過去
【過去】
かつて「東洋の真珠」と称されたシャーンアーレン国は、世界貿易の交差点に位置する、小さくも繁栄した都市国家だった。高層ビルが立ち並び、夜には無数の灯りが輝き、世界中から商人、学者、旅人が集う。人口は七百万人を超え、「国際大都会の頂点」とまで呼ばれていた。
最も輝かしい時代、シャーンアーレンは自由な経済制度、高水準の生活環境、そして大国に匹敵する金融システムを誇っていた。国土は狭くとも、多くの夢追い人がこの地を目指した。軍隊は存在せず、戦争もなかった。七百万人を超える市民は、異なる言語を話し、異なる背景を持ちながらも、夢と希望を胸にこの国で共に生きていた。
彼らは信じていた。平和こそが、どんな武力よりも強い壁になると。
だが——
本当の絶望は、静かにこの平和な地に迫っていた。
戦火を最初に灯したのは、北方の強国「プロエラント帝国」と、その宿敵「西方国サティア連邦」である。
最初は国境を巡る衝突、民族や領土、歴史的対立に過ぎなかった。しかし、最初のミサイルが落とされたその瞬間、世界はもう後戻りできなくなった。軍事同盟、条約、復讐、そして覇権の欲望が複雑に絡み合い、世界は二つの陣営に分裂した。
シャーンアーレンは本来、戦争とは無縁のはずだった。
——しかし、それはこの国があまりにも「重要」すぎたのだ。
この国の港は戦略的な輸送の要所、金融システムは多国間の資金流通の中枢、そして技術力は各国が喉から手が出るほど欲しがる宝だった。
やがて、シャーンアーレンは「選択」を迫られる。
ある日、首都中心部を襲った「テロ事件」が発生した。それは計画されたものだった。そして、それが多国籍軍の出兵の口実となる。
「平和維持」の名のもとに、各国が兵を送り込んだ。
そして国際メディアのフラッシュの中で、かつての自由都市は軍服に染まっていく。
軍隊を持たなかった国は、軍人と傭兵が行き交う砦へと変貌した。
街の四方には対空砲台が設置され、市民の広場は仮設基地と化した。
中立を捨てたその日から——
シャーンアーレンは、「奪われるべき戦略拠点」となった。
最初の本格的な戦闘は、天終727年、午前6時27分に起きた。
戦闘機が空から襲来し、港を砲撃した瞬間、この国の人々は初めて知った。
——平和は、「力」によって守られなければならないと。
その日から、シャーンアーレンは完全に変わった。
見慣れたビルが崩壊し、ニュースが死傷者の名前を報じる中——
もはや誰も軍備反対を叫ばなかった。
シャーンアーレンは、各国と軍事同盟を結び、外国の軍人による訓練を受け、そして自らの特殊部隊を結成するに至った。
国際ビジネスの都は、今や戦場の心臓部へと変貌したのだ。
かつて、この地で夢を抱いた人々は——
銃を取った者、
死者となった者、
いまだ悪夢の終わりを待つ者——
それぞれの運命を背負いながら、生き延びている。
これが、シャーンアーレン国の「過去」。
この戦争は、十五年に及ぶ。
だが今もなお、終わる気配はない——。