37.生徒会
「すみません。僕が聞いてよい話でしょうか? 席を外したほうがよければ、すぐに出ていきます」
「いや、アントニーも聞いてくれ。むしろ、協力を願いたいことだからな」
ちょっと張り詰めた空気の中で手を挙げ発言するアントニーはやっぱりすごいと思う。
この中で口を挟むのもだけど、こんな気になる話題に自分が加わっていいのか疑問に思い、判断をゆだねるんだから。
私なら促されるまで居座っちゃうというか、小さくなって存在感を消すことに徹するな。
アクセル様はいつもの淡々とした口調だったけれど、ちょっと嬉しそう。
きっとアントニーの察しのよさとか、行動力に好感を持たれているんだ。
ここから生徒会活動を通じて、二人はもっと仲良くなるんだよね。
アントニールートでは簡単に語られるだけだったけれど、ダミアンたちに追われての逃避行のときも協力してくれたようだったもん。
そこをもう少しクローズアップしてくれていたら、アントニールートも何回か挑戦したのに。
なんてことを考えているうちに、話が進んでた。やばい。
危うくまたダミアンに嫌みを言われるところだった……って、もう気づかれているみたいで、ちらりと視線を向けるとしっかり目が合ってしまった。
その目が笑っていない『微笑みの貴公子』はどうにかならないものか。
そもそも、どうして私の隣に座っているの?
アクセル様が中央に座られて、斜向かいにそれぞれダミアンとお兄様が座るのはわかる。
お兄様の隣にジャンが座っているから、その隣がアントニーで、そうなるとダミアンの隣は私になるのか。そうか。
でも私は庶務だし、一つ空けて座ってもよかったのに、悲しいかな日頃の習慣で、椅子を引かれたらそこに座っちゃうんだよ。
いや、もう席順もどうでもいいから、話に集中しよう。
これは私のためにアクセル様がジャンやお兄様、アントニーに協力依頼してくれているんだから。
うん。私のため。囮としてだけど。
「――まさか、カリナ嬢にそのような悲劇が起こっていたとは知りませんでした。それなのに私は何の力にもなれず、呑気に暮らしていたことは悔しくも残念に思います。ですが、アクセルの言い様だと、レティシアを囮にすると言っているようなものですが?」
「……そう取られるもの仕方ない」
さすがお兄様。アクセル様のお話をすぐに理解されたうえに、私が囮であることに気づかれましたね。
そうなんです。ダミアンは私のことを好きでも何でもないんですよ。
それどころか、酷い扱いを受けています。……精神的に。
だから、悪いのはダミアンでアクセル様はまったく悪くないですからね。
「レティシア」
「はい、お兄様」
「お前はそれでいいのか?」
「私は……カリナ様のことをお慕いしておりました。正直なところ、怖くはありますが……カリナ様の無念を晴らせるなら、陛下やアクセル様、この国の安寧のためにも、私は囮でも何でもやってみせます」
「本気か?」
「お兄様もアクセル様も、皆様のことも信頼しておりますから」
「そうか。いつまでも子どもだと思っていたが、いつの間にかレティシアも成長していたんだな。それもダミアンの影響でもあるんだろうな」
やっぱりお兄様は私よりも王家や国を選ばれると思っていたから、こんなに簡単に納得したのはいい。
だけど、私の成長はダミアンの影響ではないから。アクセル様をお守りしたいという一心だから。
とはいえ、ここで否定するわけにもいかないので、淑女らしく微笑むだけにしておく。
隣から放たれるダミアンの黒いオーラは無視。
やっぱり人間って耐性ができるんだね。
私の言葉にダミアンの名前がまったく出なかったから何か言いたいんだろうけど、本気で怒っているわけでもないみたい。
むしろ面白がっているんじゃないかって、またちらりと視線を向けたら嫌な笑みを浮かべてるダミアンと目が合ってしまった。
「エルマン、すまないな。レティシア嬢の安全は私もダミアンも全力で確保する。そのためにも、協力を願いたい。特にアントニーは同じ学年だからな。クラスは違うが、気にかけてくれるだろうか?」
「はい、かしこまりました」
ああ、アクセル様が私のために皆にお願いしてくださっている。
たとえ本当のところは利用されているだけだとしてもかまいませんから。
アントニーもそんなに気にしなくていいからね。
下手をして目立てば、故国のレクザン王国側の悪い人たちに見つかるかもしれない。
まあ、それをこの場で口にすることはできないし、たぶん何も発言しないジャンも含めて三人も今回のことに裏があるのは気づいていそうだけど。
生徒会の中でも秘密がいっぱいだね。
それにしても、なあんか納得いかないというか、もやもやする。
何か大切なことを見過ごしているような気がするし、一つ一つ疑問を解決していけば、すっきりするかな。
そんなこんなで、結局今日の生徒会は議事録に残らないものになってしまった。
さて、今一番の問題はこれからダミアンと馬車で帰らないといけないこと。
ダミアンは怒っているわけではないけど、機嫌がいいわけでもない。
そのせいか、アクセル様を誘ってくれることもなく、二人で馬車に乗り込む。
馬車が走り出すまでは重たい沈黙が漂い、ふっと空気が変わった気がしたから先手必勝。
ダミアンに何か言われる前に、こちらから切り出してしまえ。
「ダミアン様、今この場でお話したいことがあるのですが、大丈夫でしょうか?」
「もちろん。何かな?」
私が暗に内密の話があると問いかけたら、当然ダミアンはその意図を汲んで笑顔で答えてくれた。
たぶんこの馬車には防音魔法を施してあるんだって、その笑顔からわかる。
「わざわざ馬車に防音魔法を施しているなんて、そのことに疑問を持たれないように、先日私を皆の前でわざわざ押し倒したんですね?」
「レティシアの可愛い声を、誰にも聞かせたくないだけだよ」
気持ち悪い言い方はやめてほしい。
だけど私の問いかけに否定しないってことは、正解だってことで。
なんかもういろいろ怖いけど、今のところは味方なんだからこれほど頼もしいことはない。……はず。
「いくつか疑問があるんですけど」
「今日のレティシアは僕のことをずいぶん無視するんだね?」
「今さら取り繕っても無駄ですから。それよりも、カリナ様についてなんですけど」
「まだ暗殺されたとは断言できないなんて、エルマンたちへの説明では無駄だろう?」
私が「無駄」って言ったからって、被せてくるところが意地悪なんだよね。
まあ、それはいいとして。
「暗殺かどうかは別として、カリナ様が聖女だったという可能性はないのですか? 敵方が聖女を狙ったというのは?」
「それはない」
「それこそ断言できるんですね」
「〝予言〟に何も変化がなかったからね」
「なるほど……」
それなら納得。
でも、その変化がなかったことを、敵も知っているってことだよね?
「どう考えても、内通者がいますよね? 内通者というか、むしろ犯人? それで、ダミアン様は目星をつけているんですか?」
「どうだろうね」
はい、ダウト。
ダミアンはおそらく内通者か犯人をすでに特定していて、泳がせている。
それなのに、私には教える気がないってこと。
そりゃ、私はダミアン曰くの顔芸も腹芸もできないから、犯人を前にすると挙動不審になるかもしれない。
そのためにも秘密にしておかないといけないのもわかる。
だけど――。
「絶対に、私を守ってくださいね」
「身命を賭して守るよ」
「あ、そこまではいいです」
だって、ダミアンにそんなことされたら化けて出そうで怖いもん。
だからほどほどでいいです。




