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19.カースト


(はあ……尊い……)


 ダミアンも黙っていれば神がかったイケメンだし(悪魔だけど)、ジャンもアントニーもかっこよくて、動いて話す姿をこうして間近で見られるなんて。

 自覚はまったくなかったけど、前世でいい感じに徳を積んだのかな。

 でもちょっとだけ残念な点はあって、私がエルマンと兄妹なこと。

 まあ、もともとエルマンは私にとっては恋愛対象じゃないからいいんだけど、兄妹フィルターがかかるのか、ときめきはいっさいない。

 客観的に見てかっこいいとは思うけど、ジャンやアントニーに対してはちょっとしたドキドキがあるのに、エルマンに対してだけはスンとする。

 それが少し面白い。


「――それで、レティシア嬢はどう思う?」

「え? あ、いえ……私は庶務ですから、皆様方のお手伝いをさせていただくだけで、意見を述べるのは……」


 いきなり今後の方針について話を振られても困る。

 別に話を聞いていなかったのではないのよ。

 ただ、生徒たちに選出されたアクセル様たちと違って、私は単にダミアンのおもちゃか嫌がらせとして庶務の座に就いているだけだから。


 今の質問は学園内の生徒間の格差について。

 学園内に本来身分制度は存在しないけれど、どうしても実家の家格で上下関係が生まれているのは仕方ないと思う。

 だって、人間関係は卒業したらそのまま社交界にスライドするんだもん。

 日本では明確な身分制度はなかったけれど、どうしても学校内でカーストはあって、それは人間の性分として仕方ないものだと思う。


「レティシア、庶務だろうが関係ないよ。それこそ、今の議題にも関わることで遠慮する必要はないだろう?」

「その通りだ、レティシア嬢。それに女性としての意見も聞かせてほしい」


 ダミアンの言葉は優しく励ましてくれているようで、本当に言いたいのは「話を聞いていなかったのか?」だよね。

 それに比べてアクセル様は、冷たいようでいて優しい(と思いたい)口調で背中を押してくれた。

 突然の雷雨も止んで太陽が顔を出し、アクセル様の後光のように窓から光が差し込んでいる。

 やっぱりアクセル様は神。いや、神はアクセル様。

 うん。たとえ昨日のアクセル様のお言葉が本音だったとしても、それはそれ。

 私はアクセル様を推し続けます!

 ということで……。


「正直に申しますと、どんなに学園側や生徒会が啓蒙活動を続けようと、学園内での格差意識をなくすことはできないと思います」

「へえ?」

「なかなか言うね」

「その理由を訊いてもいいかな?」


 ダミアンやジャンは楽しげに言い、アクセル様だけが真剣に話を聞いてくれている。

 いや、ダミアンたちも話は聞いてくれているんだろうけど、お兄様も含めて面白がっている気持ちのほうが大きい。

 アントニーだけは書記に徹して俯いているので、何を考えているのかわからない。


「学園は、社会に出る前段階であって、まったく別の世界ではないからです。社会に出た瞬間、私たちは身分に縛られます。有爵家を筆頭に上流階級の中に身分の上下は存在し、今まで気安く話しができた友人に対しても敬語を必要とするようになります。それは見えない壁となり、友人たちの間に軋轢を生みます。もちろん全員が全員そうとは限りませんが、そのような方たちは学園や生徒会が何らかの働きかけをしなくても、すでに身分差を乗り越えて友情を築いています。ですから、私たちができるのは、過剰な差別をなくすことに注力することであって、みんな仲良くしましょうと強制することではありません。……と思います」


 しまった。言い過ぎた。

 ええ、学生時代はどうにかカーストの中くらいで必死に生き抜いていたからか、どうしても熱が入ってしまった。

 前世の私はみんなと違うことをしないよう、仲間から外れないように必死になりながら、カースト下位と言われるような人たちを見て安心もしていたから。

 それが悪いことだとはわかっているけど、どうしても安心がほしかった。


 そもそも今の私は偉そうに何かを言える立場ではないんだもん。

 侯爵令嬢として、王弟殿下の婚約者として、学園内でかなり高い地位にいる。

 こんな高い位置から皆さん平等にしましょう、なんて言えない。


 だからむしろ、今朝私の前に立ちはだかった先輩たちは尊敬に値するよね。

 辺境伯令嬢の先輩以外は私より身分が劣るのに、負けずに言いたいことを言おうとしていたんだから。

 ただし、それは身分だけの話。

 彼女たちは上級生という年齢的優位性と多勢という圧倒的力で私をねじ伏せようとしてきたんだもの。


 でもバカだとは思う。

 しつこいようだけど、今の私はこの学園で――というよりも、社交界でもかなり高い地位にあるんだから。

 たぶん女性の中では王妃様に次ぐ地位だと思う。

 まあ、まだ婚約者という立場になって日も浅く、既成事実の噂が面白おかしく広まって、それを耳にした先輩たちは私のことを侮ったのかもしれない。

 うん。全部ダミアンのせいだね。滅びればいいのに。

 その考えが伝わったはずはないけれど、目が合ったダミアンはまたあの悪巧みをしている笑顔で問いかけてきた。


「レティシアはできないと否定するけど、それならどうすればいいと思う?」

「え? それを考えるのが生徒会ではないのですか?」


 ダミアンもバカなの?

 私は意見を言えというから言っただけで、庶務の私が考えることではないよね?

 思わず反射的に答えてしまったら、アクセル様の麗しい笑い声が聞こえてきた。

 まさか、この笑い声を実際に聞くことができるなんて!

 素敵な笑顔もこの目に焼き付けようとアクセル様をガン見する。


(ああ、『氷雪の王子様』が笑っていらっしゃる……!)


 転生だか転移だか憑依だかわからないけれど、坂町晴乃とレティシアの人生を足しても足りないくらい、生きていてよかった!

 他にもジャンの豪快な笑い声やエルマンお兄様、アントニーの笑い声まで聞こえるけど、それはどうでもいい。

 視界の端に映るダミアンの悪魔な笑みも今は気にしていられない。

 ああ、我が人生に悔いなし!




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