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32.無謀な策謀

 

 本当はもっと真剣に話に耳を傾けないといけないんだろうけれど、わくわくする気持ちが抑えられない。

 アントニーについて、いったいどんな情報が――むしろダミアンたちはどこまで把握しているのかを知りたい。

 まさかの同姓同名なだけで、単なる平民出身ってオチはないよね?


「レティシアはずいぶんアントニーに興味があるんだね?」

「今まではありませんでしたけれど、ダミアン様がそれほどにもったいぶるのですから仕方なくありません?」

「まあ、確かに……」


 だから、早く教えて。

 アクセル様がためらうくらいだから、それほどの重要機密なのでしょう?

 やっぱり隣国の――レクザン王国の王子様なんだよね?


「実はね、アントニーの出自はよくわかっていないんだ」

「……はい?」

「バックス伯爵が騎士団長として、フォースト地方の山岳地帯で実践訓練を行っているときに、幼いアントニーを保護したんだよ」

「……魔獣が頻出する山岳地帯でですか?」

「うん、そうだね」

「怪しいこと、このうえないじゃないですか」

「だよねえ」


 フォースト地方はレクザン王国と国境を接する地域ではあるから、アントニーがお家騒動で逃れてきて山岳地帯をさまよっていたというのもあり得ないことではないと思う。

 いや、あり得ないよね。

 騎士団の実践訓練が行われるほどに、フォースト地方の山岳地帯は魔獣が頻発するんだから。

 そんな場所に子どもがいれば、まず怪しむよね。


「……アントニーを発見したとしても、そのような場所にいるなど、まずは魔族であることを疑うべきではないですか?」

「もちろん疑ったよ。いろいろと調べたうえで、人間だと判断し、保護するに至ったんだ」

「……何かの奇跡が重なって、人間の子どもであるアントニーが無事に保護されたとして、どうして国の中枢の一人であるバックス伯爵家の従者になっているんですか?」

「アントニーは保護されたときに、おそらく十歳くらいだと判断された。気の毒に、よほどのショックを受けたのか、記憶を失くしていたらしくてね……。バックス伯爵が全責任を負うということで、屋敷に連れて帰ったようだよ」

「なんて無謀な……」

「レティシアはアントニーに同情しないの? そんなに幼くして過酷な目に遭っていたのに」

「同情よりも国防です」

「まあ、そうだよねえ」


 信じられないバックス伯爵の行動に慄いてしまったけれど、ダミアンの態度といい、アクセル様が私に話すことを躊躇なされたことを思うと、だいたいわかった。

 アントニー保護は当然のことながら、バックス伯爵の一存ではなされていない。


「国防よりも策謀ですか?」

「やっぱり、わかった? さすが、レティシアだね」


 褒められても嬉しくない。

 でも、アクセル様が驚いた顔をしていらっしゃる!?

 このお顔はヒロインが初めて⦅サント・クリスタル》の力を使ったときと同じ!

 まさかリアルで拝見できるなんて、ダミアンにちょっとだけ感謝してもいい。


「アントニーはレクザン王家の方なのですか? もしくは、それに近しい方ということですよね? ですが、記憶がないというのは……建前ですか? それとも、アントニーの言うことを信じているふりをしているだけですか?」

「鋭いね。お互い気づかないふりをしているだけだよ」

「まあ、そうなりますよね……」


 アントニーだって子どもだったとはいえ、バックス伯爵家に使用人として引き取られるなんて、普通に考えてあり得ないとわかりそうだもの。

 レクザン王家のお家騒動は未だに続いていて、それが国政にも影響して王国内は内乱寸前。

 このままだとレクザン王国は弱体化してどこかの国に乗っ取られかねない。

 だけど、この国――プラドネル王国がアントニーの後ろ盾となってレクザン王国内を鎮静化すれば、内政干渉もできる。

 アントニーはリスクもあるけれど、プラドネル王家に保護してもらえるから、お互いに利があるというわけだったよね。


 まあ、ゲームではダミアンがレクザン王家を狙う反逆者たちと通じていて、アントニーはヒロインとの逃避行が始まるんだけど。

 それから反逆者たちを倒して、アクセル様たちと協力して王国を立て直し、ダミアンを断罪するんだよね。

 でもゲームとは違っても、これだけ似た世界だと、ダミアンが裏切らないとは限らないわけで。

 ダミアンを見定めるように(そんな力はないけど)じっと見つめていたら、麗しのアクセル様の声が私の耳をくすぐった。


「見つめ合うのはかまわないが、できればそれは後にしてくれないか。話を進めよう」


 ぎゃー! 

 アクセル様にとんでもない誤解をされてしまった!

 違うんです、違うんです。私は別にダミアンを好きで見つめていたわけではなくて、疑わしいから見極めようとしていたんです。


「ごめんね、アクセル。レティシアがあまりにも可愛くて、目が離せなかったんだ」

「惚気はいらん。それに、レティシア嬢が真っ赤になっているぞ。気の毒だから、さっさと続けろ。そうすれば、私は退散してやる」


 ううう。誤解です、誤解なんです。

 真っ赤になっているのは、アクセル様を前にして恥をかいてしまったからで、ダミアンのことはどうでもいいんです。

 しかも話を進めるということは、アクセル様との時間が終わるということ。

 続きは気になるけれど、時間が止まってほしい。

 そもそもダミアンと二人きりになる必要はありませんから。アクセル様の優しさがつらい。


「まあ、そういうわけで、アントニーと我々は利害関係が一致しているんだよ」

「……だとすれば、アントニーには〝予言〟について話すのは悪手ですね。わざわざプラドネル王家の秘密を知らせる必要はない。ということは、ジャン様とお兄様にも〝予言〟については伏せますか?」

「うん、そうだね。ジャンもエルマンも信用に値する人物ではあるけれど、やはり生徒会として活動している限り、いつアントニーがプラドネル王家の秘宝について知ってしまうかわからないからなあ」


 本当にヒロインが――聖女が予言の通りに現れれば、アントニーもまた⦅サント・クリスタル》の力を必要とするのは間違いないよね。

 ただ、その出現が予言されていたというのを伏せていればいいただけだもん。

 私の問いかけにダミアンが答えると、続いてアクセル様が発言され始めた。

 しっかり聞かなきゃ。傾聴大事。


「では、レティシア嬢の警護についてはどうする? 何か適当な理由を考えなければならないが……。やはり、カリナが毒殺されたことだけは知らせるか。そのうえで、レティシア嬢も狙われる可能性がある。犯人はおそらく我が王家を弱体化させようとしている者。そいつらが、レクザン王家の反逆者と通じている可能性もあるとすれば、アントニーも巻き込める」


 さすがアクセル様。

 その案でまったく問題ないと思います。

 それに、私の警護ってことは、アクセル様が私の危機に駆けつけてくれることもあるってわけで。

 いやいや、アクセル様を危険に晒すわけにはいかないので、私はこれから身辺には十分に注意を払います。




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