鉱山がないので鉱山開発に知見がある人間はいない。鉱山開発をするにあたっては、専門家の知識を借りたかった。


(ダイナー公爵家の金鉱山がもうすぐ枯渇するって言っていたわね。なら、彼に頼めば──)


 フィーヌはヴァルが持ってきた小石を拾い集めると、すっくと立ちあがる。


「フィーヌ、どこに行くんだ?」

「急用を思い出したの。ヴァル、とっても助かったわ。ありがとう!」

「お安いごようだぞ」


 ヴァルは得意げに胸をどんと叩いた。

 


 フィーヌはその足でホークの執務室に向かった。

 トントントンとノックをすると、「入れ」と低い声がする。部屋の中にはホークともうひとり──彼の側近のカールがいた。


「取り込み中でしたら改めます」


 何か打ち合わせをしていたのだと判断したフィーヌは一旦部屋に戻ろうとした。しかし、それを止めたのはホークだ。


「いや、大丈夫だ。きみが日中俺の執務室を訪ねてくるなんて珍しいな。どうした?」

「閣下に相談したいことがあったもので」

「俺に相談?」


 すると、気を利かせたカールが「では、少ししてからまた参ります」と言って立ち上がる。

 フィーヌは代わりに、カールが今座っていた場所に座った。

 

「このような格好で失礼します。閣下」


 フィーヌはまずは謝罪する。フィーヌは今、両手いっぱいに鉱石を抱えてお世辞にも貴族令嬢のする格好ではなかった。

 

「きみに石集めの趣味があるとは知らなかったな」

「これはただの石ではございません」


 からかう様に言われ、フィーヌは口元を尖らせる。


「へえ。魔法の石かな?」

「残念ながら魔法の石ではありませんが、宝の卵です」

「宝の卵?」

「はい。神恵を使って、ロサイダー領の領地内にある鉱脈を調べました。これらは、ロサイダー領で採掘可能な鉱石です」


 その瞬間、ホークの眼差しが鋭いものになる。


「なるほど。それは確かに宝の卵だな。詳しく聞こうか」

「はい。先ほどわたくしは神恵を使って土の精霊と話し、ロサイダー領に鉱山はないかと聞いたんです。すると彼は、いくつかの鉱山があり、採れる鉱石はこれらだと教えてくれました」

「ほう」


 ホークはフィーヌが持ってきた石を順番に摘まみ上げては眺める。そして、そのうちのひとつをじっと見つめた。


「鉱石に詳しい訳ではないが、これは鉄鉱石ではないか?」

「鉄鉱石ですか?」


 鉄鉱石は近年の産業の発達で多くが消費されており、金よりも価値があるとすらされている。それに、もし鉄鉱石が領地内で採れれば、ロサイダー領の戦士たちが持つ武具や防具を安く、早く作ることができるのでその恩恵は計り知れない。


「ほかにも色々あるな。これは一体何の鉱石なんだ」

「わたくしにもわからなくって。閣下に調べていただきたいのです。お願いできますでしょうか?」

「もちろんだ。早急に取り掛かろう」


 ホークはしっかりと頷いた。




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