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49.魔王登場


「――なっ!? ど、どうやって!?」


 驚愕するアドソン先生の悲鳴のような声が聞こえる。

 うん。これも幻聴。

 そうじゃないと、今聞こえているダミアンの声も本物になっちゃうからね。


「俺のレティシアを放してもらおうか」


 あ、たぶん本物だ。

 だって目の前からアドソン先生が消えて、体がとっても軽くなった代わりによく見えるようになったダミアンは、魔王そのままな真っ黒なオーラを放っているもん。

 やだな、先生ってば。

 魔王召喚したら、ダミアンが来るに決まっているじゃない。はは。

 起き上がる気力もなくて、鈍い音がしたほうへ首だけ動かして見ると、先生が壁にもたれかかって血を吐いていた。


「最悪……」

「レティシア、助けにきたのにその言葉はないだろう」

「血が……魔方陣に……」

「ああ、そういうこと」


 まだ光っている魔方陣に血が触れたらもっと魔王の力が増すんじゃないかなって心配して呟いたら、ダミアンはすぐに理解したらしくて何かを唱えた。

 すると、魔方陣の光が消える。


「まさか学園の地下に、こんな部屋を作っているなんてね」


 そう言いながらダミアンは倒れたままの私の許に屈みこむ。

 ああ、また嫌みを言われるのかとうんざりしていたら、ダミアンは先生に叩かれた私の頬にそっと触れた。

 途端にずきずきした痛みが消えて、口の中の血の味もしなくなる。

 それどころか、背中を中心に全身が痛かったのに、羽が生えたように体が軽くなった。

 このまま飛んで逃げられないかな。


「出入口はないよ」

「だから、他人の頭の中を読むのをやめてください」

「わかりやすいからね、レティシアは」

「そんなことありません。アドソン先生にはまったく読まれませんでしたから」

「それなら愛かな?」

「それもないですね」


 助けてくれてありがとうと本当は言うべきなのに、どうしても素直になれない。

 ピンチに駆けつけてくれるなんて、全乙女憧れのヒーローかと錯覚しそうになるけど魔王だからね。

 そんな私の考えもお見通しなのか、ダミアンは楽しそうに笑って手を伸ばす。

 思わずびくりとしたのは、アドソン先生に首を絞められた記憶がよみがえったから。

 だけどダミアンは私の恐怖もおかまいなしに私を抱き上げた。

 優しくないようで、たぶんこれは優しさかな。

 だから私はまた素直になれない。


「自分で立てますから、下ろしてください」

「これくらいの役得はあってもいいんじゃないかな? 助けにきたんだから」

「遅すぎません? まさか囮の私を見失ったとは言いませんよね?」


 乙女が夢見るお姫様抱っこをされたというのに、やっぱり私は可愛くない。

 いつもより近い位置から見下ろされているダミアンの顔には、壮絶な美しさとでもいうような笑顔が浮かんでいる。

 うん、怖い。

 さっきまで死を覚悟していたのに、それより怖いとかどういうこと?


「そうだね。僕の考えが甘かったから、レティシアに怖い思いをさせてしまったんだよね?」


 いえ、怖い思いをしているのは、たった今です。

 ダミアンが私に優しく笑いかけてくれたそのとき、たぶんアドソン先生からとんでもない威力の攻撃魔法が放たれた。

 たぶん、というのは蛇に睨まれた蛙状態の私がダミアンから目を離すことができなかったから。

 だけどダミアンにはすごい防御魔法でも張られているのか、周囲で火花がいくつも散ったのにすぐにしゅんって吸収されて消えていく。


「とはいえ、そもそもの原因はこいつだよね?」

「え?」


 ダミアンはいつの間にかアドソン先生に近づいていて、その長い足でどんっと踏みつけた。

 アドソン先生から鈍い悲鳴が上がったけど、ダミアンはにこにこしたまま私から目を離さない。

 だから私も目を離すことができなくて、アドソン先生の状況は予想というか勘?


「レティシア、こいつをどうしたい? 切り刻む? 遅効性の毒でゆっくり死なせる? それとも五感を全部奪って生き長らえさせる? 好きなのを選んでいいよ?」


 それ、選ばないとダメですか? 

 全部無理だけど、必要なことは一つ。


「他に共犯者がいるのか、アドソン先生が首謀者なのか、今回の件以外にも悪事を働いているのか、そもそもの目的は何なのかを調べてください」

「うん。さすがレティシアだね」


 さすがというか、私刑(リンチ)はダメだからね。

 カリナ様のためにも、しっかり調べてほしい。

 あとはいい加減に下ろしてほしい。


「ダミアン様、私はもう大丈夫ですから。一人で立てます」

「だとしても、僕が嫌なんだよね」

「ダミアン、レティシア嬢が嫌がっているだろう。解放してやれ」

「アクセル様!?」


 どうしてなんでここにアクセル様が!?

 こんなみっともない姿をお見せするとか、なんて拷問!

 はーなーせー!

 ぐぐぐってダミアンの胸を押したけどびくともしないとかどういうこと?


「ダミアン様! レティシアは無事でしたか!?」

「アドソンは!?」


 焦った様子のお兄様とジャンが現れて、ようやくダミアンは私を離してくれた。

 ふらっとしそうになったけど、踏ん張って一人で立ったら、ダミアンが笑いを堪えているのがわかる。

 失礼な。


 それにしても、出入口はないってダミアンは言ってたのに、みんなどうやって入ってきたの?

 やっぱり魔法?

 でも私にはできないから、強い人しか無理ってことかな?

 じゃあ、私はどうやって出ればいいんだろうって考えていたら、新たな声が聞こえた。


「ヨナス!」

「ユリウス……」


 ユリウスって誰?

 ヨナスは確か、アドソン先生の名前で、呼びかけられて反応しているから間違いない。

 ユリウスの正体を知ろうと、アドソン先生の視線を追って振り返ると、新たなイケメン登場。

 でもどこかで見たことがあるような……って、魔術師長ユリウス・マードイだ!

 まさかのここで『王子様♡』の隠しキャラ登場!?




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