【焦土】
雨は、止むことなく降り続いていた。
泥水に血が混ざり、ひび割れた地面を静かに流れていく。空気は火薬と焼け焦げた臭いに満ち、大破したビルはまるで死者の骨のように突き刺さり、砲撃によって巨大な穴を残していた。戦場は驚くほど静かだった。聞こえるのは雨音と、時折漏れるかすかなうめき声だけ。ここで何が起こったのか、それだけが語っていた。
軍靴が血の水たまりと死体を踏みつけ、冷たい水しぶきが上がる。
軍服をまとった男の足取りは重く、踏みしめているのは単なる屍ではなく、果たされることのなかった無数の命の運命だった。
彼は崩れた鋼鉄板のそばに腰を下ろす。顔を濡らす雨を拭うこともなく、まるでこの冷たさと沈黙に慣れきっているかのようだった。
倒れている者、座り込んでいる者、もう動かなくなった者。
その先には、何百、あるいは何千という負傷兵たちが救援を待ち続けている——だが、彼らはすでに知っていた。
助けは、決して来ない。
「援軍が来るって言ったのに……クソッ、どこにいるんだよ……」
若い兵士が呟く。
「援軍なんて、来るわけないだろう」
隣に立つ軍官は冷たく言い放つ。その瞳に怒りも悲しみもなく、ただ深い虚無があるだけだった。
ぬかるんだ地に、足音が近づいてくる。
生き残った者たちが、一つの場所に集まり始めていた。
倒れた鉄柱に掛かるぼろ布には、すでに滲んで形も定かでない軍の紋章が描かれていた。崩壊しつつある国の象徴——。
「……残っている兵は、どれくらいだ?」
軍官が低く問いかける。
座っていた兵士が顔を上げる。「戦力……まだどれだけいる?」
その声は、濡れた軍服のように重く冷たかった。
問いかけられた兵士はすぐに答えず、焦土と化した光景を見つめ続けていた。
「戦力は……まだどれだけ……」
再び問われたその声には、迷いはなかった。ただ静かな覚悟があった。
「……残り……2004人だ」
ようやく答えた声は、かすれた乾いたものだった。
「そうか……」兵士は、静かに返す。
「ところで、X部隊はどうなった?」と兵士が問う。
「……まだ、何の連絡もない」
短い返事だった。
再び沈黙が広がる。
音を支配するのは、容赦なく降り注ぐ雨の音だけ。
足元の地面はすでに濃い赤に染まり、もはやそれが水なのか血なのか分からなかった。
上空からの視点——そこに広がるのは地獄そのものだった。焦土の上に、崩れ落ちた建物と、傷ついた兵たちの姿が散らばっている。
「本部から……最新の通信だ」
無線機から低くかすれた声が流れる。
「なんだ?」
「……D拠点を死守せよ……最後の一人になるまで」
誰も言葉を発しなかった。
こんな命令が来ることは分かっていた。だが、それでも……実際に耳にすると、どこか残酷さが残る。
瓦礫の隙間から、一匹の猫がゆっくりと姿を現す。
全身びしょ濡れで、毛には血が付着している。猫は数人の兵士をじっと見つめ、小さく「ニャー」と鳴くと、再び影の中へと消えていった。
その様子を見た兵の一人が、ぽつりと呟く。
「……あいつは分かってる……ここから出ないと、ってな」
だが人間は——まだ、この地獄に留まらなければならない。
「……この戦争は……いつまで続くんだ……?」
ナレーション:
この戦争は、すでに十五年も続いている。
一つ一つの戦いが、悪夢そのものだった。
勝とうが負けようが、大地に残るのは灰と骨だけ。
歴史書は、この戦争の詳細を記さない。
本当の地獄を知っているのは——生き残った者たちだけだ。
一方その頃——
銃声が鳴り響く。
Boom… Boom… Boom。
一発、一人。
黒い軍用コートを纏い、仮面を被った謎の男が、敵を容赦なく屠っていく。
その動きに迷いはなく、冷酷で、正確。撃つたびに、一人、また一人と地に伏した。
「頼む……殺さないで……お願いだ……あああっ……!」
哀れな叫びが、無情に響く。
謎の男は最後の一人に銃口を向け、静かに問いかけた。
「もうお前しか残っていない。……最後に、言いたいことは?」
怯えた敵が叫ぶ。「……お前は……一体、何者なんだ……」
男は一言、名を告げる。
「レックス。」