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8.お宅訪問で監禁


 というわけで、やって参りました。王宮です。

 わーい!

 アクセル様のお宅訪問〜!


 と、喜ぶことで現実逃避しています。はい。

 あのランチのお誘いから二日経ってます。

 よく漫画とかで「このまま監禁したい」とか「監禁しちゃうよ?」なんてイケメンなヤンデレが出てきたりしましたよね。

 だけど、あれはヤンデレという属性なわけで、〝デレ〟があるんですよ。

 結果、『監禁するする詐欺』となってるだけの、物語における単なるスパイス。

 たまに本当に監禁されちゃって、でも「彼をここまで追い詰めてしまった私のせい」とか「こんなに弱ってる彼を放っておけない」とかで、ヒロインが自分の気持ちに気づいてハッピーエンド♡とか。


 ねえよ!

 それ、ただのストックホルム症候群だから!


 なんて、私が言いきってしまうのは、今現在本当に監禁されているからです。はい。

 別に手錠をされたりしているわけではないけれど、部屋から出られません。

 婚約しているとはいえ、私は侯爵令嬢だからもちろんダミアンの部屋ではない。

 ちゃんとした客間。王宮にある客間の一室。

 でも出られないんだな、これが。

 見張りがいるわけじゃない。だから表向きは監禁には見えない。

 ご丁寧に両親には私がしばらく王宮に滞在するって、国王陛下からお伝えしてくださっているんだって。


 ダメじゃん、陛下。弟に脅されているのか踊らされているのかわからないけど、何で弟の味方してるの?

 ダミアンはこの国を乗っ取ろうとしているんだよ? さらにはあなたの大切なご子息の命を狙っていたりするんだから。

 

 それで、何がどうして監禁なのかって?

 もちろんそれは私の意思ではこの部屋から出られないから。

 王宮には何度か来たことがあったけれど、王族方の私的な空間には入ったことがなくて、ドキワクしているうちに油断してしまったんだよね。

 ダミアンが客間へと案内してくれているときに「ここがアクセルの部屋だよ」と、とあるドアの前で教えてくれて、うっかり心に隙が生まれてしまったみたい。


 それは一瞬で、ひゅっと体を縛られた感覚があった。

 それなのに、まあ気のせいかと客間に入って勧められるがまま応接ソファに腰を下ろした途端。

 ダミアンが例の悪巧みしてそうな妖艶な笑みを浮かべて告げた。


「僕は僕のものが他のものに奪われるのは許せないんだ」

「あの、どういう意味でしょうか……?」

「レティシアはアクセルのことが好きなんだよね?」

「……はい?」

「誤魔化す必要はないよ。前にも言ったけど知っているから。でも、僕と婚約した以上は他の男のことは忘れてくれないとダメだよ」


 ああ。これ、ダミアンルートのバッドエンドで見た笑顔だ。――そう思ったのが二日前。

 どうやら私は、アクセル様のお部屋に気を取られた一瞬で、体の自由を一部奪われてしまったらしい。

 それで、私はこの部屋から出ることができなくなってしまったってわけ。


 ダミアン曰く、他人の体の自由を制限する魔法は、相手が常態的に張り巡らせている無意識の自己防衛を手放した瞬間を狙わないと成功しないそうで。

 要するに私はアクセル様のプライベート空間を目の前にして、その自己防衛を手放してしまったらしい。

 いわゆる、油断。

 そしてダミアンは、そんな油断を招いた私の心――アクセル様を好きってことが許せないらしい。


 はい。ここまでだとヤンデレですね。

 でも違うんですよ。

 世の一部の乙女がキュンするヤンデレではないんですよ、これが。

 まず先ほども言ったように〝デレ〟がない。

 なぜなら、ダミアンは私のことを好きではないから。

 私の望む〝好き〟と、ダミアンの〝好き〟が決定的に違う。

 疑っているとかじゃないから。

 よくあるすれ違い勘違いなラブストーリーではないから、これ。


 私がそういう系の物語を見るたびに思ってたことは一つ。――話し合え。

 これに尽きる。

 どんなに悪役令嬢が邪魔しようが、偶然が重なって誤解を招くようなことが起ころうが、とにかく話し合え。

 無理やりでも時間を作って、押しかけて、まず初めに要点を伝えて、話し合え。

 話し合いが無理でも自分の気持ちだけでも強引に伝えろ。

 もじもじするな、遠慮するな、相手の態度に怯むな。

 常日頃からそう考えていた私は、それを実践すべくお茶を用意されてから話し合いを試みたわけですよ。


「どうして私が畏れ多くもアクセル様を好きだとお思いになったのですか? また、たとえそうだとして、なぜダミアン様は私と婚約なされたのですか?」

「普段から君を見ているとわかるよ。それでも、僕は君と婚約したかったんだ」

「私が好きだから、ですか?」

「そうだよ」


 優しげな笑みを浮かべているけど、それが最悪な笑顔だって私は知ってる。

 だからここで、『そこまで私を想ってくれてるなんて』とか勘違いしたりしない。


「ダミアン様とはほとんどお話したこともありせんが、私のどこをもって好きだとおっしゃるのでしょうか?」

「そんなの簡単だよ、レティシア。僕は君のすべてが好きだよ」

「すべてという曖昧な表現ではなく、せめて一つ二つ具体的に教えてくださいませんか?」

「おや、僕の婚約者殿はずいぶん欲しがりさんだな」


 気持ち悪い表現を今すぐやめてほしい。

 でもさすがに王弟殿下相手に「気持ち悪い」とは言えないから、苦笑いにとどめておく。

 すると、ダミアンは私が納得していないことに気づいてか、少し首を傾げて考える仕草をした。


「そうだな……」


 イケメンがそんな仕草をしたらキュンとするじゃない。

 そう思った私はダミアンが口にした答えに、喉がヒュンってした。

 あと、胸もキュンっていうか、ギュンってしたよ。ちょっとの間心臓が止まったよ。


「一番はレティシアの身分かな?」

「身分、ですか?」

「ああ。カラベッタ侯爵令嬢というのは大きいね。宰相が私の後見になるようなものだ。それに調べたが、レティシアの持参金もかなりの額だったね。これも役立つ。兄弟仲もいいようだから、エルマンとの強い繋がりもできる。あと、容姿も悪くないな。他には……」

「もう結構です」

「そう?」

「はい」


 クズ発言~! びっくりするぐらいクズ発言。

 身も蓋もないことをこんなに堂々と言えるなんてすごい。

 わかっていたけど、すごい。

 別に傷ついたりしてない。

 だってダミアンが本当に好きになるのは、ヒロインだもの。

 私が単なる駒で政略結婚でしかないのはわかっていたから。

 とはいえ、ダミアンは私の全部を好きだと言ったわけで。

 何だか急に悪戯心というか、負けん気がむくむく湧いてきて、馬鹿なことを訊いてしまった。


「それでは、私の性格についてはどうですか?」

「うん、好きだよ。ちょっと前までは退屈だなと思っていたけど、まあ適当に操れるのは楽だからね」

「……はい?」

「だけどほら、婚約式から急に別人になっただろう? だから今はなかなか面白くて好きだよ」


 ヤバい。私がレティシアではなく晴乃だとバレてた。

 ああ、これは詰んだ。




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