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青と赤と  作者: 向日葵
2/8

逢斗

懲りずに二作目を読んでくれるあなたに感謝

「竜崎クーン!」


 幾つもの黄色い声が駆琉を包み込んでいる。駆琉はいつも黄色い声援に包まれながら走っている。俺なら走力が倍増しそうなのにな、と逢斗は思った。が、駆琉の表情は渋い。それもそのはず、あいつは注目されるのが大嫌いだもんな。それにしてもどうして神様はそんな駆琉にあのマスクと脚を与えてしまったんだろう。


 駆流は逢斗の無二の親友だった。逢斗は駆流と波長が合った。駆流は青だ。完全燃焼している炎のような南極の一番冷たい氷よりも冷たいような不思議な色。見たことのない色に惹きつけられた。駆流の方もちやほやせずに接する逢斗といるとその冷たい炎を緩めて安心したような表情を見せる。


 そんな駆流は控えめに言って美少年だった。ずっと走っているため日に焼けた顔は端正で華がある。駆流はいつも女子の憧れの的だった。駆流と一緒にいることの多い逢斗は伝言を頼まれたことも一度や二度ではないし、駆流が呼び出されたとぶつくさ文句を言っていた回数もその比ではない。


 でも駆琉は恋愛沙汰には見向きもしなかった。理由は簡単。走る時間が減るからだ。文句を言いながらも呼ばれた場所には出向くのが駆流の最大限の心遣いだ。

「お疲れ。」

「全く疲れたよ、なんで俺が走るだけでキャーキャー騒がなきゃいけないんだよ。」

「羨ましい限りだ。ありがたく受け取っておけばいいじゃないか。」

「羨ましいもんか。」

 ほんとに変な奴だ。こんな奴を逢斗は2人しか知らない。もう1人は……。



 俺の幼馴染、高峰煌葉たかみねきらはだ。


 学業秀才才色兼備花鳥風月をすべてごちゃまぜにして絵にしたようなこの少女。全く天は二物を与えがちだ、少なくとも逢斗の周りでは。


 幼いころから煌葉は異色のオーラを放っていた。いわゆるお嬢様というのとも少し違う。


 煌葉は赤だ。薔薇の赤。その美には棘がある。世界中の正しさを凝縮したみたいな赤。


 本当は東京にある国立最難関の医学部に進みたかったらしい。先生にも太鼓判を押されていたその大学を諦めた理由を逢斗が尋ねると煌葉は淡々と答えた。

「だって東京なんて事務所のスカウトがうようよしているから歩きたくないもん。」


 中学の修学旅行で東京に行ったとき、班別研修中に煌葉は三回も芸能事務所にスカウトされそうになった。その所為で集合時間に遅れ先生にこっぴどく叱られたのが真面目な煌葉にはかなりトラウマになっているようだ。先生の中に妬みという感情を感じ取ったのは多分逢斗だけだった。


 そんな煌葉には当然のことながら男子が群がる。でも煌葉はやっぱり見向きもしない。それどころか嫌がっている。理由は簡単。勉強時間が減るからだ。変な奴だ。


 まるで駆流みたいだ。



 こんなに変わった個性の塊みたいな奴らに囲まれていたら、逢斗だって何かしらの個性があると思うだろう。結論から言うと全くと言っていいほどない。まさに演劇でいうと「男子高校生B」役だ。いてもいなくても変わらない。どうせ僕なんてそんなもんだ。まあ、それで居心地が悪いわけではないからまあ良い。

 

因みに、逢斗たちの住んでいる地域は過疎化が進み、街に高校は一つしかない。だから、地元の高校にはそれこそ多種多様な人間が集まる。だから、煌葉みたいな秀才の横で、授業中は体作りと言いながら睡眠している誰かさんもいるのも、ある意味自然と言える。でも、都会の進学校に、煌葉みたいな高校生が数百人で勉強している光景は、逢斗には想像がつかない。



「全く、女子っていう生き物は恋愛のことしか考えられないのか。」


 それを嫌味として受け取らない程度には駆琉とは親しいつもりだ。だけど、真剣に考えてやるほどの義理は逢斗にはない。逢斗は半分出まかせで答えた。


「俺は女子を寄せ付けない方法を知ってるぜ。」

「なんだ?それは。ぜひ知りたいもんだ。」

 因みに、逢斗はこの時点で答えを用意していない。と、その時、逢斗の頭に面白い考えが浮かんだ。

「絶対に恋愛感情を抱いてこない相手と形式的に付き合ってしまえよ。そうすればもう誰も寄ってこない」

「……」


 予想に反して駆流は黙り込んだ。ご丁寧にも形の良い顎の下に拳を当てて考える仕草をしている。


「おい、なんか突っ込めよな。」

 逢斗は仕方がないので自分で突っ込んだ。するともっと予想外の返事がかえってきた。


「ありあり。逢斗なかなか頭良いじゃん。」


 その時の逢斗の目がどれほど点と化したかは説明しまい。僕が……なんか頭良いこと言ったっけ?コイツは何を考えてるんだ?それともただの馬鹿なのか?


「まためぼしい奴いたら教えてよ。俺クラスの女子誰一人知らないからさ。俺には全員、夏のむ……おんなじように見える」


 そう言って立ち去っていく駆流を逢斗は呆然と見送るしかなかった。終わったと思っていたこの話の伏線が思わぬ形で回収されるとも知らずに。

 


「全く、男子って恋愛のことしか考えられないの?」


 ある日の放課後、逢斗は家の前であった煌葉と立ち話をしていた。


「ほんっと、いやになる。」


 何が起きたかは大体検討はついた。煌葉は高校に入学してから今までの間でも、多くの人間を振ってきた。また、変な奴に絡まれて勉強の時間を取られたか、振った奴に逆恨みされたかのどっちかだろう。


「どうしたらあんな連中が近づいて来ないのかしら。」


 こうなると出まかせは逢斗の専門領域である。それに、この前も同じシチュエーションがあったため、慣れている。その時にはこんな短期間で同じ言葉を繰り返すことになろうとは思いもよらなかった。いや、慣れているのがおかしいのか。


「絶対に恋愛感情を抱いてこない相手と形式的に付き合ってしまえよ。そうすればもう誰も寄ってこない。」


 これと全く同じことを言ったのは一か月も前の話ではない。とはいえいくらなんでも聡明な煌葉には笑い飛ばされるだろう。


「逢斗、なかなか頭が回るじゃない。見直したわ。」


 この少女はなかなか皮肉がお上手だ。完全に僕を馬鹿者扱いしている。


「誰か目ぼしい人はいないの?私クラスの男子、逢斗しかわからない。」

 まずい。この展開何処かで見たことがある。こいつは、本気だ。

「え……まぁ、僕とか……」

「……」


 煌葉に対してはひとかけらの恋愛感情もないが、この美少女の隣を歩いているだけで自分の価値が上がりそうだ。あたかも公民の経済分野の授業で先生が話していたインフレーションみたいに。……経済?今日の授業で先生が言ったことを頭の中で反復する。


 需要と供給……。


「ちょっと待った。紹介したい奴がいる。」

また会いたいなぁ

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