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22.反省会


「さて、本日の反省会といこうか」

「何のことでしょうか?」

「レティシアは僕の婚約者だよね? だが、その立場にあるまじき行動を取ったことについて、かな?」


 こういうのも、モラハラあるあるだよね。

 反省会とか何とか、こっちが悪かったって気分にさせられるやつ。

 ええい! こちとら、ブラック企業勤めの社畜だったんだぞ!

 王室でぬくぬく育ったお坊ちゃんとは違うんだよ!


「――本日とおっしゃいますが、まず学園に登校するまでの間には何も問題がなかったと思います。確かに、突然知らされた生徒会庶務という役職に驚き動揺はいたしましたが、そこまで特筆するべきような問題行動をしましたでしょうか? 生徒会とは全生徒から信任され選出された方たちが就くべき役職であり、その方たちのサポート業務を行うだけにしても、そのプレッシャーは多大で私のような小心者には荷が重すぎます。それでもダミアン様だけでなく、アクセル様たちにも信任していただけたのなら精一杯尽力しようと決意したものの、しばらく一人になって現状を整理したいという気持ちがありました。ですから教室まで遠回りではありましたが、特別棟の裏手を進んでいたのです。まさかそこで先輩方とお会いすることになるなんて思いもよらず、どう対応するべきか逡巡している間にダミアン様がいらっしゃり、場を収めてくださったので、特に問題も起こりませんでした。その後は始業に遅れはしましたが、今までと変わらず――いえ、今まで以上に勉学に励み、放課後は遅刻したことへの反省をアドソン先生に伝えた後、ダミアン様がわざわざお迎えにいらしてくださったので、ありがたくも生徒会室までご同行させていただき、皆様とのご挨拶も無事に終えて生徒会本格始動前の会議に参加させていただきました。確かにそこでの私の発言はいささか生意気なものではあったかもしれませんが、アクセル様に意見を求められ、皆様方も同意されていらっしゃったので、忌憚ない意見をと僭越ながら申し上げました。会議終了後は皆様方との雑談を楽しむこともでき、今後の活動を円滑に進めるための関係性を多少なりとも構築できたのではないでしょうか。それで、何か問題がありましたでしょうか?」

「うん、かなりあるね」


 はあああ!

 ここまでほぼノンブレスで訴えたというのに、ダミアンはまったく動じた様子がないなんて。

 逆切れ作戦失敗。


「申し訳ございません。私はかなり見識が狭く、どのような問題があるのかわかりかねますので、できる限り明快にご教示いただけないでしょうか?」

「まず、その他人行儀な話し方はやめないかな? 僕たちはもう他人ではないのだから」

「まだ他人です」

「まだ、ね……」


 あ、墓穴掘りましたか?

 ええ、そうです。自ら墓穴掘るタイプなんです。

 だって、ダミアンがショベルカーを用意してくれるからね!


「そ、それで、他には何が問題だったのでしょうか?」

「そうだね。朝、同じ馬車で登校するとわかったときに、拒絶があらわになった表情になったけれど、他の者たちがいる場ではそのように態度に出すのは将来の王弟妃殿下としては問題だね」

「一瞬だったはずです」

「認めるんだね?」

「あ……」

「その一瞬が命取りになることがあるから気をつけようね」

「……尽力します」


 嫌いな虫が視界に入ったとか何とか誤魔化せばよかった。

 まあ、ダミアンが視界に入れたくない虫と同義なんだけど。


「それに、生徒会庶務に就任したことで驚いたのはわかるが、人気のない場所にわざわざ一人で向かうなんて愚行だったね」

「人気のない場所といっても……学園内ですよ?」

「だが実際、レティシアは嫉妬にかられた浅慮な令嬢たちに囲まれていたよね?」

「あれは、元はといえばダミアン様のせいではありませんか。彼女たちからすれば、私は婚約者という立場を利用して、皆の憧れの生徒会に潜り込んだ侵入者ですから」

「そんなこと、少し考えればわかるだろう。レティシアは王弟()の婚約者なんだ。それなのに呑気に一人で行動したのだから、本当に愚かとしかいいようがない。彼女たちがもし馬鹿な男子生徒を唆していたらどうする? それどころか、彼女たちが唆されて外部からの侵入者を許し、レティシアに害を為そうとしたら?」

「……それほどにダミアン様は恨みを買っているのですか?」

「恨みではなく、羨望と怨恨だよ」


 あの先輩たちはダミアンと婚約した私に嫉妬しての行動だったけど、ダミアン自身に恨みを持つ人たちが行動を起こしていたら?

 って、それもこれも全部ダミアンのせいじゃない。


「どう考えても、この婚約は私に損害しかないんですけど」

「そうかい? だけど、学年が違っても生徒会役員という接点のおかげでアクセルと同じ空間で過ごし、じっくり話をすることができるし、何より一つ屋根の下で暮らせるんだから、損害を上回る恩恵があるだろう?」

「それはそうですけど……って、何をおっしゃっているんですか! 一つ屋根の下って、こんな大きな屋根ですよ? たとえ同じ棟で暮らしていても、偶然出会うことなんてほとんどないに等しいじゃないですか!」

「……もう隠すこともしないんだね」

「隠しても無駄ですから」

「まあ、それはそうだね」


 もっと嫌みを言うなりしてくるかと思ったけれど、ダミアンは意外にもあっさり認めた。

 もう私がアクセル様を推しているのは諦めたのかな?

 それなら、これからの推し活がとてもやりやすくなるから助かるんだけど。


「それで? ひょっとして帰りにアクセル様と馬車に同乗することを喜んだのがダメだったんですか? あれはダミアン様から言い出されたことですよ? 私が遠慮なんてするわけないんですから、ダミアン様の失策です」

「言うね?」

「今さらですよね?」


 開き直って詰めてみたら、ダミアンはあの邪悪な笑みを浮かべた。

 怖いけど、怯んだりしないんだから。怖いけど。

 そう思ってまっすぐに見つめ返したら、ダミアンは今度はふふっと心から楽しそうに笑った。

 あのギャップ笑顔ですよ! それはダメ。やめてほしい。

 アンチダミアンでも、一瞬心を持っていかれそうになるから。


「では、最後にもう一つだけ訊いてもいいかな?」

「……どうぞ?」

「アドソン先生からは強く叱られた?」

「いえ。……遅刻した理由を訊かれて説明すると、次からは気をつけるようにと。あ、後は今は特に嫉妬を受けやすい時期だから、ダミアン様との行動は控えたほうがいいとのご忠告をいただきました」

「へえ? 親切だね」

「そうですね」


 本当に一つだけの質問かと警戒しながら促したら、どうやら事実だったらしい。

 ダミアンにしては珍しく特に絡まれることもなく(そんな要素もないから当然だけど)、あっさり納得したみたいだった。

 さすがにアドソン先生のアドバイスは余計なお世話だと思ったのか、ちょっとだけ不快そうな表情になっていたけれどね。


「それじゃ、今日はもう時間切れだな」

「ダミアン様はお忙しいようですからね」

「残念がってくれないんだ」

「嘘だとわかってしまうのに?」

「世の中には無駄でも必要なことはあるだろう?」

「意外な言葉ですね」


 ダミアンは徹底的に無駄を排除するタイプかと思ってた。

 それはともかく、早く解放してほしい。

 今日はさすがに疲れたからね。

 さっさと着替えて今日は早めにお風呂に入って、ベッドにダイブしたい。

 二日間の遅れた授業分は明日、図書館でダミアンと勉強することになっているんだから、それでよし。


「それじゃまた明日の朝一緒に登校しよう」

「先生の忠告をお伝えしたばかりですが」

「それで?」

「いえ、別に」


 明日の放課後も図書館で一緒に過ごすことになっているのに、朝も一緒とか面倒くさい。

 だけどこれ以上抵抗して、無駄にこの時間を引き延ばすのも馬鹿らしいので、素直に従うことにする。


「それでは、また明日よろしくお願いします」

「ああ。レティシアは素直が一番だと思うよ」


 出たよ。モラハラ発言。

 どうにか作り笑いで応えたら(バレてるだろうけど)、ダミアンは悪巧みをしている笑顔を浮かべたのでまたまた要警戒。


「いい子にはご褒美をあげないとね」

「……ありがとうございます」


 怪しいセリフに二歩後退してお礼を言うと、ダミアンは楽しそうに笑った。

 これは本物の笑顔だ。


「それじゃあね」


 そう言って、ダミアンはありがたいことに何も仕掛けてくることなく、部屋から出ていった。

 ひょっとして時間差で何かがある?

 ダミアンの後姿を見送り、ドアが閉まってからも警戒していると、背後でドアが開いた気配がして振り向いた。

 それからびっくり仰天。

 まさか本当にご褒美だったとは! 




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